マーケット深掘りノート

「18.8万バレル増産」なのに、原油が増えた気がしないのはなぜ?

「18.8万バレル増産」なのに、原油が増えた気がしないのはなぜ?の図解ポスター

OPEC+が増産を決めました。数字は日量18.8万バレルです。一見すると、原油不足が和らいでガソリン代や航空運賃にも追い風になりそうです。

ところが、ここには大きなねじれがあります。IEAの6月推計では、サウジアラビア、イラク、クウェートの実生産は目標を合計で約660万バレルも下回っていました。今回の「18.8万」という増枠は、その差の3%にも届きません。

増産の見出しだけを見て原油安と決めつけると、肝心なところを見落とします。

何が決まったのでしょうか

OPECは8月2日、サウジアラビアやロシアなど7カ国が、9月の生産量を8月比で日量18.8万バレル増やすと発表しました。これで2023年に始めた日量165万バレル規模の自主減産の一層は、名目上すべて巻き戻されます。次回会合は9月6日です。

ここまでは確認できた事実です。ただし、生産枠を増やすことと、市場に原油が実際に届くことは同じではありません。

IEAによると、6月のサウジアラビアの実生産は日量734万バレルで、目標の1,029万バレルを295万下回りました。イラクは196万に対して目標435万で239万の不足、クウェートも137万に対して目標263万で126万の不足です。

一方、カザフスタンは目標を29万上回っていました。OPEC+全体を一つの数字で見るより、どの国が設備や輸送の制約を抱え、どの国が実際に増やせるのかを見る必要があります。

なぜ「紙の増産」になり得るのでしょうか

背景には中東からの輸送と精製能力の障害があります。IEAは、6月の湾岸産油国からの輸出がバイパス経由を含め日量1,610万バレルまで戻ったものの、戦争前の平均2,400万バレルには届かなかったとしています。

さらに、原油が港を出ても、製油所が平常運転に戻らなければガソリンや軽油、ジェット燃料は増えません。IEAは7月初め、石油製品の精製マージンが4年ぶりの高水準に達したと指摘しました。これは原油そのものよりも、製品を作って届ける能力が不足していたサインです。

ここからは見立てです。ホルムズ海峡の通航と湾岸の製油所が順調に復旧すれば、名目増産は実供給の回復を補強し、原油価格には下押し圧力になります。逆に通航や精製の障害が残れば、増枠は「紙の上の増産」にとどまり、製品価格は下がりにくいでしょう。

日本株にはどう効くのでしょうか

分かりやすいのがINPEXです。同社が5月に示した2026年のBrent前提は通期1バレル70〜83ドルでした。通航正常化は販売量の回復にプラスですが、供給増による油価下落は販売単価にマイナスです。つまり、原油高なら上がる、原油安なら下がるという一方向の話ではなく、「数量×価格」で考える必要があります。

EDINETの2025年有価証券報告書ベースでは、INPEXの売上高は2兆113億円、営業利益は1兆1,354億円、営業キャッシュフローは6,939億円、設備投資額は3,900億円でした。大きな投資を続ける企業だけに、価格だけでなくキャッシュフローがどう動くかが重要です。PBR0.77倍、PER9.5倍、配当利回り3.18%は有報期末株価ベースで、現在値の指標ではありません。

航空株ではANAやJALに燃料費低下が追い風となり得ますが、ジェット燃料の価格は原油と同時には下がりません。ENEOSや出光興産など元売りには仕入れコスト低下の利点がある一方、急落時には在庫評価損が出る可能性があります。海運や化学も、燃料費や原料費の低下と需要減速の影響を分けて見るべきです。

投資家として何を見ればよいでしょうか

最初の確認点は8月3日の東京市場です。OPEC+決定後の初反応なので、INPEX、元売り、航空のどこに差が出るかを見ます。ただし、寄り付きの値動きだけで結論を出すのは早計です。

次は8月7日15時30分予定のINPEX上期決算です。会社の原油価格前提、販売量、為替感応度を確認します。8月12日のIEA月報では、湾岸輸出、在庫、製品マージンの改善が続くかが焦点です。さらに9月6日のOPEC+会合で、増産方針が維持されるかを見ます。

まとめ

OPEC+の9月増産は事実ですが、日量18.8万バレルという枠だけでは需給を判断できません。主要3カ国の実生産は6月時点で目標を合計約660万バレル下回っていました。これから価格を動かすのは、増産の発表よりも、ホルムズ通航、製油所の復旧、在庫の積み上がりです。

「増産か減産か」ではなく、「何バレルが、どの経路で、どの製品として届いたか」。そこまで分解すると、エネルギー株だけでなく航空、海運、化学への影響も見えやすくなります。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。