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営業利益率6.5%から15.2%へ――Sansanの利益はどこまで続くのか

・ 約6分で読めます ・ 文責: マーケット深掘りノート編集部

Sansanの営業利益率は、1年で6.5%から15.2%へ上がりました。売上高は24.4%増ですが、営業利益は2.9倍です。一方、8月19日提出の有価証券報告書では、「減損」が事業等のリスクに新しく現れました。

利益率の急上昇は、継続課金が積み上がった結果なのでしょうか。それとも、買収や投資有価証券まで使って成長領域を広げる中で、別のコストを将来へ送っているのでしょうか。

この記事の問いは一つです。Sansanは、強い顧客基盤を利益へ変える収穫期に入ったのか。私のエッジ仮説は、純利益の増減や「SaaS」という括りだけでは、主力サービスの低解約率と資本配分リスクが同時に見えにくい、というものです。新出語を入口に、事業の実力まで分解します。

目次
  1. この会社は何をしている会社か
  2. 利益の変化を、同じ物差しで見る
  3. 競争力は、シェアより解約率に表れています
  4. 構造的な行方――需要、コスト、資本配分
  5. 株価への含意――高い継続を前提にした価格です
  6. 限界と、次に見るポイント

この会社は何をしている会社か

Sansanは、名刺・請求書・契約書など企業内のアナログ情報をデータ化し、営業や経理の業務に組み込むクラウドサービス会社です。主な顧客は企業で、営業AXの「Sansan」、経理AXの「Bill One」、名刺アプリ「Eight」が柱です。2026年5月期の連結売上高は537.61億円、東証プライム上場。EDINET DBで確認できる連結従業員数は2,235人です。情報・通信業の営業利益率中央値8.1%に対し、同社の直近実績は15.2%でした。

利益の変化を、同じ物差しで見る

検証には、2026年8月19日提出の有報を核に、EDINET DBの5年推移・セグメント・業種内比較を使いました。直近業績と翌期予想は、7月13日の2026年5月期決算短信で突き合わせています。調整後営業利益は、営業利益に株式報酬関連費用と企業結合に伴う費用を足した会社定義です。

連結2025年5月期2026年5月期変化
売上高432.02億円537.61億円+24.4%
営業利益28.00億円81.85億円+192.3%
営業利益率6.5%15.2%+8.7pt
営業キャッシュフロー96.51億円96.41億円-0.10億円

この表から言えるのは、利益率改善は会計上の調整だけではないことです。2026年5月期の調整後営業利益84.27億円と営業利益81.85億円の差は2.42億円にとどまります。売上総利益は26.3%増と売上の伸びを上回り、会社は広告宣伝費率と人件費率の低下を増益要因に挙げています。継続課金の売上が増え、先行費用の伸びを上回る「営業レバレッジ」が出ました。

ただし、営業キャッシュフローはほぼ横ばいです。前受金が40.44億円増えた一方、その他資産の増加23.74億円や税金の支払いがありました。利益2.9倍を、そのまま現金創出力2.9倍とは読めません。

競争力は、シェアより解約率に表れています

会社開示では「Sansan」の法人向け名刺管理市場シェアは85.8%、「Bill One」はクラウド請求書受領サービス市場で売上高シェア首位です。ただ、シェアだけなら調査範囲に左右されます。私がより重く見るのは、既存顧客が離れにくいことです。

2026年5月期SansanBill One
売上高310.89億円136.79億円
前年比+16.2%+39.7%
契約件数12,199件5,188件
契約当たり月次ストック売上高20.8万円(-1.0%)23.7万円(+2.2%)
直近12カ月平均月次解約率0.55%0.34%

この表から見える競争力は二つです。第一に、名刺や請求書を継続的に蓄積し、営業・経理の業務フローへ組み込むほど、別サービスへ移る際のデータ移行と社内再教育の負担が増えます。低解約率は、そのスイッチングコストが実際に働いている証拠です。第二に、Bill Oneは契約数と契約単価が同時に伸びています。顧客数だけで作った成長ではありません。

弱点もあります。Sansanは契約数が14.0%増えた一方、契約当たり月次売上高は1.0%下がりました。中小規模の新規顧客が増えた影響を含みますが、主力の単価上昇力はまだ確認できません。競争力は強い。ただし、価格決定力まで同じ強さとは限りません。

構造的な行方――需要、コスト、資本配分

需要面では、制度対応の特需が一巡してもBill Oneの市場は会社引用の外部調査で前年比52.4%増でした。同社自身のBill One売上も39.7%増です。名刺管理で築いた企業データ化の技術と営業網を、請求書や契約書へ横展開する経路があります。2027年5月期の会社予想も、Sansanの売上10〜12%増に対し、Bill Oneは28〜32%増です。成長の重心は移っています。

コスト面では、2027年5月期の売上予想が18.5〜21.5%増なのに対し、人件費は約12%、広告宣伝費は約8%増の計画です。計画通りなら調整後営業利益率は15.7%から20.0〜22.5%へ上がります。ストック売上が積み上がる一方、獲得費用の伸びが抑えられるからです。一方、AI機能の開発や営業採用を弱めれば、数年後の契約獲得も鈍ります。今期の利益率だけを最大化する会社ではありません。

資本配分には注意が要ります。2026年5月期は投資有価証券の取得28.16億円、売却収入21.57億円、子会社株式の追加取得14.65億円、自己株式取得7.41億円が動きました。有報で新出した「減損」は、買収・出資後の事業計画が遅れれば、投資有価証券の減損損失が生じ得るという会社自身の説明です。実際の減損損失は2.31億円でした。現金残高368.49億円は厚いものの、成長投資の選別がROEを左右します。

株価への含意――高い継続を前提にした価格です

8月19日の終値1,977円を使い、期末自己株式を除く株数で計算すると、時価総額は約2,494億円です。2026年5月期BPS158.56円に対する現値PBRは約12.5倍。2027年5月期会社予想EPS66.41〜81.04円に対する予想PERは約29.8〜24.4倍です。株価はIRBANKの8月19日表示を参照し、各指標は私が現値で再計算しました。

この水準が織り込むのは、単なる黒字定着ではありません。Bill Oneの高成長、低解約率、そして2029年5月期に調整後営業利益率25〜30%へ近づく道筋です。私は、市場が営業レバレッジの発現をかなり先まで評価する一方、Sansanの単価低下と投資・買収の選別リスクは、まだ検証途上だと読みました。

この読みの前提は、Bill Oneの売上が会社予想下限の28%程度を保ち、両主力の月次解約率が1%未満にとどまり、人件費と広告宣伝費の伸びが売上成長を下回ることです。反証条件は、2027年5月期の調整後営業利益率が20%へ届かない、Bill Oneの売上成長率が28%を下回る、Sansanの解約率が1%へ近づく、または投資先の減損が営業利益の伸びを継続的に打ち消す場合です。

限界と、次に見るポイント

業種中央値はEDINET DBが情報・通信業を一括比較した値で、SaaS専業だけの比較ではありません。現値PBR・PER・時価総額は8月19日終値による機械的な試算です。月次解約率はMRR基準であり、顧客社数の解約率とは定義が異なります。市場シェアは会社が引用した外部調査で、私が母集団を再集計したものではありません。

次は2026年10月9日の2027年5月期第1四半期決算で確認します。見る場所は決算説明資料の「主要KPI」と「連結業績見通し」です。Bill OneのMRR成長率、Sansanの契約単価、両サービスの月次解約率、調整後営業利益率の四つを並べます。日付は会社のIRカレンダーで確認できます。次回有報では「事業等のリスク」と投資有価証券・のれんの増減を追います。

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。