マーケット深掘りノート

ホルムズだけじゃない。紅海でも封鎖宣言が出た日に、原油が語っていたこと

ホルムズだけじゃない。紅海でも封鎖宣言が出た日に、原油が語っていたことの図解ポスター

導入

2026年7月20日、イエメンのイラン同盟勢力ホーシー派が「サウジアラビアに対する即時海上封鎖」を宣言した。

対象はバブ・エル・マンデブ海峡。紅海とアデン湾を結ぶ、幅わずか29kmの海峡だ。ここを日量740万バレルの原油が通過している(2026年6月時点)。

これまで市場の話題は、ペルシャ湾の入り口・ホルムズ海峡に集中していた。イランの「再封鎖」宣言、米軍の海上封鎖、通航料構想と撤回、そして米兵の戦死——ここ2週間、中東発のニュースはずっとホルムズを軸に回っていた。

そこに今回、もうひとつの海峡が加わった。原油の輸送ルートが、南北二つの回路で同時に脅かされる展開になっている。

何が起きたか

ホーシー派が封鎖の理由として掲げたのは「目には目を」という論理だ。サウジアラビアが約12年にわたってイエメンの港湾・空港へのアクセスを制限してきた「不当な包囲」への報復だとしている。

対象は、サウジアラビア関連の船籍・所有・運航船舶、サウジ向けまたは発の船舶、そしてサウジの紅海側港湾。サウジの紅海側港湾ヤンブーからは、直近で日量約400万バレルの原油が輸出されている。

もしホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡が同時に閉鎖された場合、世界の石油・ガス供給の約25%が影響を受けるという試算もある(Al Jazeera、2026年7月20日)。もちろんこれは最悪シナリオを機械的に足し合わせた数字であり、実際にそこまでの通航減少が起きるかはまだわからない。

背景にはもう一段の伏線があった。Reuters が7月17日時点で報じたところによれば、イランは以前から、米国がイランのエネルギーインフラを攻撃した場合に紅海を封鎖するようホーシー派に要請していたという。イラン指導部内で協議されていたとされ、複数のイラン当局者と地域筋がこの経緯をReutersに証言している。今回のホーシー派の宣言は、その伏線が実際の行動に移った形だ。

市場はどう反応したか

数字で見ると、今回の宣言の「効き方」が興味深い。

紅海(バブ・エル・マンデブ経由)の戦争保険料は、封鎖宣言前の7月17日(金)時点で船体価値の0.3%だったのが、宣言後の7月20日(月)には0.75%へと急騰した。Reuters が保険業界関係者への匿名取材をもとに報じた数字だ。倍率にすると約2.5倍。7日間の航海あたり、数十万ドル規模の追加コストに相当するという。

これはホルムズ海峡の戦争保険料(船体価値の3〜10%。危機前は0.25%だった)とは別の航路・別の保険料率だ。両方を同じ数字だと勘違いしないよう、ここは丁寧に分けておきたい。

注目したいのは、この保険料急騰が「実際にタンカーが撃沈されたから」起きたわけではないという点だ。宣言が出ただけで保険料が跳ね、船会社が自主的に迂回を選ぶインセンティブが生まれる。つまり、一発の攻撃もなくても、宣言そのものが実質的な航路遮断効果を持ちうる。地政学リスクが「情報戦」として市場に伝播する典型的な構図だと言える。

原油価格の反応も明確だった。Brent原油は日中一時91.42ドルまで上昇し、6月11日以来の高値をつけた。清算値(終値)は前日比+1.3%の89.22ドル。前の週(7月13〜17日)には+15.9%と、4月以来最大の週間上昇を記録したばかりだった。

一方で米国株式市場は、7月20日の取引を小幅安で終えた。ダウ工業株30種平均は307.16ドル安(-0.59%)の51,839.26ドル、S&P500種指数は-0.19%、ナスダック総合指数は-0.05%。原油高への警戒はあったものの、ダウの下げにはApple株の2%超の下落も影響したと報じられている。

興味深いのは、同じ7月20日のロンドン市場の午前中、イラン外務省の報道官が外交的解決への期待をにじませる発言をしたと伝えられ、これを受けて米国市場のセンチメントが一部改善した点だ。封鎖を宣言する勢力と、外交解決を示唆する当局者が同じタイミングで動いている。強硬派と穏健派の綱引きなのか、外交と軍事圧力を並行させる交渉戦術なのか、この記事の時点では判断材料が足りない。

日本への影響をどう整理するか

まず押さえておきたいのは、日本銀行がすでに一手を打っているという点だ。日銀は2026年6月16日の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%程度から1.0%程度に引き上げた。中東情勢を受けた原油高が物価の上振れリスクになる、という判断が背景にあったと報じられている。

その判断のあとに、原油はさらに90ドル台まで上昇した。次回の日銀会合は7月31日に予定されている。追加利上げの論点が強まるかどうかが、当面の焦点のひとつになりそうだ。ただし、利上げは円高要因、原油高・地政学リスクは円安要因として綱引きになりやすく、為替がどちらに振れるかは現時点では見通せない。

セクター別に見ると、まず海運会社は今回の「二正面リスク」を最も直接的に受ける立場にある。戦争保険料の負担増、迂回航路のコスト増という逆風がある一方で、喜望峰迂回の常態化は世界的な船腹需給を引き締め、運賃を押し上げる効果もある。コストと運賃、どちらが個社の収益に強く効くかは、保有する船隊がどの航路を多く使っているかによって変わってくる。

原油の川上を持つ企業にとっては、Brent高は素直に増収要因だ。逆に、原油を仕入れて製品化する企業にとっては、仕入れコストの増加と精製マージン・在庫評価益との綱引きになる。電力会社についても構造は同じで、LNGや原油の調達コストは増えるが、政府による電気・ガス代の補助金(2026年7〜9月、標準家庭で3カ月合計5,000円程度)が最終消費者への価格転嫁を部分的に和らげる。

米国側では、Exxon MobilやChevronのような石油メジャーは原油高の恩恵を受けやすい一方、タンカー会社や保険・再保険業界(Lloyd's系、P&Iクラブなど)は、コスト増と収益増が表裏一体になっている。

そしてもうひとつ見逃せないのが、7月22日に控えるAlphabet・Tesla・Intelの決算だ。とりわけAlphabetは2026年通期の設備投資ガイダンスを1,800億〜1,900億ドルとしており、これは2023年の323億ドルから5倍超に膨らんだ数字になる。中東発のリスクオフとAI投資の持続性への懐疑が同じ週に重なるタイミングでの決算という点は、心に留めておきたい。

まとめ

ホルムズ海峡の危機が長期化するなかで、紅海という「もうひとつの回路」にも封鎖リスクが宣言された。これが今回の一番大きな変化だ。

数字で興味深いのは、実際の攻撃がまだ確認されていない段階で、保険料という市場のメカニズムがすでに反応していることだ。0.3%から0.75%への上昇は、地政学リスクが「宣言」の段階で実体経済のコストに転化する様子を、かなり具体的に示している。

日本への波及は、原油高そのものと、それに対する日銀の金融政策判断という二つの経路で進んでいる。7月21日の東京市場の反応、7月22日のビッグテック決算、7月31日の日銀会合と、今週は材料が立て込んでいる。ひとつひとつがどう転ぶかを、事実ベースで追っていきたい。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。