マーケット深掘りノート

606億円売ったのに政策保有株は460億円増――百五銀行の有報を読む

百五銀行の2026年3月期有価証券報告書では、政策保有株式の期末残高が3,154億24百万円でした。前年は2,694億60百万円。1年で459億64百万円増えています。

この残高だけなら、「縮減方針を掲げても、持ち合い株は増えている」と読みたくなります。ところが、同じ有報の期中増減表には、売却606億61百万円、買入ゼロとあります。

売ったのに増えました。

今回の問いは一つです。百五銀行の政策保有株縮減は、実際に進んだのでしょうか。

市場が見落としやすいと考えた理由は、ランキングや貸借対照表に出るのが期末の時価残高だからです。会社の売却行動と、残った株式の値上がりが一つの数字に混ざります。残高が増えたか減ったかだけでは、資本配分を判断できません。

調べ方を先に開示します

EDINET DBの政策保有株簿価ランキングを候補抽出にだけ使い、百五銀行の2026年3月期有報「株式の保有状況」へ戻りました。主に見たのは、会社が掲載した「政策保有株式(みなし保有株式を含む)の期中増減要因」です。

計算は単純です。

前期末残高-期中売却+期中買入+株価の変動等=当期末残高

同じ表の中で定義がそろっているため、期末残高だけを年比較するより、会社の行動と市場要因を分けられます。金額はすべて2026年3月期有報から転記しました。

| 増減要因 | 金額 | |---|---:| | 2025年3月末残高 | 2,694億60百万円 | | 期中売却 | ▲606億61百万円 | | 期中買入 | 0円 | | 株価の変動等 | +1,067億25百万円 | | 2026年3月末残高 | 3,154億24百万円 |

この表から、残高が459億64百万円増えたことと、縮減行動がなかったことは同義ではないと分かります。売却による減少より、株価変動等による増加が460億64百万円大きかったため、期末残高は増えました。四つの増減要因は当期末残高と一致します。

値上がりはどこから来たのか

上位銘柄を見ると、株価要因の形が見えます。

トヨタ自動車は3,560万株で前年と同じですが、計上額は931億29百万円から1,125億67百万円へ増えました。三菱地所も449万1,000株のまま、109億22百万円から194億5百万円へ。信越化学工業も259万2,500株のまま、109億81百万円から162億26百万円へ増えています。

3銘柄の計上額増加は合計331億66百万円です。株数は変わっていません。これは株価変動等1,067億25百万円のすべてを説明するものではありませんが、残高増を「新たに資金を投じた結果」と読めない具体例にはなります。

有報の銘柄数表でも、当期に株数が増えた上場株と非上場株はいずれもゼロです。減らしたのは上場12銘柄、非上場3銘柄でした。会社は、政策保有株式をここ3年間で27先縮減し、時価ベースで約670億円減らしたと説明しています。

最初の仮説は外れました。残高が増えたから縮減していない、とは言えません。

それでも3,154億円は残る

縮減が進んだことと、政策保有株の規模が小さいことも別です。会社開示では、みなし保有株式を含む政策保有株が連結純資産に占める割合は61.1%です。2026年3月期の上場政策保有株は103銘柄、貸借対照表計上額は3,136億72百万円。非上場73銘柄、17億51百万円もあります。

私は、百五銀行を「縮減していない銀行」ではなく、「売却は進めているが、残った株式の価格変動が連結純資産に対してまだ大きい銀行」と読みました。行動は確認できました。感応度は残っています。

この違いは投資判断に効きます。残高だけを見て縮減不発と判定すれば、606億円の売却を見落とします。一方、売却実績だけを見て資本効率の課題が解消したと判定すれば、61.1%という規模を見落とします。両方を見る必要があります。

会社は2025年度から2028年度の中期経営計画で、連結純資産ROE目標を当初の5%以上から6%以上へ引き上げ、長期では8%以上を目指すとしました。2025年度実績は5.63%です。政策保有株の売却は、それだけでROEを自動的に上げるものではありません。売却で生まれた資本を成長投資、還元、リスク資産の組み替えのどこへ振り向けるかまで見て、初めて資本効率への接続が分かります。

二つの「売却額」は定義が違う

手法上の注意があります。期中増減要因表の売却606億61百万円に対し、銘柄数表にある株式数減少銘柄の売却価額は、上場181億53百万円、非上場8億17百万円です。さらに、前年にみなし保有していたトヨタ自動車と信越化学工業は、当期の欄がゼロになっています。

これらは集計範囲と金額の置き方が同じではありません。私は残高を分解する場面では、足し算が当期末残高と一致する期中増減要因表を使いました。銘柄数表の売却価額と無理に合算していません。606億61百万円を売却代金や売却益と読み替えることもしていません。

限界もあります。政策保有株の残高と株価変動等は2026年3月31日時点で、現在価値ではありません。「株価の変動等」には個別銘柄の値動き以外の要因が含まれる可能性があります。取引先ごとの関連収益と資本コストの判定値は開示されていないため、103銘柄それぞれの保有合理性は再計算できません。銀行業では営業利益ではなく経常利益を用いるため、一般事業会社と同じ損益指標で比べてもいません。

次に見る数字は決まっています

次は2027年3月期の有価証券報告書「株式の保有状況」を見ます。直近5年は6月に提出されているため、2027年6月ごろが確認時期の目安ですが、正確な提出日は未確認です。

確認するのは四つです。期中売却が606億61百万円からどう動くか、買入ゼロが続くか、3年間で27先という縮減数が増えるか、連結純資産比61.1%が下がるかです。トヨタ自動車3,560万株の株数も見ます。残高より株数を先に確認すれば、会社の行動と相場の動きを切り分けられます。

So whatは明確です。政策保有株の縮減を見るときは、期末残高の前年差ではなく、同じ有報内の増減要因表まで読む。百五銀行の2026年3月期は、その必要性が数字で出た年度でした。

出典: 株式会社百五銀行「2026年3月期 有価証券報告書」(2026年6月19日提出、EDINET書類管理番号 S100YBNQ)、EDINET DB(2026年8月9日取得)。数値は特記のない限り有報ベースです。

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。