ROE92.2%の3-Dマトリックス――本当に続く利益はどれだけか
スリー・ディー・マトリックスの2026年4月期ROEは92.2%でした。精密機器35社の中央値9.2%を大きく上回ります。しかし、税引前利益41.52億円のうち26.61億円、約64%は為替差益です。
では、初めて黒字になった本業まで一過性なのでしょうか。今回の問いは一つです。自己組織化ペプチドの止血材で生まれた営業利益は、数年続く稼ぐ力へ変わったのでしょうか。
私のエッジ仮説は、ROEだけを見ると為替差益を競争力と取り違え、反対に純利益の反動減だけを見ると米国で起きた採算の転換を見落とす、というものです。利益を営業段階と営業外に分け、地域別の販売、現金化、研究開発まで突き合わせます。
目次
この会社は何をしている会社か
スリー・ディー・マトリックスは、MIT発の自己組織化ペプチド技術を使い、医療機関向けの吸収性局所止血材「ピュアスタット」などを開発・販売する会社です。主な使用先は外科手術と消化器内視鏡。2026年4月期の連結売上高は108.86億円、従業員は129人、東証グロース上場です。EDINET DBの精密機器比較では売上高5年CAGRが34社中1位、営業利益率は35社中14位でした。
92.2%を、続く利益と続かない利益に分ける
検証には、2026年4月期の有価証券報告書の連結財務、経営者による分析、事業リスク、研究開発活動を使いました。粗利率は(売上高-売上原価)÷売上高、営業利益率は営業利益÷売上高です。業界比較はEDINET DBの33業種分類で、医療機器専業だけの比較ではありません。
| 連結 | 2022年4月期 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 15.06億円 | 69.34億円 | 108.86億円 |
| 営業利益 | ▲27.37億円 | ▲11.56億円 | 13.36億円 |
| 粗利率 | 43.9% | 63.8% | 78.7% |
| 営業CF | ▲29.03億円 | ▲17.14億円 | 3.97億円 |
この表から言えるのは、黒字化が為替だけでは説明できないことです。2026年4月期は売上が57.0%増えた一方、売上原価は25.10億円から23.14億円へ減りました。粗利率の改善が、営業体制と研究開発費を吸収しました。営業利益率12.3%は業界中央値8.8%を上回りますが、上位四分位13.3%には届きません。高成長は確認できても、高収益が定着したと呼ぶにはまだ1年です。
競争力は、素材より「使う場所」を絞ったことにある
会社は、人工合成物で生物由来品と差別化でき、安全性が高いと説明しています。各国の承認と保険収載、医師が処置手順へ組み込むまでの臨床データは参入の壁になります。ただし、有報は競合製品の性能向上や保険償還価格の変更もリスクに挙げています。特許だけで価格を自由に決められる事業ではありません。
私は、現在の競争力は素材そのものより、止血材の優位性が高い消化器内視鏡へ営業資源を絞ったことにあると読みました。会社は、臨床試験を不要または小規模にできる開発を優先する方針も示しています。承認に必要な時間と費用を抑え、同じ基盤技術を適応拡大へ使う。小規模企業が研究開発費を回収する経路です。
| 2026年4月期の製品販売 | 売上高 | 構成比 |
|---|---|---|
| 米国 | 62.49億円 | 57.4% |
| 欧州 | 25.95億円 | 23.8% |
| 日本 | 12.56億円 | 11.5% |
| その他 | 7.83億円 | 7.2% |
この表から言えるのは、競争力の検証場所が米国に移ったことです。米国子会社は売上62.90億円、経常利益11.08億円でした。一方、欧州子会社は売上26.04億円で経常損失2.41億円です。同じ止血材でも、販売規模と営業効率は地域で違います。全社黒字が続く条件は、米国の成功を守りながら欧州の採算を改善することです。
構造的な行方――需要、コスト、資本配分
需要には伸びしろがあります。会社は小児心臓手術、扁桃腺手術、放射線直腸炎、粘膜創傷治癒などへの適応拡大を進めています。2027年4月期計画は売上高134.22億円、前期比23.3%増です。既存の消化器内視鏡が土台になり、承認済み用途が増えれば、同じ営業網から売上を重ねられます。
コストは軽くありません。2027年4月期の研究開発費計画は11.42億円で、前期6.40億円から78%増えます。それでも会社は営業利益16.52億円、同23.7%増を計画し、営業利益率は12.3%で横ばいです。増収が研究開発の再加速を吸収できるかが、次の段階です。
資本配分には履歴を含めた確認が要ります。2026年4月期は営業CFが少なくとも直近5年で初めて3.97億円の黒字になりましたが、営業利益の約30%にとどまります。売掛金は38.7%、在庫は26.3%増えました。成長に必要な運転資金です。同時に、2022年4月期から発行済株式数は約5,832万株から約1億2,798万株へ増えています。今後の価値を決めるのは、売上成長そのものではなく、営業CFで研究開発と運転資金を賄える段階へ移れるかです。
会社が有報で挙げる主なリスクは、薬事規制、競合品、保険制度、原材料調達、欧州販売のFUJIFILM依存です。これとは別に、私が開示数字から重視する論点は、売上の伸びが運転資金を上回り、外部調達に頼らず研究開発を続けられるかです。
株価への含意――市場は、もう「一過性」だけを見ていない
Yahoo!ファイナンスの時系列で確認できる2026年8月21日終値359円を使うと、会社予想EPS12.42円に対する予想PERは約28.9倍、2026年4月期BPS51.08円に対するPBRは約7.0倍、時価総額は約459億円です。現値とEDINETの期末株式数・1株指標から再計算した機械的な試算です。
会社予想では営業利益が23.7%増える一方、純利益は為替差益の反動で61.7%減ります。予想PER28.9倍とPBR7.0倍は、黒字を一度きりとみなす評価ではありません。市場は、米国成長と営業利益率12%前後の定着をかなり織り込んでいます。最初の仮説は半分外れました。本業の転換はROEから見えにくい一方、株価はすでにその転換を待つ水準ではありません。
この読みの前提は、米国売上が2桁成長を続け、全社粗利率が70%台、営業利益率が12%前後を保ち、営業CFが黒字であることです。反証条件は、米国売上が前年同期比で減る、粗利率が70%を割る、欧州の損失が拡大する、または売掛金と在庫の増加で営業CFが再び赤字になる場合です。反対に、研究開発費を増やしても営業CFが営業利益へ近づけば、利益の質が一段上がったと確認できます。
限界と、次に見るポイント
地域別売上は開示されていますが、製品別の数量・単価と地域別営業利益は未確認です。粗利率改善を価格、製品構成、仕入条件に分解することもできません。PBRは直近有報のBPS、PERは会社予想EPSを使った8月21日終値ベースで、その後の株価変動を反映しません。
次は2026年9月16日予定の2027年4月期第1四半期決算で確認します。日程はTradingViewの決算カレンダーを8月24日に確認したもので、変更時は会社IRを優先します。決算短信の「経営成績」と地域別販売で米国売上、粗利率、営業利益率を、キャッシュフロー開示時には売掛金・在庫と営業CFを見ます。ROEではありません。止血材が現金を生む速度を追います。
本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。