マーケット深掘りノート

500万処方なのに成長ゼロ? 経口Wegovy決算の不思議

500万処方なのに成長ゼロ? 経口Wegovy決算の不思議の図解ポスター

「発売から500万処方を突破した薬」と聞けば、会社の売上も利益も勢いよく伸びているように思えます。ところが、肥満症治療薬Wegovyを手がけるNovo Nordiskの2026年4〜6月期決算は、そう単純ではありませんでした。

経口Wegovyは2026年1月の米国発売から累計500万処方を超え、7月17日までの1週間だけでも総処方件数は26万5,000件を上回りました。それでも会社が示した2026年通期の調整後売上成長率と調整後営業利益成長率は、どちらも「0%からマイナス6%」です。

売れているのに、なぜ成長しないのでしょうか。

同じ営業利益が「16%減」と「11%増」

まず、今回の決算で目を引くのは、同じ営業利益の方向が二つに分かれたことです。

NovoのQ2売上高は、為替の影響を除くベースで前年同期比3%増でした。特殊要因を除いた調整後売上高は7%増です。一方、営業利益は報告ベースで16%減、調整後では11%増の333億8,900万デンマーククローネでした。

この差には、前年同期にあった米340B薬価プログラム関連の引当金戻入と、今期に計上した63億デンマーククローネの減損が関係しています。減損のうち40億デンマーククローネは、開発品monlunabantに関連するものでした。

つまり、報告ベースの減益だけを見れば本業を悲観しすぎますが、調整後の増益だけを見れば研究開発の失敗コストを軽く見すぎます。どちらも事実であり、二つを並べて初めて会社の現在地が見えます。

500万処方は、やはり強い数字です

経口Wegovyの立ち上がり自体は強力です。6月7日時点で累計300万処方を超え、処方の80%以上がGLP-1を初めて使う患者向けだったと会社は説明しています。注射剤から錠剤へ乗り換えただけではなく、注射に抵抗のある人を新たに市場へ取り込んでいる可能性があります。

会社は5月時点で、通期の調整後売上・営業利益をともにマイナス4〜マイナス12%と予想していました。今回、それを0〜マイナス6%へ引き上げています。レンジ上限は4ポイント、下限は6ポイント改善しました。処方増が会社計画を実際に押し上げた、と読める部分です。

ただし、上方修正後も上限は0%です。販売数量が大きく増えても、全社の売上と利益は前年並みが精いっぱいという見通しになります。

なぜ数量が利益に直結しないのか

背景には、米国の薬価引き下げ、保険アクセスを広げるための値引き、競合Eli Lillyとの競争があります。NovoのQ2粗利益率は78.2%で、前年同期の82.7%から4.5ポイント下がりました。

薬価を下げれば、これまで治療に届かなかった患者にも薬を届けやすくなります。医療の観点では重要な前進です。一方、企業業績では、1人当たりの実現価格が下がるため、増えた数量でその差を埋めなければなりません。

さらに、次世代薬の開発がうまくいかなければ、既存のWegovyに依存する期間が長くなります。今回の63億デンマーククローネの減損は、単なる会計上のノイズではなく、将来の成長候補が傷んだ可能性を示す数字でもあります。

私の見立てでは、GLP-1関連株の評価軸は「市場が拡大するか」から一段進みました。これから重要なのは、処方の継続率、チャネル別の実現価格、粗利益率、そして経口薬が注射剤を食うだけでなく新規患者を増やせるかです。

日本株では中外製薬が接点になります

日本株で直接の接点があるのは中外製薬です。中外は、Lillyが販売する経口GLP-1 Foundayo(一般名orforglipron)の創製元で、世界の開発・販売権を導出しています。

経口Wegovyの500万処方は「錠剤の肥満症薬に大きな需要がある」という追い風です。しかし、Novoが先行者として患者と医師を囲い込めば、Foundayoの立ち上がりには逆風になります。Lilly側には食事や水分の制限なしという使いやすさがあり、競争は処方件数だけでなく服用条件、価格、保険適用へ広がります。

中外は2023年末時点で、orforglipronについて承認マイルストーン最大1億4,000万ドル、販売マイルストーン最大2億5,000万ドルを受け取る権利を開示していました。2025年12月期の中外は売上収益1兆2,579億円、営業利益5,988億円、ROE22.1%でした(EDINET〈edinet-insight〉)。ただし、会社が示す2026年のロイヤルティ等収入2,172億円はHemlibraなども含む全社値で、Foundayo単独の数字ではありません。

ここは混同しやすいところです。経口GLP-1が話題になっても、中外の業績にいくら入るかは別途確認が必要です。

投資家として次に何を見るか

最初に見るのは、Novoが8月5日の説明会で示す経口Wegovyの継続率と価格です。累計処方が大きくても、短期間で離脱したり、低価格チャネルに偏ったりすれば利益への寄与は弱くなります。

次は9月21日のCapital Markets Dayです。2027年以降に成長へ戻る道筋、製造能力、次世代パイプラインの再構築が焦点になります。11月4日の1〜9月期決算では、通期0〜マイナス6%レンジを守れるか、粗利益率が下げ止まるかを確認します。

強気シナリオは、錠剤が新規患者を増やし、数量成長が価格低下を上回ることです。弱気シナリオは、値下げ競争が続き、売れても利益が伸びない状態が長引くことです。

500万処方は強い数字です。しかし、投資家に必要なのは「何件売れたか」の次に、「その1件がいくらの粗利を残したか」を見ることです。今回の決算は、肥満症薬市場が拡大期から採算競争の段階へ入ったことを示しています。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。