営業利益29.6%増でも本業回復とは言えない――エイチームで見るべき利益

エイチームホールディングス(3662)は、「引越し侍」などの比較サービスや法人向け集客支援、化粧品などの通販、ゲームを運営する会社です。利用者を事業者へ紹介する報酬、商品販売、ゲーム内課金などで稼ぐ、年商約230億円のインターネット企業です。事業の中心はデジタルマーケティングで、単一のゲーム会社として見ると実態を取り違えます。決算短信
9月4日発表の決算は、営業利益が29.6%増えた一方、経常利益は63.2%減りました。私は、この営業増益をそのまま本業回復の証拠にするのは早いと読みました。同じ会社が示す「調整後EBITDA」は36.0%減っているからです。通期説明資料
今回変えたいのは、営業利益なら本業だけを測れる、という判断の前提です。
暗号資産が下がると、なぜ営業利益が増える?
鍵は子会社Paddleのポイントサービスです。利用者は歩くなどしてポイントを貯め、暗号資産へ交換できます。会社は広告収入を得る一方、将来の交換に備えて暗号資産を持ち、交換されると見込むポイント分の費用を先に計上します。この見積りが「販売促進引当金」です。事業モデル
暗号資産が値下がりすれば、利用者への交換に備えた見積負担が軽くなり、営業費用が減る方向へ動きます。しかし、会社が保有する暗号資産の価値も下がるため、こちらは営業外の評価損になります。
つまり、同じ値下がりが損益計算書の異なる場所で逆向きに効きます。会社の説明資料では、当期の販売促進引当金繰入額はマイナス2.68億円でした。これは費用を戻す方向の数字です。一方、保有暗号資産の評価損は5.99億円でした。価格変動の影響
営業利益の増加にも資産価格の変化が混ざっているため、「評価損は営業外だから営業利益だけ見ればよい」とは言えません。
調整後の利益なら、全部分かるのでしょうか
会社は償却費やM&A関連費用、ポイント事業の会計上の費用を調整した指標を示しています。ポイント費用を全て消すわけではなく、当期に付与したポイントに対応する費用へ置き換える考え方です。
この「調整後EBITDA」は、前期の17.19億円から11億円に減りました。営業利益は8.45億円から10.95億円へ増えています。前期の営業利益8.45億円は、EDINET(edinet-insight)で取得した2025年7月期有報とも照合しました。
調整後の利益まで減っている以上、経常減益を暗号資産だけの問題として片付けることもできません。一方、この指標は会社独自の定義です。買収を続ければ、調整で除いた買収関連費用も繰り返し発生し得ます。償却を除いた利益と、株主に残る現金は同じではありません。
確認する順番は、営業利益と調整後EBITDAを並べ、その差を生んだ項目を読むことです。戻入額だけを当期から引き、調整していない前期と比較しても、本業の正しい増減率にはなりません。
本業では「広告を減らせば解決」が難しくなっています
比較サイトでは、広告などで集めた利用者を事業者へ紹介して収益を得ます。集客競争が強くなると、利用者を増やすための費用が紹介報酬を圧迫します。広告を抑えれば費用は減りますが、送客と売上も減り得ます。
会社は、一部既存メディアで競争が激しくなったと説明しています。ただし全社広告費は増えておらず、118.22億円から113.79億円へ減少しました。売上に対する比率は49.4%から49.5%と、ほぼ横ばいです。データブック
費用を削った事業と、競争で費用負担が重くなった事業が混在しています。私は、全社の広告費削減だけで効率改善を判定せず、既存メディアの売上と採算を一緒に見る必要があると考えます。
対照的に、D2Cでは継続利用者が増え、売上29.46億円、セグメント利益1.86億円となりました。リピート購入が積み上がれば、新しい顧客の獲得だけに頼らず収益を作れる余地があります。事業別実績
法人向け支援や継続購入へ事業を広げる狙いは、この集客と採算の関係から読めます。ただし、まだ全体の回復を確認したわけではありません。次に見るのは、既存メディアの採算改善と継続利用の伸びが、調整後の利益増に届くかです。
次期の営業減益予想も、同じ物差しで読む
2027年7月期の会社予想は、営業利益6億円・45.2%減に対し、調整後EBITDA12億円・9.1%増です。暗号資産価格は2026年7月末から動かないと仮定し、将来の価格変動による引当金繰入や評価損益を織り込んでいません。新規M&Aの業績影響も未織込みです。予想の前提
営業減益予想だけで本業の悪化幅を測らず、反対に調整後増益予想だけで回復を確定しないことが大切です。同じ調整基準で、メディアとD2Cの改善が実績に現れれば判断を更新できます。営業利益が増えても、戻入ばかりが増え調整後利益が減るなら、回復判断は保留です。
今日、銘柄の監視欄に「営業利益との調整」「メディアの集客採算」「D2Cの継続利用」を追加します。次の具体的な日付は、有報提出予定の10月27日です。EDINETと会社IRで販売促進引当金の見積りと暗号資産注記を確認し、続く四半期決算では説明資料の調整表と事業別採算を見ます。提出予定日
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。