従業員は13人減、売上は15%増――東海ソフトは「人月商売」を抜けたのか
東海ソフトの連結従業員は、2025年5月末の808人から2026年5月末の795人へ13人減りました。それでも売上高は106.80億円から122.85億円へ15.0%増えています。1人あたり売上は私の試算で1,322万円から1,545万円へ16.9%増です。
人が減っても売上は伸びた。受託開発会社の見え方としては、かなり気になる数字です。
今回の問いは一つです。東海ソフトは、人員数が売上の上限になる「人月商売」から、顧客の業務知識と現場実装力で単価と生産性を上げる会社へ移り始めたのでしょうか。
市場は同社を、景気と採用人数に左右される受託会社として見やすいはずです。一方、2026年の有報は競争力の主語を「AI活用力、顧客業務・業界知識、現場実装力」の融合へ変えました。言葉が先か、数字も伴うのか。ここに会社の実力の見え方のズレがある、というのが私のエッジ仮説です。
目次
この会社は何をしている会社か
東海ソフトは、自動車の電動化・運転支援向け組込みソフト、工場や倉庫の制御・生産管理システム、官公庁・金融向けシステムを、メーカーや大手SIerから受託して設計・開発する独立系ソフト会社です。2026年5月期の売上高は122.85億円、連結従業員795人。東証スタンダードと名証プレミアに上場し、EDINETでは情報・通信業です。2025年5月期の営業利益率10.5%は同業603社中244位で、中央値8.2%を上回る一方、上位四分位15.8%には届きません。
有報の主語は「人数」から「知識と実装」へ変わった
2025年と2026年の有報本文を比較しました。前年は「労働集約型企業から顧客事業協業型企業へ」を課題に掲げていました。今年は中期戦略を全面的に組み替え、AI、顧客業務・業界知識、現場実装力の融合、公共・社会インフラの拡大、人的資本投資を柱にしました。ROE目標も10%から12%へ上げています。
検証では、EDINETの売上・従業員数・事業区分別の販売実績と生産実績を使いました。「差額率」は(売上高-製造原価)÷売上高です。正式なセグメント利益ではなく、本社費用も含まないため、案件の採算を見る粗い物差しです。
競争力は製品ではなく、顧客が替えにくい開発体制にある
| 2026年5月期 | 売上高 | 前期比 | 売上-製造原価の差額率(試算) | 受注残高 |
|---|---|---|---|---|
| 組込み関連 | 41.70億円 | +20.2% | 26.6% | 4.92億円 |
| 製造・流通・業務システム | 62.50億円 | +18.5% | 23.1% | 14.48億円 |
| 金融・公共 | 17.53億円 | ▲6.0% | 21.0% | 2.39億円 |
この表から言えるのは、成長を牽引したのが組込みと製造DXであり、全分野が一様に伸びたわけではないことです。製造・流通・業務システムの受注残は31.9%増えましたが、金融・公共は40.9%減りました。需要の分散はあります。ただし、安定性はまだ均等ではありません。
組込み開発では、顧客固有の品質手法、車載制御、開発プロセスを覚え、大人数の案件を納期通り動かす必要があります。製造DXでは、工場設備の制御と生産管理パッケージ「mcframe」をつなぎ、MESやWMSを現場へ実装します。有報は、複数年の取引で蓄積した製品知識、制御技術、品質管理ノウハウを強みと説明しています。顧客が別会社へ替えれば、この学習をやり直す必要がある。ここがスイッチングコストです。
数字にも最低限の裏付けがあります。全社営業利益率は10.5%から11.2%へ上がり、営業利益は22.9%増えました。組込みの差額率は26.6%で3区分中もっとも高く、長期の顧客知識が採算に表れています。ただし、全社粗利率は23.85%から23.84%へほぼ横ばいでした。1人あたり売上の増加だけで、価格決定力やAIによる生産性向上が証明されたとは言えません。
構造的な行方――需要、コスト、資本配分
需要面では、SDV化で車1台に必要なソフトが増え、製造・物流の省人化でMES、WMS、搬送ロボットの接続需要が増えます。東海ソフトは車載制御と工場制御の両方を持つため、単なるプログラマー派遣より顧客の設備・業務に近い位置を取れます。一方、金融・公共の減収と受注残減少は、公共分野を安定収益源にする戦略がまだ結果になっていないことを示します。
コスト面の制約は明確です。有報は、プロジェクトマネジャーの育成に時間がかかること、協力会社の要員不足と発注価格上昇、一部の不採算プロジェクトを挙げています。AIでコード作成を速めても、要件定義、品質保証、現場調整は消えません。粗利率が横ばいだった事実は、現時点ではAIが利益率を押し上げる段階より、難しくなる案件のコストを吸収する段階に近いことを示します。
資本配分では、営業CF11.57億円に対し投資CFは0.75億円の支出で、長期借入金9.56億円を返済しました。研究開発費は0.10億円にとどまり、成長投資の中心は教育、協力会社、M&Aです。AJ・Flatの買収で人材を確保した一方、のれんは約11.67億円残ります。人数を買うだけでなく、業務知識を共有して差額率を上げられるかが資本配分の評価軸です。
株価への含意――低成長は織り込み済み、転換は未評価
2026年8月27日終値は1,703円でした。2026年5月期末純資産と自己株式控除後株数、翌期会社予想EPS187.61円から再計算すると、時価総額は約81.69億円、PBRは約1.20倍、予想PERは約9.1倍です。有報期末株価ではなく、8月27日終値ベースの機械的な試算です。
| 現値ベースの試算 | 値 |
|---|---|
| PBR | 約1.20倍 |
| 予想PER | 約9.1倍 |
| 2026年5月期ROE | 14.9% |
| 2027年5月期会社予想 | 売上+1.7%、営業利益▲1.5% |
この表から、株価は直近の22.9%営業増益が続くとは置いていないと読めます。PBR1.2倍と予想PER9.1倍は、ROE12%以上の維持より、翌期の利益足踏み、人件費、顧客集中を強く見ています。市場とのズレがあるとすれば、成長率ではなく利益の耐久力です。
私は、東海ソフトは人月商売を「抜けた」のではなく、抜けるための顧客知識をすでに持ち、AIをその増幅器にしようとしている段階だと読みました。前提は、組込みと製造DXの受注残を売上へ変えながら、全社営業利益率10%以上と1人あたり売上1,500万円前後を維持することです。その場合、現値は受託利益の継続性を低く見すぎている可能性があります。
反証条件は、全社粗利率が22%を割る、営業利益率が10%を下回る、製造DXの受注残が前年割れになる、不採算案件の説明が繰り返される、のいずれかです。そうなれば、顧客知識とAIで人員制約を超えるという読みは外れ、現在の低い利益成長の織り込みが妥当になります。
限界と、次に見るポイント
2025年5月期はAJ・Flatを約5か月だけ、2026年5月期は通年で連結しているため、1人あたり売上の比較には連結期間の差が含まれます。事業区分別の差額率はセグメント利益ではなく、価格改定率、主要顧客別売上、AI利用案件の生産性は未確認です。業界比較も受託開発だけでなく情報・通信業全体です。株価指標は8月27日時点で変動します。
次はYahoo!ファイナンスが2026年8月28日時点で「10月上旬頃」とする、2027年5月期第1四半期決算を見ます。正確な発表日は執筆時点で会社から未確認です。会社IRの決算短信とEDINETの「経営者による分析」で、組込み・製造DXの売上、製造原価、受注残、不採算案件の記述を確認します。見るべきは売上の伸びだけではありません。何人で、どの差額率で、どれだけ次期受注を残したかです。
本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。