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給料は増えたのに、なぜ買い物は増えない?――プラス成長に隠れた日本経済の弱さ

・ 約5分で読めます ・ 文責: マーケット深掘りノート編集部

給料は増えたのに、なぜ買い物は増えない?――プラス成長に隠れた日本経済の弱さの図解ポスター

「給料が増えれば、消費も増える」。普通はそう考えます。ところが、2026年4〜6月期の日本経済では、少し変なことが起きました。

内閣府によると、実質雇用者報酬は前の四半期から0.8〜0.9%増えました。それなのに、民間の最終消費支出は実質で0.0%減。ほぼ横ばいです。働く人が受け取る所得は増えたのに、買い物の量は増えませんでした。

しかも、ニュースの見出しだけを見ると景気は悪くありません。4〜6月期の実質GDPは前期比0.3%増、年率換算で1.1%増。3四半期連続のプラス成長です。では、なぜ生活実感や企業の投資行動とズレるのでしょうか。

目次
  1. 「プラス0.3%」は、誰が作った成長なのか
  2. 払った金額は増えたのに、買えた量は増えていない
  3. 設備投資も「金額」と「実物量」が逆を向いた
  4. 誰の利益の、どこに効くのか
  5. 日銀には「利上げ」と「様子見」の材料が同居する
  6. 次に見るのは、見出しではなく改定の中身です

「プラス0.3%」は、誰が作った成長なのか

GDPを国内需要と海外需要に分けると、景色が変わります。内需は成長率を0.2ポイント押し下げ、純輸出は0.5ポイント押し上げました。つまり、家計や企業、公的部門を合わせた国内の需要は弱く、それを外需が上回ったため全体がプラスになったのです。

さらに純輸出の中身も重要です。輸出は実質0.5%増でしたが、輸入は1.5%減りました。GDPの計算では輸入を差し引くため、輸入が減ると成長率は上がります。しかし、輸入減が国内の消費や生産の弱さを映しているなら、それは景気の強さとは逆の信号です。今回は原油などの輸入減が寄与したと内閣府は説明しています。

在庫も見逃せません。企業の在庫残高は減っていましたが、その減少幅が年率1.8兆円から0.4兆円へ縮まりました。この「減り方が小さくなった」差がGDPを0.3ポイント押し上げています。在庫が積み上がったわけではなくても、前期との差で成長に寄与する。GDPは水準ではなく変化を測るため、こうしたことが起きます。

払った金額は増えたのに、買えた量は増えていない

家計の消費は名目で1.0%増えましたが、実質では0.0%減でした。支払った金額は増えても、物価を調整した購入量は増えていません。国内需要デフレーターが前期比1.2%上昇したこととも整合します。

ここで大事なのは、「賃金が足りないから消費できない」という説明だけでは不十分なことです。当四半期の実質雇用者報酬は増えています。それでも消費が動かなかったなら、家計が値上がりを警戒して支出を慎重にした、将来負担に備えた、あるいは所得増が消費性向の低い層に偏った、といった別の経路を考える必要があります。

ただし、これは現時点では見立てです。当期の家計貯蓄率などで確認するまでは、原因を一つに決めつけられません。確認できる事実は、「実質所得の増加が同じ四半期の実質消費増へ変換されなかった」というところまでです。

設備投資も「金額」と「実物量」が逆を向いた

企業の設備投資は名目で0.1%増でしたが、実質では1.2%減。しかも2四半期連続の減少です。設備、建設、研究開発の価格が上がれば、同じ予算でも導入できる実物量は減ります。内閣府は研究開発などが減少に寄与したとみています。

これは機械メーカーに一直線の悪材料とは限りません。日銀の7月地域報告では、建設コスト、人手不足、工事の遅れによる投資縮小が一部で見られる一方、省力化やデジタル化、AI関連の投資意欲は維持されていました。需要そのものが消えたのか、費用と供給制約で実行が遅れたのかで、企業業績への影響は大きく変わります。

たとえばファナックは、有価証券報告書で自社製品を景気変動の影響を受けやすい生産財と位置づけています。一方で、人手不足を背景に産業オートメーション需要の中長期拡大を見込んでいます。2026年3月期の売上高は8,578億円、営業利益は1,838億円、研究開発費は450億円でした(EDINET〔edinet-insight〕、端数四捨五入)。短期の設備投資循環と、長期の省力化需要を分けて見る必要があります。

誰の利益の、どこに効くのか

小売や外食では、名目売上だけを見ていると値上げ効果を景気回復と取り違えます。見るべきは既存店の客数、買上点数、値引率、粗利率です。消費者が低価格商品やPBへ移れば、ディスカウント業態にはシェア獲得の機会がありますが、仕入れ高や人件費を吸収できなければ利益率は上がりません。

FA、ロボット、工作機械では、投資延期が受注と工場稼働率を下げる経路があります。一方、人手不足が深刻なら、省力化投資は景気が弱くても削りにくい「必要経費」になります。受注総額だけでなく、国内向け、海外向け、受注残から売上への転換速度を確認したいところです。

輸出株にも注意が必要です。外需の0.5ポイント寄与を、そのまま輸出企業の売上増と読むことはできません。今回は輸入減の効果も大きいからです。企業を見るときは輸出数量、海外受注、円換算による利益押し上げを分ける必要があります。

日銀には「利上げ」と「様子見」の材料が同居する

内需の弱さは、日銀が利上げを急がない理由になります。しかし、国内需要デフレーターの上昇は物価圧力を警戒する理由です。景気が弱いのに価格が上がるなら、政策判断は難しくなります。

だから、今回のGDPを「1.1%成長だから強い」「消費が弱いから利上げなし」と一行で処理するのは危険です。日銀が見たいのは、所得増が消費数量へ波及し、需要に支えられた物価上昇へ移るかどうかです。価格だけ上がり、数量が減るなら、同じインフレでも質が違います。

次に見るのは、見出しではなく改定の中身です

最初の確認日は9月8日午前8時50分です。4〜6月期GDPの2次速報で法人企業統計が反映され、設備投資の減少が維持されるかを見ます。次は9月17〜18日の日銀金融政策決定会合です。弱い内需と物価上昇のどちらを重く評価するかが焦点になります。

そして11月16日の7〜9月期GDP速報では、実質雇用者報酬の増加が消費へ届いたか、輸入の反発が消費や生産の回復を伴っているかを確認します。プラスかマイナスかではなく、「誰が、何を、どれだけ買った結果なのか」を追うことが、今回のGDPを投資判断へつなぐ近道です。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。