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Brentだけでは足りない――イラン原油「5ドル反転」を日本株でどう見るか

・ 約4分で読めます ・ 文責: マーケット深掘りノート編集部

Brentだけでは足りない――イラン原油「5ドル反転」を日本株でどう見るかの図解ポスター

「原油が上がれば、INPEXも元売りも海運も同じように追い風」。そんな見方をいったん止める数字が出ました。

中国向けのイラン軽質原油は、2026年8月21日までの同じ週に、ICE Brent比で約3ドル安だった提示条件が、一部では約2ドル高へ変わりました。買い手から見れば、1バレル当たり5ドルの悪化です。これは取引筋が示した提示価格であり約定価格ではありませんが、「制裁原油は安い」という常識が供給不足で逆転した格好です。

日本株で変えるべき見方は、エネルギー株をBrentの上げ下げで一括せず、上流の販売単価、海運の運賃、元売りの在庫影響除き利益を別々に追うことです。

目次
  1. なぜ「値引き」が消えたのでしょうか
  2. 中国の買い先変更が、なぜ日本へ回るのでしょうか
  3. 同じ原油高でも、誰の何が変わりますか
  4. 次に何を、いつ、どこで見ますか

なぜ「値引き」が消えたのでしょうか

米国は7月13日、イランの海運・港湾に対する封鎖を再開しました。Reutersによると、中国向けの9~10月着カーゴの提示は7~8月分より減っています。Kplerの船舶データでは、封鎖区域外にあるイラン原油の洋上在庫は約1億500万バレルから約8000万バレルへ減りました。25百万バレル、約24%の減少です。

価格の反転は、この在庫減を映しています。中国はイランの船積み原油の8割超を買い、山東省の独立系製油所は中国の精製能力の約5分の1を占めます。安い原料が細れば、独立系製油所には二つの選択肢しかありません。稼働を落とすか、中東・ロシア・西アフリカなどの代替原油を買うかです。

米財務省OFACはすでに、中国の独立系製油所との取引には制裁リスクがあると注意喚起しています。中国外務省は8月21日、国際法上の根拠と国連安保理の承認を欠く単独制裁に反対すると再表明しました。8月24日に発表される新措置の対象と猶予期間は、まだ分かっていません。

中国の買い先変更が、なぜ日本へ回るのでしょうか

重要なのは、指標原油の価格だけではありません。中国の独立系製油所が代替原油へ入札すれば、アジアで実際に受け渡される原油のプレミアムが上がります。遠い産地から運べば輸送距離、つまりトンマイルも増え、VLCCの船腹と運賃が締まります。

日本は2025年の原油輸入の94.0%を中東に依存し、93.0%がホルムズ海峡を通る構成でした。2026年5月には代替調達で中東依存度が73.9%まで下がりましたが、これは供給途絶下の月次値です。中国が同じ非制裁原油を探せば、日本の買い手は原油価格に加えて現物プレミアムと運賃でも競争することになります。

供給制約が日本へ伝わる経路は「イラン原油減少→中国の代替入札→アジア現物価格と運賃上昇→日本の補充原油コスト増」です。

この読みの前提は、封鎖が続き、中国の製油所が稼働削減より代替購入を選ぶことです。逆にイランの船積みが戻り、洋上在庫が約1億500万バレルへ回復し、イラン軽質油が再びBrent比3ドル前後の値引きに戻れば、この経路は弱まります。

同じ原油高でも、誰の何が変わりますか

INPEX(1605)や石油資源開発(1662)など上流企業には、販売価格の上昇が売上と利益へ効きやすくなります。ただし販売数量、権益ごとのコスト、為替、ヘッジで感応度は変わります。

日本郵船(9101)、商船三井(9104)、川崎汽船(9107)は、代替調達の長距離化がタンカー運賃へ効きます。ただし3社はコンテナ船や自動車船も持つため、VLCC運賃の上昇を全社利益へそのまま当てはめるのは危険です。

最も時間差があるのが、ENEOS HD(5020)、出光興産(5019)、コスモエネルギーHD(5021)など元売りです。原油高の直後は、以前に安く仕入れた在庫の評価益が会計利益を押し上げる場合があります。しかし、その後の補充原油と運賃は高くなります。ガソリンやナフサへ転嫁できなければ、在庫影響を除いた製品マージンと営業キャッシュフローは悪化します。

ENEOSの2026年3月期は、棚卸資産が1兆5577.86億円、営業キャッシュフローが6199.83億円でした。棚卸資産は営業CFの約2.51倍です(EDINET(edinet-insight)、連結・年次)。価格変動が在庫評価と運転資金を大きく動かすため、営業利益の見出しだけでは実態を読み違えます。

市場も違いを意識しています。8月21日までの週間で、海運業は11.44%高、鉱業は4.55%高、石油・石炭は3.58%高でした。一方、日経平均は3.9%安です。これは将来の上昇を保証する数字ではなく、供給と運賃への感応度がすでに相対評価へ表れた観察事実です。

次に何を、いつ、どこで見ますか

まず8月24日、米財務省・OFACで新制裁の対象を確認します。見るのは「最も厳しい」という形容詞ではなく、中国の銀行・港湾・製油所・船舶への二次制裁、猶予期間、原油取引の例外です。

次に8月26日10時30分(米東部時間)のEIA週間石油統計で、米原油・製品在庫と製油所稼働率を見ます。8月31日には資源エネルギー庁の7月石油統計速報で、日本の原油輸入量、国別構成、中東依存度、燃料油在庫を確認します。

次の売買判断では、Brentの方向より先に、イラン原油の対Brent差、VLCC運賃、元売りの在庫影響除き利益の三つを並べてください。 この三つが同時に悪化するか、それとも中国の稼働低下で調達競争が止まるかが、上流・海運・元売りを分けるポイントです。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。