含み益450億ドルなのに、なぜソフトバンクGの利益は18%減ったのか

「OpenAIへの投資で450億ドルの含み益がある」。この数字だけを見ると、ソフトバンクグループの決算は文句なしに好調だったように思えます。
ところが、2026年8月6日に発表された4〜6月期決算では、親会社の株主に帰属する純利益が3,473億円となり、前年同期から17.7%減りました。東京市場の株価も同日、4%安で取引を終えています。
投資先の価値は大きく増えているのに、最終利益は減る。この一見変な決算を読み解く鍵は、「評価益」「最終利益」「使える現金」を別々に見ることです。
まず、決算の3つの数字を分けてみます
ソフトバンクグループの2026年度第1四半期は、売上高が2兆196億円で前年同期比10.9%増でした。投資利益は1兆8,594億円と、同281.8%増えています。それでも親会社帰属純利益は3,473億円で、17.7%減でした。
差し引かれた主な項目を見ると、販管費が1兆2,869億円、金融費用が3,287億円、為替差損が1,461億円、投資損益を除くデリバティブ損失が3,916億円です。前年同期と比べると、販管費は5,287億円、金融費用は1,634億円増えました。
つまり、投資先の値上がりは大きかったものの、AIコンピューティングやデータセンター関連の費用、借入に伴う利払い、為替・デリバティブの変動も大きくなりました。「投資利益が増えた」という見出しだけでは、株主に残る利益の姿は分かりません。
OpenAIの450億ドルは、今期の利益ではありません
もう一つ重要なのは、OpenAIの数字の時間軸です。
6月末時点で、ソフトバンクグループのOpenAI投資は累計取得原価446億ドル、評価額896億ドル、累計評価益450億ドルでした。ただし会社資料は、2026年度第1四半期にOpenAIの評価損益を計上していないと明記しています。
今回の投資利益を大きく押し上げたのはIntelです。Intel株の評価益は1兆3,329億円でした。「OpenAIで450億ドル儲かったから今期の利益が増えた」と読むのは、累計の評価益と当四半期の損益を混同しています。
さらに、非上場企業の公正価値は、その価格ですぐに売却できることを意味しません。評価額896億ドルは大きな資産価値ですが、給与や利払い、次の投資にそのまま使える現金ではないのです。
NAVは増えたのに、現金は減りました
この違いは、資産価値と現金の動きに最もよく表れています。
6月末のNAV(保有資産価値から調整後ネットデットを引いた値)は72.3兆円でした。3月末の40.1兆円から、わずか3カ月で32.2兆円増えています。そのうち30.0兆円はArm株の値上がりによるものでした。
一方、現金ポジションは3.5兆円から2.3兆円へ減少し、調整後ネットデットは8.2兆円から10.8兆円へ増えました。LTVは資産価値の上昇によって17.0%から13.0%へ改善していますが、手元資金そのものが増えたわけではありません。
EDINETの2026年3月期有価証券報告書でも、営業キャッシュフローはマイナス4,288億円、投資キャッシュフローはマイナス4兆5,072億円、財務キャッシュフローはプラス6兆3,773億円でした。有利子負債は期末で25兆6,636億円です。出所はEDINET(edinet-insight)です。
この形は、投資のための支出を借入などの財務活動で支える構造を示します。もちろん、投資会社にとって借入は直ちに悪材料ではありません。大切なのは、保有資産が下落した局面でも資金調達を続けられるかです。
10月1日に次の100億ドルが控えます
ソフトバンクグループは7月1日、OpenAIへの第2トランシェ100億ドルを実行しました。会社公表の円換算額は1兆6,273億円で、同額のブリッジローンを借り入れています。さらに10月1日には、第3トランシェ100億ドルを実行する予定です。
予定どおり完了すれば、OpenAIへの累計取得原価は646億ドル、持分は約13%になります。強気に見れば、OpenAIの価値がさらに高まったときの上昇余地は大きくなります。弱気に見れば、非上場の単一資産への集中と、借入コストへの感応度が一段と高まります。
投資家として何を見ればよいでしょうか
最初に見るべきはOpenAIのニュースだけではありません。次の四半期では、次の4点を分けて確認する必要があります。
1つ目は、Arm株です。今回のNAV増加32.2兆円のうち30.0兆円を説明しており、ソフトバンクグループの資産価値を動かす最大の要因です。
2つ目は、OpenAIの公正価値です。評価が上がるか下がるかだけでなく、どの取引価格や前提で評価したのかが重要です。
3つ目は、LTVと現金ポジションです。会社は通常時のLTVを25%未満、異常時でも35%以下に保つ方針を掲げています。6月末の13%には余裕がありますが、同時に現金が2.3兆円へ減ったことも見逃せません。
4つ目は、金融費用と営業キャッシュフローです。評価益が増えても、利払いと先行投資が増え続ければ、最終利益や手元資金には残りにくくなります。
まとめ
今回の決算は「AI投資が成功したか、失敗したか」の二択ではありません。
保有資産の価値は大きく上がり、LTVは改善しました。その一方で、費用と金融負担が増え、現金は減り、次の大型出資も控えています。だからこそ株価は、450億ドルの含み益だけでは素直に上がりませんでした。
投資会社の決算では、評価益、最終利益、現金の3つを同じものとして扱わないこと。ソフトバンクグループを読むうえで、この区別がこれまで以上に重要になっています。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。