マーケット深掘りノート

報酬5.69億円、業績連動の記載なし――光通信の「固定報酬」は何に連動するのか

光通信の2026年3月期有価証券報告書では、社内取締役4人の報酬総額が5億6,900万円でした。前年は6人で4億3,200万円。総額は31.7%増えています。

ところが、同じ有報の「役員区分ごとの報酬等の総額」を見ると、5億6,900万円は全額が基本報酬です。業績連動報酬の欄に金額はありません。

入口になった数字は、提出会社の平均年間給与3,517万5,984円でした。前年比46.0%増です。ただし、光通信は純粋持株会社で、提出会社の従業員は3人しかいません。連結従業員4,012人の平均ではありません。高年収ランキングだけでは、会社の人件費も経営者のインセンティブも読めないのです。

今回の問いは一つです。光通信の取締役報酬は、利益と企業価値の伸びに連動する設計・実績になっているのでしょうか。

市場が見落としやすいと考えた理由は、平均給与、報酬総額、業績連動報酬という三つの数字が、有報の別々の場所に載るためです。しかも「固定」と「連動」は反対語のように見えます。表の分類だけで止まらず、算定方針まで読む必要があります。

まず、調べ方を開示します

EDINET DBから2022年3月期から2026年3月期までの連結財務と役員報酬を取得しました。財務は有報の「主要な経営指標等の推移」、報酬は「役員の報酬等」が出どころです。報酬の対象人数が年度で変わるため、1人当たりの単純比較は主たる結論に使いません。

比較したのは、社内取締役の報酬総額、連結営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益です。増減率は「当期÷前期−1」で計算しました。平均年間給与は提出会社単体の数字で、賞与と基準外賃金を含みます。

| 3月期 | 社内取締役報酬(人数) | 連結営業利益 | 親会社帰属利益 | |---|---:|---:|---:| | 2022年 | 1.88億円(5人) | 835.67億円 | 875.37億円 | | 2023年 | 2.47億円(6人) | 866.15億円 | 913.45億円 | | 2024年 | 2.93億円(6人) | 945.46億円 | 1,222.25億円 | | 2025年 | 4.32億円(6人) | 1,050.36億円 | 1,175.23億円 | | 2026年 | 5.69億円(4人) | 1,166.64億円 | 1,510.14億円 |

この表から、直近1年では営業利益11.1%増、親会社帰属利益28.5%増に対し、社内取締役報酬は31.7%増えたことが分かります。増益と報酬増の方向は一致します。一方、2022年から2026年では営業利益が39.6%、親会社帰属利益が72.5%増えたのに対し、報酬総額は202.7%増です。人数も役割も変わっており、長期の比例関係があるとは言えません。

数字は連動して見えます。算定式は見えません。

「業績連動の記載なし」でも、業績を見ずに決めているわけではない

2026年3月期有報の報酬方針には、基本報酬を月例の固定報酬としつつ、役位・職責、各取締役の貢献や実績、連結営業利益などを総合的に勘案して決めるとあります。事前に報酬委員会へ諮問し、取締役会が個人別報酬を決定する仕組みです。会社のガバナンスページも、長期の企業価値向上と短期の業績目標達成へのインセンティブを高めるため、営業利益等を基に報酬額を決めると説明しています。

つまり、有報の分類は「固定月額」ですが、その固定額を改定する判断には業績が入ります。賞与のような事前の算式で自動的に増減する報酬ではありません。この違いは大きいです。

2026年3月期の個人別開示では、和田英明社長が3億8,300万円、髙橋正人常務が1億7,800万円でした。前年はそれぞれ2億4,600万円、1億2,400万円です。増加率は55.7%と43.5%。2人だけで社内取締役報酬5億6,900万円の98.6%を占めます。総額の変化は、役員全体へ薄く配った結果ではありません。

ただし、連結営業利益の何%増で報酬を何%変えるのか、ストック利益やROEをどの比率で使うのか、下方局面でどう減額するのかは有報から確認できません。「総合的に勘案」という裁量が残ります。私は、直近年度の実績は業績と同じ方向に動いたものの、再現可能な意味での業績連動性は未確認、と読みました。

旧上限の94.8%まで使い、上限は10億円へ

もう一つ、今年から監視すべき数字があります。

従来、監査等委員を除く取締役の報酬上限は年6億円でした。2026年3月期の社内取締役報酬5億6,900万円は、その94.8%です。社外取締役分を含めた厳密な上限消化率とは定義が異なりますが、余地が小さくなっていたことは分かります。

2026年6月27日の株主総会では、上限を年10億円以内、うち社外取締役分を5,000万円以内とする改定が承認されました。招集通知が挙げた理由は、事業規模、経済情勢、経営環境、報酬体系と支給水準、役員数などです。上限は66.7%広がりました。これは支給額が直ちに10億円になるという意味ではありません。今後の実績を測るための新しい物差しです。

なお、会社の2026年5月13日付決算説明会書き起こしでは、和田社長が就任後約6年間の税引後手取り報酬7億8,000万円を使わず、それを上回る額を自社株へ投じたと説明しています。契約上の株式報酬とは別ですが、経済的な利害を株主へ近づける行動です。固定報酬だけを見て「連動していない」と結論づけるのも早計です。

私の答えと、このデータの限界

最初の仮説は半分成立しました。2026年3月期は増益と報酬増が同じ方向で、会社も連結営業利益を決定要素に挙げています。しかし、有報上は全額が基本報酬で、指標の重み、目標値、増減式は開示されていません。したがって「利益に比例する報酬」とまでは確認できません。

5年比較は各年度の有報に載る区分別総額です。対象となる取締役の人数、在任期間、役位が異なり、同じ人物の同じ職務を追った比較ではありません。平均年間給与は従業員3人の単体値で、連結4,012人を代表しません。株価、PBR、時価総額も使っておらず、評価水準については判断していません。

次に見るポイント

次は2027年3月期有報の「役員の報酬等」を見ます。例年どおりなら2027年6月ごろですが、提出予定日は未確認です。確認するのは、社内取締役の実支給総額が新上限10億円に対してどこまで増減したか、業績連動報酬の欄に初めて金額が出るか、1億円以上の個人別報酬がどう変わるかの三つです。

それまでの四半期決算では、会社が報酬決定要素として明記する連結営業利益を追います。2027年3月期第1四半期の発表日は、2026年8月7日時点の公式IRカレンダーでは未確認です。発表後に前年同期比を確認し、翌年の有報で報酬の動きと突き合わせます。見る場所と時期は決まりました。

出典: EDINET DB(2026年8月7日取得)、株式会社光通信 第39期有価証券報告書(2026年6月29日提出)、同社第39回定時株主総会招集通知(2026年6月4日掲載)、同社ガバナンスページ(2026年8月7日確認)、2026年3月期決算説明会書き起こし(2026年5月13日)

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。