政策株を売ったのに6,581億円へ増加? TBSの有報で残った集中を読む
TBSホールディングスの上場政策保有株は、2026年3月末に6,581億円ありました。前年の3,637億円から81.0%増えています。
ところが、会社は政策保有株の売却を進めてきたと説明しています。2025年11月の中間期決算説明では中計期間中の売却計画を900億円以上から1,100億円以上へ引き上げ、2026年5月の決算資料では投資有価証券の売却が目標を超える見通しを示しました。
売ったのに、残高は増える。
今回の問いは一つです。TBSの政策保有株縮減は本当に進んだのか。それとも、見かけだけだったのでしょうか。
先に、検証の設計を置きます
私のエッジ仮説は、売却額の見出しだけでは「売却後に何が残ったか」を見落としやすい、というものです。政策保有株は売れば減りますが、残った上場株の値上がりでも貸借対照表計上額が動きます。とくに1銘柄への集中が強いと、売却努力と期末残高が逆向きに見えます。
具体対象は、2026年6月24日提出のTBSホールディングス有価証券報告書です。EDINETの「株式の保有状況」から、上場政策保有株の銘柄数、貸借対照表計上額、期中に株式数が減った銘柄の売却額、個別銘柄の株数と計上額を拾いました。連結財務諸表からは純資産とROEも確認しています。
検証するのは、①縮減の実行、②期末残高を動かした要因、③残った集中が資本効率を見るうえで無視できる大きさか、の3点です。ランキングは候補発見にだけ使い、順位そのものは結論にしません。
1銘柄減った。しかし、金額は2,944億円増えた
| 2026年3月期の有報で確認した項目 | 前期 | 当期 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 上場政策保有株の銘柄数 | 18銘柄 | 17銘柄 | 1銘柄減 |
| 貸借対照表計上額 | 3,637.14億円 | 6,581.28億円 | 2,944.14億円増 |
| 東京エレクトロン株の計上額 | 3,039.03億円 | 5,626.21億円 | 2,587.18億円増 |
この表から言えるのは、縮減の有無を期末残高だけで判定すると間違える、ということです。銘柄数は減りました。一方、東京エレクトロン株の増加分だけで、政策保有株全体の増加分の87.9%を説明します。同社株の保有数は15,112,049株で前期から変わっていません。売買ではなく、主に期末評価の変化です。
さらに、東京エレクトロン1銘柄で上場政策保有株の85.5%を占めます。TBSは有報で、同社を広告主など事業上のパートナーと説明しつつ、「成長戦略資本」と位置づけ、必要に応じて活用すると記載しています。
数字は正直です。
有報の同じ欄では、当期に株式数が減少した上場政策保有株は1銘柄、その売却価額は1.15億円でした。これは「中計期間中に1,100億円以上」という累計計画と比べると小さく見えます。ただし、ここは単純比較できません。中計資料は累計の「政策保有株式・投資有価証券の売却」を説明する一方、有報の表は当期末に政策保有株として分類される銘柄の株数減少を示す欄だからです。分類変更後の売却などがあれば、同じ範囲にはなりません。
このズレこそ重要です。売却計画の達成度を見る資料と、残存ポートフォリオの姿を見る資料は別物です。
残高の増減より、残った塊を見る
EDINET DBの連結データで政策保有株の計上額を5年並べると、値動きの大きさがさらに分かります。
| 3月期 | 政策保有株の計上額 |
|---|---|
| 2022年 | 3,935.55億円 |
| 2023年 | 2,925.58億円 |
| 2024年 | 6,562.55億円 |
| 2025年 | 3,637.08億円 |
| 2026年 | 6,581.21億円 |
この表からは、期末残高が2,000億〜3,000億円単位で振れることが分かります。したがって「残高が減った年は改革が進み、増えた年は後退した」という読み方には無理があります。見るべきは保有株数、売却価額、個別銘柄の構成です。
2026年3月期の連結純資産は1兆1,353.90億円でした。上場政策保有株6,581.28億円は、その58.0%に相当します。ROEは5.1%、会社が重視するROICは3.8%です。政策保有株をすべて処分すべきだ、という意味ではありません。しかし、資本効率を考えるときに残存ポートフォリオを脇役にはできない規模です。
私は、TBSの縮減は「外れ」ではなく、第一段階を終えたと読みました。会社資料にある累計売却の進捗と、有報の銘柄数減少は実行を示しています。ただし次の論点は、売却額の大きさから、売却後にも85.5%を占める1銘柄をどう管理し、得た資金をどう再配分するかへ移っています。
東証の資本効率改革という大きな看板より、1銘柄の株数が来年どう変わるか。その方が検証可能です。
この試算の限界
政策保有株の金額は2026年3月31日時点の貸借対照表計上額で、現在価値ではありません。上場株は期末株価の影響を受けます。また、政策保有株は提出会社単体の開示、比較に使った純資産とROEは連結です。58.0%は規模感を見るための機械的な比較であり、同一会計範囲の比率ではありません。
中計の累計売却額と、有報の「当年度に株式数が減少した銘柄」の売却価額は定義と期間が一致しません。今回のデータだけでは、累計1,100億円以上の内訳を完全には照合できません。保有の事業上の便益も、有報では定量値を確認できませんでした。
次に見るポイント
まず、2026年秋の中間期決算資料で、投資有価証券の累計売却額と資金使途を確認します。8月15日時点で発表日はIRカレンダーに未掲載です。見る場所は「キャピタル・アロケーション」です。成長投資、負債、株主還元への配分が更新されるかを追います。
次に、2027年6月ごろ提出される次回有報の「株式の保有状況」で、東京エレクトロン株15,112,049株が減ったか、上場政策保有株の銘柄数と期中売却価額がどう変わったかを確認します。金額ではなく株数を見る。これなら株価変動に惑わされません。
出所は、TBSホールディングスの2026年3月期有価証券報告書(EDINET、提出日2026年6月24日、書類ID S100YI1U)と、同社の2025年度決算資料(2026年5月14日)、IRカレンダーです。数値の抽出・集計にはEDINET DBを使いました。
本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。