「50%関税」でもカナダドルは発表翌日0.2%安? 本当に重いのは別の数字です

「追加関税は50%」。この数字だけを見ると、北米の貿易がすぐに止まりそうです。ところが発表翌日のカナダドルは、米ドルに対して0.2%安の1米ドル=1.4104カナダドル。1週間ぶり安値ではあったものの、50%という見出しに比べれば反応は小さく見えます。
なぜでしょうか。市場が軽視しているから、だけではありません。今回の関税は大きな数字と小さな母数が同居しているからです。
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50%がかかるのは「カナダ産品の大半」ではありません
米国は7月20日、1930年関税法338条に基づく3本の布告を出しました。ワインやウイスキー、チーズ、蜂蜜、セメント、合板、家具、衣料、宝飾品、ホッケースティック、一部の機械・電子品など、指定されたカナダ産品に追加50%の関税を課します。発効予定は8月19日午前0時1分、米東部時間です。
一方で、エネルギー、カリ、魚、重要鉱物、すでに別の232条関税がかかる自動車などは今回の追加50%から除外されます。CSISの計算では、対象は2024年の米国の対カナダ輸入の約202億ドル、全体の4.9%です。税率は巨大でも、マクロ経済に掛ける母数は限定されています。
Capital Economicsは、米国の成長率やインフレへの影響は大きくなく、カナダへの影響も「より大きいが管理可能」とみています。米国の平均対加関税率は3.1%から5.6%に上がるとの試算です。これなら、為替市場の初動が0.2%安にとどまったことにも説明がつきます。
では、50%は誰が払うのでしょうか
関税はカナダ政府が米国へ送金する仕組みではありません。まず米国の輸入者が税関で払い、その後の負担は四つに分かれます。輸入者が粗利を削る、米国の販売価格へ乗せる、カナダ企業に値引きを求める、取引数量を減らす、です。
ここが「50%関税なら価格も50%上がる」という理解との違いです。カナダ銀行が過去の25%報復関税を調べた研究では、対象品の価格上昇は3カ月後に最大6%で、転嫁は税率の約4分の1でした。今回とは課税する国も方向も違うので、そのまま予測には使えません。ただ、税率が利益率、価格、数量に分解される構造は共通しています。
代替品を探しやすい衣料や日用品なら、カナダ企業の数量減が先に出やすいでしょう。反対に、輸送距離や地域供給の制約が強いセメントや合板では、米国の建築コストに転嫁されやすくなります。同じ50%でも、効く場所はまるで違います。
本当に重いのは「USMCA適合品も免除しない」ことです
今回の構造変化は、対象額より制度にあります。企業は、北米の原産地規則を満たせばUSMCAで無税になるという前提で、工場、部品調達、倉庫、長期契約を組んできました。しかし今回の布告は、指定品についてUSMCA適合品も免除しないと明記しました。
すると経営の問いが変わります。「原産地規則を満たすか」だけでは足りず、「免除が政治交渉で外れる可能性を何%織り込むか」が加わります。短期には8月19日前の前倒し通関、中期には米国内の代替調達や第三国への販売転換、長期には工場の投資回収期間と要求収益率の見直しへつながります。
カナダ銀行は、既存の50%鉄鋼関税後に対米鉄鋼輸出が半減したと報告しています。アルミ輸出も一度は2024年平均比で50%減りましたが、米国側の在庫が減ると初期減少分の半分超を取り戻しました。つまり、関税だけで数量は決まりません。米国がカナダ品をどこまで代替できるか、在庫がいつ尽きるかが次の分岐点です。
日本企業には「新たに50%」ではなく、生産配分で効きます
日本株で誤解しやすいのが自動車です。今回の追加50%から自動車は除外されています。USMCA適合車には、すでに非米国部分へ25%を課す別制度があるためです。
ただし無関係ではありません。トヨタはカナダでRAV4、レクサスRX・NXを生産しています。2026年3月期の有価証券報告書では、カナダ生産設備に708億円を投資予定です。売上高は前期比5.5%増の50.685兆円でしたが、営業利益は21.5%減の3.766兆円。営業利益率は10.0%から7.4%へ低下しました。関税や生産移管のコストは、売上高より利益率に先に表れやすい局面です。
したがって、トヨタやホンダを見るときは「50%を直接負担する」と読むのではなく、カナダ工場と米国工場の生産配分、値引き、在庫、設備投資の変更を見るべきです。米住宅関連では、セメントや合板の調達費が建築粗利へどう移るかが焦点になります。
8月19日に確認したい三つのこと
強気シナリオは、発効前に合意または停止が決まり、カナダドルと利上げ期待が戻ることです。基本シナリオは指定品だけで発効し、影響が酒類、家具、セメントなどの利益率と数量に集中すること。弱気シナリオはカナダが報復し、自動車やエネルギーへ対象が広がることです。
次に見るのは、8月19日午前0時1分(米東部時間)の米税関での適用、White House・USTR・カナダ政府の発表、そして発効後3カ月の対象品の輸入数量と単価です。50%という一つの数字ではなく、価格、数量、粗利、在庫のどこに負担が現れるかを追うと、このニュースの本当の大きさが見えてきます。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。