建築確認は116件減、営業利益は2.4倍――ERIの法改正利益は続くのか
ERIホールディングスの建築確認件数は、2026年5月期に6万8,867件でした。前期より116件減っています。ところが建築確認の売上は35.63億円から47.02億円へ31.9%増え、全社の営業利益は20.45億円から49.43億円へ2.4倍になりました。
数量は増えていない。それでも利益は増えました。
今回の問いは一つです。法改正で膨らんだ利益は一時的な制度特需なのか、それとも、ERIが持つ資格者と全国網が生んだ持続的な競争力なのか。
市場はこの増益を法改正直後の特殊要因と見やすいはずです。しかし、制度が増やしたのは建物の数ではなく、1件に必要な審査です。それを引き受けられる供給能力まで見ると、会社の実力を弱く見積もっている可能性があります。これが私のエッジ仮説です。
目次
この会社は何をしている会社か
ERIホールディングスは、建築主や設計者、住宅会社から申請を受け、建物が法令や性能基準に適合するかを第三者として審査・検査する会社です。建築確認、住宅性能評価、省エネ適合判定に加え、官公庁向けのインフラ点検・測量も手掛けます。2026年5月期の売上高は247.04億円、連結従業員は1,768人、東証スタンダード上場。EDINETではサービス業です。確認検査の市場シェアは約14%で最大手です。
件数と売上を同じ物差しで見る
2026年8月26日提出の有報を起点に、EDINET DBの5年推移、セグメント、業種比較、記述本文を確認しました。最新年度の業務件数は会社の2026年5月期決算説明資料と突き合わせています。「1件あたり売上」は各業務の売上を交付件数で割った機械的な試算です。
| 指標 | 2025年5月期 | 2026年5月期 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 建築確認件数 | 68,983件 | 68,867件 | ▲0.2% |
| 建築確認売上 | 35.63億円 | 47.02億円 | +31.9% |
| 1件あたり売上(試算) | 5.16万円 | 6.83万円 | +32.2% |
| 省エネ適合性判定件数 | 6,299件 | 19,018件 | +201.9% |
| 確認・評価関連の利益率 | 10.6% | 22.8% | +12.2ポイント |
この表から言えるのは、利益増が住宅着工の増加では説明できないことです。会社は、省エネ・構造審査の業務拡大と手数料改定を増収要因に挙げています。実際、全国の新設住宅着工は同期間に5.3%減りました。それでも、省エネ適合性判定は約3倍に増えました。法改正が建物1棟から発生する仕事量を増やし、営業費用の伸び11.5%を売上の25.0%増が上回った結果、営業利益率は10.4%から20.0%へ上がりました。
競争力は価格より、審査を引き受ける能力にある
2025年4月から全ての新築建築物に省エネ基準への適合が義務付けられ、木造戸建てなどの構造審査を省略できた「4号特例」も縮小しました。需要は法律が作ります。ただし、誰でも供給できる仕事ではありません。
2025年5月期の有報本文によると、日本ERIは全国33支店を持つ唯一の指定確認検査機関で、グループの確認検査員・副確認検査員は757人。128の指定機関があるなかで、実績件数も最大手です。指定は5年ごとの更新で、技術力、公正中立性、資格者数などの要件があります。顧客が乗り換えられないわけではありませんが、繁忙時にも複雑な申請を全国で処理できる能力には、資格者の蓄積と信用が要ります。
採算にも表れました。売上の76.1%を占める確認検査・住宅性能評価関連事業は、売上187.92億円、営業利益42.89億円、利益率22.8%です。インフラストック・環境関連事業も売上56.09億円、営業利益6.64億円、利益率11.8%まで伸びました。一方、比較可能な2025年5月期の全社営業利益率10.4%は、サービス業561社の中央値6.6%を上回るものの、上位四分位12.0%には届かず173位でした。高採算が昔から盤石だったわけではありません。法改正で、保有していた供給能力の価値が表面化した、と読むのが近いです。
構造的な行方――需要、コスト、資本配分
需要面では、新設住宅が減っても審査範囲の拡大が単価を支えます。会社は2027年5月期も売上270億円、営業利益53.30億円、営業利益率19.7%を予想し、2028年5月期目標を売上300億円、営業利益55億円へ上方修正しました。制度施行直後の滞留が解けても、会社自身は利益率が以前の10%台前半へ戻るとは置いていません。
コスト面の制約は人です。有報は、最大手の地位を維持できない要因として、地域機関との競争と確認検査員の確保・育成を挙げています。2024年から2025年に資格者は710人から757人へ増え、社内講座の合格率は全国平均を上回りました。しかし、審査量が資格者の増加を超えれば、納期か人件費に表れます。ここが会社開示にあるリスクです。開示に直接ない論点は、手数料改定後の高い単価が、申請手続きの平常化後も維持されるかです。
資本配分では、2026年5月期の営業CF49.45億円に対し投資CFは13.12億円の支出で、差額は36.32億円でした。CF計算書には子会社取得5.54億円、配当6.39億円、自己株式取得3.55億円が記録され、現金同等物は81.54億円へ増えています。利益は現金を伴っています。同時に、会社は確認検査機関や建設コンサルタントをM&Aで増やしています。有報が挙げる通り、買収後の収益が計画を下回れば、のれん等の評価が資本配分の反証になります。
株価への含意――高ROEより「何年続くか」が論点
2026年8月25日終値は1,654円でした。株価履歴と、6月1日の1株から3株への分割を反映した会社予想EPS145.32円、2026年5月期BPS378.56円を使うと、予想PERは約11.4倍、PBRは約4.4倍です。いずれも有報期末株価ではなく、8月25日終値で再計算した値です。
| 現値ベースの試算 | 値 |
|---|---|
| 株価 | 1,654円 |
| 予想PER | 約11.4倍 |
| PBR | 約4.4倍 |
| 2026年5月期ROE | 42.4% |
| 2028年5月期会社目標ROE | 20〜30% |
この表から、株価は足元の高収益を無視していないことが分かります。PBR4倍台は規制・資格・全国網の価値を織り込む一方、PER11倍台は42.4%のROEが長く続かず、20〜30%へ正常化する前提とも整合します。市場とのズレがあるとすれば、利益の水準より寿命です。
私は、株価への最大の含意は住宅着工件数より営業利益率にあると読みました。前提は、手数料改定後の単価が維持され、資格者を増やしながら連結営業利益率18%以上を保てることです。その場合、制度特需が終わっても利益の土台は以前より高くなります。反証条件は、確認件数が横ばいのまま1件あたり売上が低下し、連結営業利益率が15%を割ること、または営業CFが純利益の8割を下回る状態が続くことです。そうなれば、法改正利益を構造的とみる仮説は外れます。
限界と、次に見るポイント
1件あたり売上は商品構成を含む試算で、純粋な料金表の値上げ率ではありません。業界比較は建築検査会社だけでなくサービス業全体で、比較年度も2025年5月期です。また、EDINET DBの記述抽出は執筆時点で2025年有報までだったため、最新年度の数値は2026年有報提出日の会社資料で照合しました。株価指標は8月25日時点で変動します。
次は2026年9月30日の2027年5月期第1四半期決算です。会社IRカレンダーとEDINETの「経営成績」「セグメント情報」で、確認・評価関連の売上と利益率、人件費、営業CFを確認します。あわせて月次報告で建築確認と省エネ関連の件数を追います。見るべきは件数の増減だけではありません。増えた審査量を、何人で、どの利益率で処理できたかです。
本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。