マーケット深掘りノート

三井物産の「12.5%」が気になる――米100%関税はもう始まったのか

三井物産の「12.5%」が気になる――米100%関税はもう始まったのかの図解ポスター

「米国が100%関税」。この見出しだけを見ると、中国やインドの輸出品が来週から一斉に2倍になるように感じます。

でも、まだ関税は発動していません。

もう一つ気になる数字があります。三井物産はロシアのサハリン2プロジェクトを12.5%、三菱商事は10%保有しています。中国・インドを狙った法案に見えて、なぜ日本の商社やガス会社まで確認する必要があるのでしょうか。

86対11で可決。でも、まだゴールではありません

米上院は2026年8月7日、対ロシア制裁法案を86対11で可決しました。与野党をまたぐ大差です。法案は、ロシア産原油や天然ガスの購入を続ける国へ圧力をかけ、ロシアの戦争資金を減らすことを狙っています。

ただし、これは上院を通過した段階です。次に下院が審議し、可決されれば大統領署名へ進みます。APは、下院が8月末に会期へ戻った後の対応が次の焦点だと報じています。

つまり、いま確定した事実は「上院が法案を可決した」ことです。「100%関税が発動した」ことではありません。

「100%」は固定税率ではありません

米政府印刷局が公開した7月16日時点の法案原文を見ると、仕組みはもう少し複雑です。

対象になり得るのは、成立後もロシア産原油または天然ガスを購入し、直近12カ月の輸入量で上位5カ国に入る国などです。大統領は対象国から米国へ入るすべての物品に、0%を超えて最大100%までの追加関税を課せます。

ここで重要なのは三つです。

第一に、100%は上限です。必ず100%になるわけではありません。第二に、既存の関税へ上乗せできる設計です。第三に、大統領は「米国の国益に合う」と議会へ説明すれば免除できます。

成立した場合も、対象国の判定、実際の税率、免除の有無という三段階が残ります。強い数字だけを業績予想へ貼り付けると、かなり乱暴な分析になります。

なぜ日本のLNGが出てくるのでしょうか

Centre for Research on Energy and Clean Airによると、2026年6月のロシアLNG輸出先はEUが49%、中国が23%、日本が18%でした。日本はロシアLNGの大口購入先です。

一方、法案には天然ガスの例外があります。ロシア産天然ガスの輸入がロシアの年間天然ガス輸出全体の15%未満で、購入を減らす重要な措置を取っている国には、関税を課さない仕組みです。

日本の18%は「ロシアLNG輸出」に占める比率です。法案の15%はパイプライン分も含む「天然ガス輸出全体」が分母です。同じ18と15でも、そのまま比較できません。

したがって、日本が対象になるとはまだ言えません。ただ、日本はG7の制裁側にいながら、エネルギー安全保障のためサハリン2を維持しています。この立場を米国がどう評価するかは、商社だけでなく電力・ガス会社にも関わります。

商社の数字から何が見えるのでしょうか

三井物産の会社資料によると、サハリン2のLNG生産能力は年960万トンで、同社の収益認識は配当収入です。2026年3月期の三井物産全体は、収益13兆9,952億円、親会社帰属利益8,340億円、営業キャッシュフロー9,529億円でした。出所はEDINET(edinet-insight)です。

サハリン2単独の利益は開示されていないため、「法案で三井物産の利益がいくら減る」とは計算できません。ただし、影響経路は整理できます。

日本が例外を得られれば、サハリン2の安定供給価値は維持されます。逆に対象国となれば、対米輸出への追加関税を避けるため、ロシアLNG削減の圧力が強まります。代替LNGを急いで確保すれば、東京ガスや大阪ガス、電力各社の調達コストにも波及し得ます。

中国やインドがロシア原油を減らす場合も同じです。中東や米州の原油へ買い手が集中し、ENEOSや出光興産の調達環境、海運の航路、米国の物価まで動く可能性があります。

投資家として何を見ればよいのでしょうか

まず8月10日です。上院可決はインドと日本の現物市場が閉じた後に伝わりました。インドのNifty 50とルピー、三井物産・三菱商事、電力・ガス株の寄り付き、一時値、終値を分けて確認します。

次は8月末以降の米下院です。法案をそのまま通すのか、対象国や税率、免除条件を変えるのかが重要です。成立した場合は、30日後を目安にUSTRが示す上位5カ国、実税率、発動前の議会向け根拠を見ます。

強気シナリオは、法案の圧力だけで購入国がロシア産を減らし、高率関税を使わずに済む展開です。弱気シナリオは、複数国へ高率関税が発動し、輸入物価と原油・LNG価格が同時に上がる展開です。

まとめ

86対11という票差は大きな政治シグナルです。しかし、100%は「発動済みの税率」ではなく「成立後に使える上限」です。

中国・インドだけの話として片づけず、日本のロシアLNG、サハリン2の持分、天然ガスの例外条件まで見ると、このニュースの本当の広がりが見えてきます。いま判断材料になるのは、見出しの強さではなく、下院、対象国リスト、実税率の順番です。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。