マーケット深掘りノート

「ホルムズ通航料20%」は24時間で消えた — それでも原油が下がらない理由

「ホルムズ通航料20%」は24時間で消えた — それでも原油が下がらない理由の図解ポスター

導入: 撤回のスピードに驚いた人へ

7月13日(米国時間)、トランプ大統領は米国を「ホルムズ海峡の守護者」と称し、海峡を通る貨物に20%の「払い戻し」を求めると表明しました。世界の原油の約2割が通る海峡での前例のない徴収宣言に、ブレント原油は+9.6%と2020年5月以来の急騰。ところが翌14日、この通航料はあっさり撤回されます。

「なんだ、騒ぎは終わりか」— そう読むのは早いかもしれません。この記事では、撤回の中身と、撤回後も原油が高止まりしている理由を整理します。

事実: 何がどう変わったのか

トランプ大統領は7月14日(米国時間)、自身のSNSでこう表明しました。「中東首脳との極めて生産的な対話に基づき、20%の米国払い戻し料金を、湾岸各国が米国に対して行う貿易・投資合意に置き換えることを決めた」(The Hill、gCaptain等の報道)。

ポイントは3つあります。

第一に、通航料は「湾岸マネー」に化けました。サウジアラビア・カタール・UAE・バーレーンの4カ国は、イラン戦争前からすでに総額2兆ドル(約324兆円、1ドル162円換算)超の対米投資をコミットしており、今回「新たな投資」を積み増すとされています。ただし国別の金額も文書も公表されておらず、詳細は未確認です。報道によれば、湾岸諸国首脳からの働きかけが撤回につながったとされます(毎日新聞)。

第二に、イラン向けの海軍封鎖は予定通り発効しました。日本時間7月15日朝5時から、イランの港湾に出入りする船舶とイラン貨物を運ぶ船が対象です。中立国の船は通航できますが、臨検(立ち入り検査)の対象になります。

第三に、戦闘は続いています。米軍は3日連続でイランを攻撃し、イラン革命防衛隊はタンカーを攻撃。7月13日には3隻のタンカーが被弾し、死者も出ました。海峡の通航量は1日4〜12隻と、平時(約130〜138隻)の1割以下に落ち込んだままです(gCaptain、Al Jazeera)。

影響整理: 原油は「急騰」から「高原」へ

7月14日のブレント原油は、日中に一時87ドルと1ヶ月ぶりの高値をつけたあと、終値は84.73ドル(+1.7%)。前日の+9.6%に比べると上昇は大きく鈍りました。通航料という予測不能なコストが消え、米軍の護衛下で1日850万バレルが通航できている実績が確認されたためとみられます。

ただし、下がる材料も見当たりません。通航量は平時の1割以下、タンカーへの攻撃は継続、船体保険は戦争リスクで高止まり。2月末の開戦以降、ブレントは約19%上昇しています。アナリストの見方も「物理的な供給不足が顕在化すれば100ドルもあり得る」(TD証券)という警戒と、「70ドル台への回帰」という楽観に割れたままです。

つまり原油は、一撃型の「スパイク」から、80ドル台半ばに張り付く「高原」へと局面が変わりつつあります。効き方も変わります。スパイクは市場心理を一日で壊しますが、高原はガソリン価格や電気料金、企業のコストにじわじわ効き続けます。

日本株では、7月14日の東京市場で業種別上昇率の1位が鉱業、2位が海運でした。日経平均が500円高と全面高になった日でも、資源・海運が先頭にいたことは、市場がすでに「原油の高原」を織り込み始めたことを示しています。原油高の恩恵を受ける資源開発(INPEXなど)や、タンカー運賃の高止まりが追い風の海運と、燃料コストを被る空運・電力の明暗は、前日までと同じ構図が長期化する形です。

見通し: 「CPIの安心感」との衝突が8月に来る

もう一つ、見逃せない対立軸があります。同じ7月14日に発表された米6月CPIは前月比-0.4%と約6年ぶりの大幅低下で、市場には利上げ観測の後退という安心感が広がりました。しかしこの物価安の主因はガソリン価格の下落、つまり6月の停戦後に原油が下がっていた時期の置き土産です。

ブレント85ドル前後の高原が続けば、8月12日頃に発表される7月分CPIでは、ガソリン要因が逆回転します。「物価は落ち着いた」という今の相場の前提は、原油しだいで1ヶ月後に覆る可能性がある。CPIの安心感と原油の高原は、どちらかが折れるまで併存できない関係です。

また、「湾岸が投資で通航料を消した」という前例は、日本にとって他人事ではありません。ホルムズ海峡への依存度が高いのは日本・韓国・インドといったアジアの輸入国です。7月20日と24日には米国の関税制度の期限も控えており、「安全保障や市場アクセスの対価として対米投資を求める」というパターンが、次にどこへ向かうのかは注視が必要です。

当面の注目点は、封鎖発効後の臨検の実態(中立国の船、特にLNG船がスムーズに通れるか)、湾岸投資合意の中身が文書化されるか、そして日本政府のガソリン補助金(激変緩和策)の増額有無です。

まとめ

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本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。