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利益率35.0%とマイナス2.4%が同居する――ナカニシの本当の稼ぐ力はどこにあるか

・ 約7分で読めます ・ 文責: マーケット深掘りノート編集部

ナカニシの2025年12月期は、親会社株主に帰属する純損失が23.98億円でした。しかし、営業利益は140.90億円、営業キャッシュ・フローは166.49億円です。

赤字なのに、現金は稼いでいる。ここに違和感があります。

原因は、2023年に買収した米国DCI Internationalののれんに計上した137.67億円の減損です。減損は現金流出を伴わない一方、DCI自体の採算悪化を受けた会計処理でもあります。「一過性だから無視」で済ませると、買収後の統合問題を見落とします。

今回の問いは一つです。ナカニシの高収益は何に支えられ、DCIへの投資を抱えても続くのでしょうか。

目次
  1. ナカニシはどんな会社か
  2. 見落とされやすいのは、最終赤字の奥にある事業差です
  3. 競争力――利益のエンジンは歯科、次の柱は外科です
  4. 構造的な行方――需要は追い風、コストと資本配分は両刃です
  5. 株価への含意――市場はすでに「減損後」を見ています
  6. 推論――強い本体が、買収事業を立て直せるか
  7. この検証で言えないこと
  8. 次に見るのは、DCIの売上ではなく利益率です

ナカニシはどんな会社か

栃木県鹿沼市に本社を置く精密機器メーカーです(東証スタンダード、証券コード7716)。EDINETの会社概要では、事業は「歯科医療用機器、外科医療用機器、一般産業用精密機器の開発・製造・販売」と登録されています。主力は歯科医院で使う回転機器(ハンドピース=歯を削る機械)で、有価証券報告書によれば135カ国以上で販売しています。歯科用ハンドピースでは世界上位のシェアを持つと投資情報媒体では紹介されますが、有報に市場シェアの記載はありません。

規模は、2025年12月期の4事業合計で売上高811.79億円です。2026年12月期の会社予想は売上高944.80億円(前期比16.4%増)、営業利益186.49億円(同32.4%増)で、減損のあった前期からの回復を見込んでいます。業種分類は「精密機器」で、EDINET DBの同業50社と比べると営業利益率17.4%は中央値8.2%の2倍以上、業種内13位です。なお2026年10月1日を効力発生日とする1株→2株の株式分割を予定しているため、これ以降に株価やEPSを見るときは基準が変わります。

見落とされやすいのは、最終赤字の奥にある事業差です

私のエッジ仮説は、全社の最終利益だけを見ると、歯科・外科の強さとDCIの弱さが相殺され、会社の実力を見誤るというものです。反対に、減損を除いた利益だけを見ると、米国関税で当初計画を下回った買収事業の課題が消えてしまいます。

そこで、2026年3月27日提出の有価証券報告書から5年の損益とキャッシュ・フロー、2025年12月期のセグメント採算、事業等のリスク、設備投資計画を確認しました。業界比較はEDINET DBの精密機器50社を使い、営業利益率の中央値と四分位をそろえています。金額は円を億円へ換算しました。

手法はここまでです。見るべきは、どの事業が利益を作り、どの事業がそれを薄めたかです。

競争力――利益のエンジンは歯科、次の柱は外科です

2025年12月期売上高営業利益営業利益率
歯科事業481.97億円168.53億円35.0%
DCI事業205.38億円-4.90億円-2.4%
外科事業55.38億円26.67億円48.2%
機工事業69.06億円8.17億円11.8%

この表から分かるのは、売上の59.4%を占める歯科事業が、全社の利益を支える中心だということです。外科事業は規模こそ歯科の約9分の1ですが、利益率は48.2%あります。一方、売上の25.3%まで大きくなったDCI事業は赤字でした。

全社営業利益率17.4%は、精密機器50社の中央値8.2%を上回り、上位四分位の境目16.3%もわずかに超えます。業界内13位です。しかも歯科事業は2021年の40.7%から低下したとはいえ、2025年も35.0%を保っています。単年だけの高採算ではありません。

なぜ続くのか。有報によれば、ナカニシは精密マイクロモーターと高速回転の「削る」技術を歯科、外科、工業へ横展開し、135カ国以上で販売しています。医療機器の品質規格、各国の認証、販売・サービス網を積み重ね、歯科用ハンドピースだけでなく、予防歯科の超音波スケーラーや低侵襲手術向け骨切削機器へ用途を広げています。価格決定力を直接示す開示はありません。それでも、高い採算が複数年続き、同じ基盤技術が別診療科へ広がっていることは、製品・品質・販路の組み合わせが参入障壁として働いている傍証です。

構造的な行方――需要は追い風、コストと資本配分は両刃です

需要面では、会社は超高齢化に伴う予防歯科、訪問診療、低侵襲手術を成長領域に置いています。工業では労働人口減少に対応する工場自動化を狙います。これは「高齢化だから伸びる」という一般論ではありません。歯科の回転機器で得た顧客接点に非回転の予防製品を重ね、外科では骨切削の刃具まで品ぞろえを増やすことで、同じ販売先から得る売上を広げる経路です。

コスト面は楽観できません。有報は為替、各国の医療機器規制、新興国の価格競争を挙げています。DCIは米国の関税政策で利益率が下がり、2025年の営業損失は4.90億円でした。のれん償却12.57億円を足し戻すと事業の償却前利益は残りますが、買収時の期待収益には届かなかったため減損に至りました。会計上の一過性と、事業上の課題は別です。

資本配分では、2025年に研究開発費40.03億円、設備投資53.02億円を投じました。さらに米国で、ナカニシの販売・サービス拠点に21億円、DCIの工場に54億円を2028年までに投じる計画です。需要を取り込む能力増強である一方、採算未達のDCIへ追加資金を入れる判断でもあります。今後の稼ぐ力は、歯科・外科の高収益を守りながら、DCIの赤字を止められるかで決まります。

株価への含意――市場はすでに「減損後」を見ています

2026年8月18日の終値は3,185円です。Yahoo!ファイナンス表示では、時価総額2,937.15億円、会社予想PER19.53倍、実績PBR2.18倍でした。これは有報期末値ではなく、8月18日現値ベースです。

この評価からは、市場が2025年の最終赤字を恒常的な赤字とは見ていないことが読み取れます。すでに2026年12月期の利益回復と、歯科・外科の高採算を相応に織り込んでいます。したがって、今回の数字だけから「赤字なのに割安」とは言えません。株価とのズレが生まれるとすれば、焦点は減損の戻りではなく、DCIの採算が市場想定以上に改善し、全社営業利益率が再び上向く場合です。

推論――強い本体が、買収事業を立て直せるか

私の読みの前提は、歯科事業が30%台の営業利益率を維持し、外科事業の成長投資が高採算のまま売上へつながることです。その下で、DCIの赤字縮小とのれん償却負担の低下が全社利益率を押し上げれば、投資家が見る利益は「減損前へ戻る」段階から「買収が利益を足す」段階へ移ります。

含意は明確です。歯科医院と外科の顧客に対する製品群が広がり、米国拠点への投資が販売・サービス能力を高めれば、変化が現れる場所は歯科・外科の売上とDCIの営業利益です。私は、ナカニシを「赤字企業」ではなく、強い本体が買収事業の立て直し費用を負担している会社と読みました。ただし、現在のPERはその回復を一部先取りしています。

反証条件は、次回有報で歯科事業の営業利益率が30%を割る、DCI事業の営業赤字が続く、または営業CFから投資CFの支出を差し引いた金額がマイナスになることです。2025年は営業CF166.49億円に対し投資CFの支出86.83億円で、差額は79.67億円のプラスでした。ここが崩れれば、「本体の現金創出で立て直せる」という前提も崩れます。

この検証で言えないこと

セグメント営業利益には本社費用の消去があり、四事業の単純合計は全社営業利益と一致しません。DCIの償却前利益も、のれん償却を機械的に足し戻した値で、経済的な利益を保証しません。業界比較は33業種の「精密機器」であり、歯科機器だけの競合比較ではありません。

また、現在のPER・PBR・時価総額はYahoo!ファイナンスの2026年8月18日表示値です。将来予想の変更や株価変動で変わります。医療機器の個別市場シェアと製品別価格は今回の有報データでは未確認です。

次に見るのは、DCIの売上ではなく利益率です

次の確認は、2026年11月ごろの2026年12月期第3四半期決算です。具体的な発表日は8月18日時点で未確認です。決算短信のセグメント情報で、DCIの営業損益、歯科・外科の営業利益率、全社営業利益率を見ます。

その次は2027年3月ごろに提出される有価証券報告書です。「セグメント情報」でDCIの採算、「設備の新設、除却等の計画」で米国75億円投資の進捗、「キャッシュ・フロー計算書」で営業CFと投資CFを確認します。売上が増えたかでは足りません。利益を伴ったかを追います。

データ出所: EDINET(株式会社ナカニシ・2025年12月期有価証券報告書、EDINET DB集計)。有報提出日は2026年3月27日。減損理由は会社開示、現値指標はYahoo!ファイナンス、次回確認時期はナカニシIRカレンダーも参照しました。

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。