マーケット深掘りノート

株数−74.8%は誤検出だった――それでも川崎汽船は実質24.4%減らしていた

川崎汽船の発行済株式数を5年度分スキャンすると、最初に出た変化率はマイナス74.8%でした。4分の3を消却したように見えます。

ところが、有価証券報告書へ戻って検算すると、この数字は誤りでした。正しく分割調整した2022年3月末から2026年3月末までの純減は24.4%です。

誤検出です。ただし、そこで調査を止めるともう一つの事実を落とします。24.4%でも、約4年で約2億627万株の純減です。8月3日には新たな自己株式取得の進捗開示も検出されました。

今回の問いは一つです。川崎汽船の株数減少は、株式分割の見かけを除いても実質的で、1株当たりの数字を変えるほどだったのかを確かめます。

市場が見落としやすいと考えた理由は、自社株買いが一件ずつニュースになる一方、その後の消却と長期の発行済株式数は有報の「株式等の状況」に分散しているためです。さらに株式分割が挟まると、年度間の単純比較は壊れます。発表額ではなく、最終的に何株残ったかを見る必要があります。

−74.8%をそのまま使わなかった理由

入口にはEDINET DBの shares-change-5y を使いました。これは約3,800社の候補を絞る道具です。川崎汽船はマイナス74.8%と表示されましたが、順位や表示値は記事の結論にしていません。

検算には、各年度の有報から抽出した期末発行済株式数と自己株式消却数を使いました。川崎汽船は2022年10月1日に1株を3株2024年4月1日にも1株を3株に分割しています。そこで2022年3月期は9倍、2023年・2024年3月期は3倍し、2024年4月の分割後基準へそろえました。

| 期末 | 有報記載の発行済株式数 | 分割調整後 | 当年度の消却数(同じ基準) | |---|---:|---:|---:| | 2022年3月 | 93,938,229株 | 845,444,061株 | 0株 | | 2023年3月 | 250,712,389株 | 752,137,167株 | 100,608,000株 | | 2024年3月 | 238,242,689株 | 714,728,067株 | 37,409,100株 | | 2025年3月 | 639,172,067株 | 639,172,067株 | 75,556,000株 | | 2026年3月 | 639,172,067株 | 639,172,067株 | 未確認 |

この表から言えるのは、分割を除いても株数は845,444,061株から639,172,067株へ206,271,994株減ったことです。減少率は24.4%です。スキャン値74.8%は、2回の3分割を正しく反映した結果と一致しません。私の検算では、分割調整が重複した場合に近い値でした。

2023年3月期から2025年3月期までの消却は、現在と同じ基準で合計213,573,100株です。これは純減より7,301,106株多く、期間中の株式増加と相殺されています。したがって「減った株はすべて消却分」とまでは言えません。ただ、ネットの方向を決めた主因が継続的な消却だったことは数字で確認できます。

最初の74.8%という仮説は外れました。24.4%という方向は残りました。

1株換算では、利益の伸びを15.4ポイント上回った

次に、株数減少が1株当たりの数字へどれだけ効いたかを見ます。比較するのは、2024年3月期と2026年3月期です。連結純利益を分割調整後の期末発行済株式数で割りました。法定開示のEPSは期中平均株式数から自己株式を控除して計算するため、以下はEPSではなく、株数効果を見るための参考値です。

| 3月期 | 親会社株主に帰属する純利益 | 分割調整後の期末株数 | 純利益÷期末株数 | |---|---:|---:|---:| | 2024年 | 1,019.89億円 | 714,728,067株 | 142.7円 | | 2026年 | 1,329.86億円 | 639,172,067株 | 208.1円 |

この表から、純利益は30.4%増えたのに対し、期末株数で割った参考値は45.8%増えたことが分かります。差は15.4ポイントです。仮に2026年3月期の株数が2024年3月期から変わらなければ、参考値は186.1円でした。実際の208.1円はそれより11.8%高く、株数減少が1株換算値を押し上げた部分です。

ただし、株数だけで利益が増えたわけではありません。2026年3月期有報では、売上高は前期比2.8%減、経常利益は64.6%減、純利益は56.5%減でした。海運会社の利益は市況や持分法適用会社ONEの影響で大きく動きます。株数減少は事業の変動を消せません。

私は、川崎汽船を「自社株買いの発表が多い会社」ではなく、利益の振れが大きいなかでも、消却まで実行して1株当たりの分母を継続的に小さくしてきた会社と読みました。今回の検証では、機械抽出の大きさは不成立、長期的な株数減少の実体は成立です。

次の1,300億円は、発表額ではなく消却まで見る

2026年3月期有報の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」には、中期経営計画期間で8,800億円以上の株主還元を計画し、2025年度までに約6,740億円を実施したとあります。2026年度は配当に加え、上限1,300億円の自己株式取得を予定しています。

同じ有報の「重要な後発事象」では、取得上限44,429,000株、自己株式を除く発行済株式総数の6.96%、取得期間は2026年6月1日から9月30日までです。6月2日時点で19,604,000株、506.76億円を取得し、取得株は原則として消却予定と開示しています。8月3日の進捗開示は検出できましたが、その本文数値は未確認です。

次に見るのは三つです。まず2026年9月30日の取得期限後に、取得総数が44,429,000株へどこまで近づいたかを会社のIR「自己株式の取得状況」で確認します。次に、取得株が「原則として消却予定」から実際の消却へ進んだかを適時開示で追います。最後に、2027年6月ごろの有報「株式等の状況」で期末発行済株式数と消却数を同じ方法で更新します。提出日は未確認です。

この検証の限界

比較期間は5年度分ですが、2022年3月末から2026年3月末までの約4年です。消却数は有報の抽出値で、ネットの株数変化とは7,301,106株ずれます。この差の全要因は今回確認していません。

また、「純利益÷期末株数」は株数効果を見せる機械的な参考値であり、会社開示のEPSではありません。自己株式、期中の取得時期、株式報酬による処分を精密には反映しません。現在株価、PBR、配当利回り、時価総額は使っておらず、評価水準についても判断していません。

機械で全社を読む強みは、候補を見つけられることです。機械の数字を疑う作業まで含めて、ようやく投資の材料になります。

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。