TSMCは最高益なのに株安 — 中国メモリー最大手CXMT、時価総額13.9兆円の上場が突きつけた「次の変数」

導入
2026年7月16日、台湾のTSMCが四半期決算を発表した。売上高は前年比+36%、粗利率・営業利益率ともに会社ガイダンスを上回り、2026年の設備投資計画を$52〜56billionから$60〜64billionへ上方修正した。「AI関連の投資は加速している」ことを、AIサプライチェーンの最上流に立つ企業が数字で裏付けた形だ。
ところが同じ日、日経平均株価は前日比1,915円安の66,835円まで急落した。前日にオランダのASML決算を好感して1,008円上昇していた分を、たった1日でほぼ倍返しする下落幅だ。キオクシアは終値で15%安、半導体製造装置のレーザーテックも一時14%安まで売られた。
「AI半導体の業績は絶好調なのに、なぜ株価は下がるのか」。この一見矛盾した動きの答えは、中国のメモリー最大手CXMT(長鑫存儲技術)の上場計画にある。
何が起きたか
TSMCの決算内容自体は文句なしだった。売上高40.20billionドルは会社ガイダンス上限に到達し、粗利率67.7%・営業利益率60.3%はいずれもガイダンスを上回った。純利益・EPSは前年比+77.4%。2026年通期の売上成長率見通しも「30%台」から「40%台前半」へ引き上げられ、アリゾナへの追加投資1,000億ドルも発表された。それでも米国市場でTSMC株(ADR)は決算発表後に下落した。年初来ですでに4割近く上昇していたための「材料出尽くし」による利益確定売りだ。
そこに重なったのが、中国メモリー最大手CXMTのニュースだった。CXMTは上海証券取引所のSTAR市場(科創板)に7月27日に上場する予定で、IPO価格は8.66元/株、想定時価総額は約856億ドル(円換算で約13.9兆円)。グリーンシューオプションを含めると調達額は最大98億ドル(約1.6兆円)にのぼり、今年のアジア最大級のIPOになる見通しだ。CXMTは世界のDRAM市場で約7.7〜8%のシェアを持つ世界4位のメーカーで、直近ではAI需要を追い風に急速な黒字転換を遂げている。2025年通期の純利益が19億元だったのに対し、2026年第1四半期だけで248億元の純利益を計上したと報じられている。
このニュースが「メモリーの供給過剰」懸念を市場に呼び起こした。7月15日の米国市場では、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の構成30銘柄すべてが下落し、指数は4%を超える下げとなった。マイクロンは6.00%下落して時価総額1兆ドルの節目を割り込み、サンディスクは10.80%、SKハイニックスのADRは8.21%それぞれ下落した。その流れが翌16日の東京市場に波及し、日経平均は始値の時点ですでに前日比851円安。大引けでは1,915円安まで下げ幅を拡大し、東証プライム市場では8割を超える銘柄が値下がりする全面安となった。
影響の整理
この一日の値動きが示しているのは、AI半導体セクターの株価を動かす要因が「需要側」と「供給側」の二つに分かれ始めたということだ。TSMCやASMLの決算が示す旺盛な需要は、これまで株価にとって単純な追い風だった。しかし今回、中国という新しい供給主体の台頭が、その単純な図式を崩しつつある。
特に注目すべきは、CXMTが単なる安価な汎用DRAMメーカーにとどまらない可能性だ。同社は2026年末までにHBM3(AI向け高帯域幅メモリー)の量産を開始する計画で、生産能力の約2割をこれに割り当てる方針だという。これまで市場は「中国メモリーは輸出規制でAIサーバー向けの先端メモリーには参入できない」という前提で楽観視してきたが、この前提が揺らぎ始めている。ただし、米国は2026年6月時点でCXMTをエンティティリスト(禁輸対象リスト)に追加することを、対中通商交渉を優先して見送っている。規制強化に転じるかどうかは、今後の米中交渉の帰趨次第だ。
日本市場では、メモリー完成品を扱うキオクシアが最も直接的な逆風を受けた形になった一方、半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンやレーザーテックは、TSMCやCXMT双方が装置の発注元になりうるという意味で影響がやや複雑だ。需要拡大の恩恵と価格競争圧力の両方を同時に受ける構図になっている。
見通し
今後の焦点は大きく二つある。一つは7月27日に予定されているCXMTの正式上場だ。IPO価格が決まった段階と、実際に上場して値が付く段階は別物であり、上場後の初値・出来高の反応で「思惑先行だったのか、実需を伴うものなのか」が見えてくる。もう一つは、7月20日前後に予定される米国の対中関税措置の見直しと、それに連動しうる半導体輸出規制の方向性だ。関税と半導体規制という二つの対中カードが同時に動いているタイミングであり、どちらに転んでも市場への影響は小さくない。
7月はすでに「業績が過去最高でも株価が急落する」という場面が複数回起きている。AI関連株への期待値の水準がすでに高い位置にあることの裏返しとも言え、次の決算シーズンでの実績確認まで、神経質な値動きが続く可能性がある。
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本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。