マーケット深掘りノート

収入は増えたのに、なぜ買い物は減ったのか

収入は増えたのに、なぜ買い物は減ったのかの図解ポスター

「給料が増えれば、買い物も増える」。普通に考えればそうなりそうです。ところが、2026年6月の家計には逆の動きが出ました。

勤労者世帯の実収入は、物価の影響を除いて前年同月比2.0%増えました。一方、二人以上世帯の実質消費支出は3.3%減。季節調整済みの前月比では6.4%減でした。収入が増えたのに、財布はむしろ固くなったのです。

この数字は、単に「景気が悪い」で片づけるより、どこで支出を減らし、どこにはお金を使ったのかを見ると輪郭がはっきりします。

29万886円の中で起きていたこと

総務省が8月7日に公表した家計調査によると、6月の二人以上世帯の消費支出は1世帯当たり29万886円でした。前年同月比では名目1.5%減、実質3.3%減です。物価上昇分を除いた実際の購入量に近い動きが、名目額より弱かったことになります。

費目別では差が大きく開きました。被服及び履物は実質19.9%減、家具・家事用品は11.4%減、交通・通信は5.7%減でした。いずれも、購入時期をずらしたり、より安い選択肢に替えたりしやすい分野です。

一方、教育は20.6%増、住居は3.6%増、保健医療は1.4%増でした。教育では授業料等、住居では設備修繕・維持が寄与しています。つまり、家計が一斉にすべてを削ったわけではありません。必要性や時期が決まった支出を優先し、裁量的な買い物を後ろへずらした可能性があります。

なお、6月の数字は振れが大きい点にも注意が必要です。季節調整済み前月比は4月に1.6%増、5月に3.7%増えた後、6月は6.4%減りました。単月だけで景気後退を断定するのは早計です。それでも、実質消費が前年同月比で7か月連続減ったことは、無視しにくい流れです。

手取りが増えても、使うとは限らない

勤労者世帯の実収入は101万3986円で、実質2.0%増でした。可処分所得も81万644円で実質2.5%増えています。ところが同じ勤労者世帯の消費支出は31万420円で実質5.8%減りました。

その結果、可処分所得のうち消費に回った割合を示す平均消費性向は38.3%となり、前年の41.6%から3.3ポイント低下しました。

ここに今回の核心があります。家計は「使えるお金がない」だけでなく、「今は使わずにおこう」と判断している可能性があるのです。円安や原油高が続けば、食料や光熱費、ガソリン代が再び上がるかもしれません。将来の値上げや景気への不安があれば、増えた所得の一部を貯蓄に回すのは自然な行動です。

ただし、実収入は勤労者世帯、消費支出の総額は二人以上世帯というように、統計の母集団は完全には同じではありません。賞与月でもあり、時期ずれも起きます。「収入が増えたのに全員が節約した」とまでは言えない点は押さえておく必要があります。

小売株は「売上が増えた」で安心できない

投資家にとって重要なのは、消費の弱さが企業利益へどう伝わるかです。

たとえばイオンの2026年2月期の開示では、営業収益は10兆7153億円、営業利益は2705億円でした。営業利益率は2.52%です。出所はEDINETの有価証券報告書データです。

営業利益率が数%の小売業では、客数、買い上げ点数、値下げ率、仕入れコストのわずかな変化が利益に大きく響きます。節約志向で来店客が増えても、低価格品ばかり選ばれれば粗利率は下がるかもしれません。逆に、規模を生かした調達やプライベートブランドで価格と利益率を両立できれば、シェアを広げる機会になります。

衣料ではファーストリテイリングやしまむら、家具ではニトリHD、低価格小売ではパン・パシフィック・インターナショナルHDやセリアが観察候補です。ここで銘柄名を挙げるのは売買を勧めるためではなく、同じ「節約」でも企業によって影響経路が違うためです。

見るべき数字は、売上高だけではありません。既存店の客数と客単価、商品一点当たり単価、値下げ率、在庫回転、粗利率をセットで確認したいところです。値上げで売上が伸びても数量が落ちていれば、次の四半期に反動が出る可能性があります。

日銀には、強弱どちらの材料になるのか

弱い消費は、日銀が追加利上げを急がない理由になります。金利を上げれば住宅ローンや企業の借入負担が増え、家計と内需をさらに冷やす可能性があるからです。

しかし、反対側には円安と原油高があります。8月7日のAP報道時点ではドル円は1ドル158.35円、Brent原油は1バレル83.78ドルでした。輸入コストが上がれば、物価を通じて家計の実質購買力を削ります。日銀は「消費が弱いから待つ」のか、「物価上振れを防ぐため動く」のか、難しい判断を迫られます。

次の確認日は8月10日です。日銀が7月会合の「主な意見」を公表します。9月4日には7月家計調査が出て、実質増減率は2025年基準の消費者物価指数への移行に伴い遡及改定される予定です。そして9月17〜18日に次の日銀会合があります。

まとめ

6月の家計調査は、所得改善だけでは消費回復を保証しないことを示しました。実質収入2.0%増に対し、実質消費3.3%減。被服19.9%減、家具・家事用品11.4%減という数字からは、家計が支出先をかなり選んでいる様子が見えます。

投資家としては「内需が強いか弱いか」の二択ではなく、必要支出と裁量支出、客数と単価、売上と粗利率を分けて見ることが大切です。7月に消費が戻るのか、企業が数量と利益率を両立できるのか。そこが次の焦点です。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。