マーケット深掘りノート

売上5%増、受注残9%増なのに株価23%安? 航空機部品で起きている「作れない」問題

売上5%増、受注残9%増なのに株価23%安? 航空機部品で起きている「作れない」問題の図解ポスター

「注文が増えている会社なら、株価も上がるはず」。普通はそう考えますよね。

ところが8月6日の米国市場で、航空機のエンジンや電子機器を手がけるHoneywell Aerospaceの株価は23.2%下落しました。前日に発表した決算では、売上高が前年同期比5%増え、受注残も9%増えています。需要がなくなったわけではありません。それでも、これほど売られたのです。

何が変なのでしょうか。答えは、注文の量と「実際に作って納める力」が別物だからです。

注文はある。でも通期見通しを下げました

Honeywell Aerospaceは、もともと複合企業Honeywellの航空宇宙部門でした。2026年6月29日に分離し、NASDAQへHONAのティッカーで上場しました。今回の4〜6月期決算は、独立企業として初めての四半期発表です。

数字だけを見ると、需要はかなりしっかりしています。売上高は45.22億ドルで5%増。受注残は181.54億ドルで9%増え、過去12カ月の受注も8%増でした。とくに、既存の航空機を整備・修理する商用アフターマーケット売上は8%増えています。

一方、利益は厳しい内容でした。純利益は2.56億ドルで70%減、調整後EBITは9.95億ドルで7%減です。調整後EBITには、会社分割関連費用と在庫陳腐化費用が約1億ドル含まれています。

市場が最も嫌ったのは先行きです。会社は2026年のオーガニック売上成長率見通しを、それまでの7〜9%から4〜5%へ引き下げました。調整後EBIT見通しも46.5〜47.5億ドルから43.5〜44.5億ドルへ、上下限とも3億ドル減らしました。

売上が増え、受注残も積み上がっているのに、将来の成長率は下がる。このねじれが、23.2%安の背景です。

なぜ、注文を売上に変えられないのでしょうか

航空宇宙の部品は、足りなければ別の会社からすぐ買えるものではありません。エンジンや制御装置に使う部品には、厳しい品質保証と認証が必要です。新しい供給先を見つけても、量産に入るまでに時間がかかります。

Honeywell Aerospaceの経営陣は、需要ではなく供給制約が生産を抑えたと説明しました。会社は新しい供給先を50社超認定し、2026年後半にもさらに50社を見込んでいます。供給者向け工具への投資は後半に前半比20%増やし、2025年から2027年には倍増させる計画です。その約70%は鋳造品向けです。

鋳造品とは、溶かした金属を型に流してつくる部品です。高温や大きな力に耐える航空エンジンでは欠かせません。しかし、品質が安定するまでに時間がかかり、不良が出れば納期もコストも悪化します。

今回とくに気になるのは、エンジン・電源システム部門です。売上は1%増えましたが、調整後EBITは32%減って1.74億ドルでした。会社によると、不利な製品構成とコスト増が価格効果を上回りました。「たくさん売れれば利益も増える」とは限らないことが、数字に表れています。

長期需要は弱いのでしょうか

ここは事実と見立てを分ける必要があります。

事実として、Honeywell Aerospaceの受注残は増えています。Airbusも2026年3月末時点で9,037機の商用機受注残を抱えています。IATAは6月、エンジンの耐久性問題、予備部品不足、予備エンジン不足、整備市場へのアクセス制約が航空会社の運航を妨げていると指摘しました。

ここから先は見立てです。航空機需要が消えたのではなく、需要に供給が追いつかない状態だと考えられます。これは長期的には部品メーカーや整備会社の商機です。ただし短期的には、納期遅れ、割高な調達、在庫の積み上がり、人員不足として利益を圧迫します。

つまり「需要が強いから業績も強い」という一本線ではありません。増産できる会社と、受注残を抱えたままコストだけが増える会社に差がつく局面です。

日本株では、何を見ればいいのでしょうか

日本ではIHI(7013)が分かりやすい関連候補です。同社は民間航空エンジンの新造と整備、防衛・宇宙を成長分野に据えています。

EDINETの有価証券報告書ベースでは、2026年3月期の連結売上収益は1兆6,434億円、営業利益は1,655億円でした。2026年度の設備投資計画は1,300億円で、そのうち航空・宇宙・防衛が766億円。全体の約58.9%を占めます。出所はEDINET(edinet-insight)です。

この766億円は、航空需要を取り込む強い意思の表れです。同時に、投資した設備を予定通り立ち上げ、品質を保ちながら稼働率を上げられるかという宿題でもあります。

三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、SUBARU(7270)、ミネベアミツミ(6479)、ナブテスコ(6268)も航空機体・部品・制御機器の関連候補です。ただし、今回のHoneywell Aerospace決算だけから各社への直接的な業績寄与を定量化することはできません。銘柄名だけを連想で追うのではなく、各社の開示で航空分野の売上、利益率、設備投資、納期、在庫を確認する必要があります。

投資家として見るべき5つの数字

今後は次の数字が重要です。

1つ目は、受注残が売上へ変わる速度です。受注残の増加だけでは安心できません。

2つ目は、エンジン・電源部門の利益率です。HONAでは売上1%増に対して利益が32%減りました。

3つ目は、新規供給先の認定数と複数調達部品の比率です。会社は2026年に複数調達部品を15%以上増やす計画です。

4つ目は、在庫とフリーキャッシュフローです。HONAは2026年後半のフリーキャッシュフロー見通し10〜15億ドルを維持しました。ここが崩れるかどうかが重要です。

5つ目は、日本企業の設備投資の進捗です。IHIの航空・宇宙・防衛向け766億円が、生産能力と利益の増加へつながるかを追います。

まとめ

Honeywell Aerospaceの23.2%安は、航空需要の終わりを示す数字ではありません。むしろ需要が強いからこそ、供給能力の不足が目立った決算でした。

売上5%増、受注残9%増でも、通期成長率を7〜9%から4〜5%へ下げれば、株価は大きく反応します。これから航空宇宙株を見るときは、「注文があるか」だけでなく、「部品をそろえ、作り、認証を通し、納期どおりに売上へ変えられるか」まで見る必要があります。

受注残は未来の売上候補です。しかし、利益になるまでは完成品ではありません。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。