マーケット深掘りノート

米関税「7/24の崖」に隠れたもう一つの論点 — Section 122失効・新301関税・日本は12.5%案

米関税「7/24の崖」に隠れたもう一つの論点 — Section 122失効・新301関税・日本は12.5%案の図解ポスター

2026年7月後半、市場の関心は半導体・AI投資への懸念や中東情勢に集中している。しかしその陰で、米国の対日関税をめぐる制度そのものが大きく切り替わろうとしている。

現行の緊急関税(Section 122、10%)は、司法判断とは別に法律上7月24日に失効する。政権はこれと入れ替わりで、新しい法的根拠に基づくSection 301関税への移行を進めており、その一つの案では日本は12.5%の関税グループに分類されている。さらに別枠で、鉄鋼・自動車・半導体などを対象とする「構造的過剰生産能力」に関する調査も、同じ7月24日を完了目標としている。

この論点は、半導体株の急落やホルムズ海峡情勢に比べて報道量が少なく、SNSでの言及も限定的だ。しかし2025年に日米間で合意した「関税15%上限」の外側に新税率が積み増されるかどうかは、自動車をはじめとする日本の輸出産業にとって無視できない影響を持つ。

7月24日に収斂する3つの関税トラック

① 現行の10%関税(Section 122)は法律上7/24に失効する

まず現行の10%緊急関税(Section 122)の経緯を整理する。2026年2月20日、米連邦最高裁は6対3の判断で、国際緊急経済権限法(IEEPA)が大統領に関税賦課権限を与えていないとの判断を下した。この判断を受け、トランプ政権は別の法的根拠である1974年通商法Section 122(国際収支不均衡への一時的対応を根拠とする関税権限)に基づき、大統領布告により10%の輸入サーチャージを新たに課した。

ところが2026年5月7日、米国際貿易裁判所(CIT)はこの布告についても「法が求める国際収支赤字の種類を特定していない」として違法と判断した。ただし、この判断に基づく恒久的な差止命令は、原告適格が認められた3者(ワシントン州、Burlap and Barrel社、Basic Fun社)にのみ適用される限定的なもので、他の輸入業者には引き続き10%の関税が課され続けている。そしてこのSection 122の関税権限自体が、制度上いずれにせよ2026年7月24日に失効することが決まっている。

② 「強制労働」根拠の新301関税 — 日本は12.5%グループ

政権はこの失効に合わせ、既に準備を進めていた別の関税措置への切り替えを狙っているとみられる。その一つが、2026年6月2日にUSTR(米通商代表部)が発表した「強制労働」を根拠とするSection 301関税だ。対象は60の国・地域におよび、提案されている税率は2段階に分かれている。

強制労働品の輸入禁止措置を実施済み、あるいは実施を約束している国・地域には10%、それ以外には12.5%が提案されている。10%グループはカナダ・メキシコ・EU・英国・台湾など14〜15カ国程度とみられ、日本はこのグループには含まれず、中国・韓国・インド・ベトナムなどとともに12.5%グループに分類されている。

パブリックコメントの期限は7月6日、公聴会は7月7日に開催された。最終ルールの発効時期は公式には未定だが、実務者の間ではSection 122失効(7月24日)に合わせた最終化が意識されている。

③ 「構造的過剰生産能力」調査 — 税率未定のまま完了目標が7/24

これとは別に、もう一つの関税トラックが並行して進んでいる。2026年3月11日、USTRは中国・EU・韓国・台湾・日本など16の国・地域を対象に、「構造的過剰生産能力」に関するSection 301調査を開始した。対象セクターには自動車・鉄鋼・半導体・機械など幅広い品目が列挙されている。

日本については、「非市場的要因に支えられた不採算企業の存続」や、自動車・自動車部品などでの対米貿易黒字を伴う構造的過剰能力の存在が指摘されている。この調査の完了目標日も、奇しくも同じ7月24日だ。ただし7月19日時点で、具体的な提案税率はまだ公表されていない。

日米合意の「15%上限」はどこまで守られるのか

一方、日本は2025年7月の日米合意で、自動車・自動車部品の追加関税を25%から15%に半減し、相互関税についても15%を上限とすることで合意していた。2026年6月2日には、赤沢亮正経済産業大臣がラトニック米商務長官との会談で「日本に対して昨年の合意を超える追加関税は課されないことを米側に確認済み」と説明したと報じられている。

日本への影響 — 焦点は「上限の外側に積み増されるか」

ここで重要なのは、この「合意を超える追加関税は課されない」という確認が、強制労働301や構造的過剰生産能力301という、相互関税・自動車関税とは別の法的根拠に基づく関税にまで及ぶのかどうかが、現時点の一次情報からは明確に確認できていないという点だ。もし強制労働301の12.5%が、既存の15%上限の内側で吸収される扱いになるなら、日本への実質的な影響は限定的かもしれない。しかし別建てで積み増される場合、実質的な関税負担が15%を上回る可能性がある。

もう一つの構造的過剰生産能力301は、税率の上限も時限の定めもない制度であるため、仮に発動されれば強制労働301よりも長期にわたる影響を持ちうる。対象セクターに鉄鋼・自動車・半導体という日本の主力輸出産業が名指しされている点も見逃せない。

鉄鋼: 日本製鉄の決算が「過剰生産能力」論と符合する皮肉

興味深いことに、EDINET(有価証券報告書データベース)で日本製鉄の直近決算を確認すると、2026年3月期のROEは0.31%と、前期(2025年3月期)の6.89%からほぼ消失している。EPSは前期比マイナス95.3%、フリーキャッシュフローは2.12兆円の赤字に転落した一方で、売上高は前期比プラス15.7%の増収だった。

増収でも大幅減益という構図は、供給過剰による価格競争の帰結として、米国側が問題視する「構造的過剰生産能力」の論点と表面的に符合する。もっとも、これは日本製鉄個社の決算数字と米国の政策論拠との対応関係を示しているにすぎず、直接の因果関係を検証したものではない点には注意が必要だ。

自動車: 収益性は健全だが、すでに減益基調

自動車セクターについても、トヨタ自動車のEDINETデータ(2026年3月期、有価証券報告書の期末株価ベース)を見ると、ROEは10.1%、PERは10.7倍と収益性自体は健全な水準にあるものの、営業利益・純利益はいずれも前期比で2割前後の減益となっている。この減益がどこまで既存の関税コストによるものかは、本記事の範囲では切り分けられていない。

今後の見通しと注目日程

7月20日から24日にかけて、この関税をめぐる複数のトラックが同時に動く可能性がある。

強気シナリオは、強制労働301の最終ルールで日本の実質負担が既存の15%上限の内側にとどまることが明確になり、構造的過剰生産能力301も具体的な税率提案なしに先送りされるケースだ。

弱気シナリオは、強制労働301の12.5%が別建てで課され、構造的過剰生産能力301でも鉄鋼・自動車・半導体に新たな高税率が提案されるケースである。

当面の注目日程を整理しておく。

いずれにせよ、この論点はここ数日の半導体株急落やAI投資への懸念、中東情勢に比べてメディアやSNSでの注目度が低く、実際に発表があった場合のサプライズの余地は相対的に大きいとみられる。7月21日の東京市場再開後の反応、そして7月24日前後の米当局の動きに注目したい。

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本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。