輸出が23.2%増えても、日本株をまとめて強気で見られない理由

7月の日本の輸出額は11.51兆円、前年同月比23.2%増でした。自動車や半導体・電子デバイスが伸び、比較可能な1979年1月以降で最高額です。ここだけなら、「円安で輸出企業に追い風」と考えたくなります。
ところが、同じ月の輸入額は12.15兆円、27.8%増。差し引きは6345億円の赤字で、赤字は3カ月連続でした。輸出も輸入も過去最高なのに、赤字は6月の4069億円から約56%広がっています(財務省データに基づくAP・Reuters、増加率は筆者計算)。
円安は輸出企業の円換算益を増やす一方、燃油・原材料の請求書も膨らませます。日本株を「円安メリット」で一括するのではなく、数量と単価、為替、価格転嫁を分ける必要があります。
なぜ輸出が増えても赤字なのでしょうか
貿易額は、おおまかに「数量×外貨建て単価×為替」で決まります。海外へ同じ台数の車を同じドル価格で売っても、円安なら円換算した輸出額は増えます。しかし、ドルで買う原油も同じです。同じ量を輸入しても、原油高と円安が重なると円での支払額は増えます。
7月は輸出が23.2%増えましたが、輸入は27.8%増えました。伸び率だけでなく元の金額も違うため、増加額では輸入が輸出を上回り、6345億円の差が残りました。
日本の弱点は、エネルギーを自国内で十分に賄えないことです。資源エネルギー庁によると、2024年の原油輸入は中東地域に90%以上を依存しています。米国などへ調達先を広げても、原油の国際価格、輸送距離、為替の影響を短期間で消すことはできません。
つまり今回の構造変化は、「輸出が弱いから赤字」ではありません。輸出が伸びても、それ以上の速度でエネルギーを中心とする輸入請求額が増える状態です。企業を見るときも、売上の伸びより先に、売上原価と価格転嫁の時間差を確認する必要があります。
企業の利益には同じ円安が逆向きに効きます
自動車や電子部品では、日本からの輸出数量が増え、海外売上を円に換算するなら追い風です。ただし輸出額の増加が為替だけによるものなら、円高へ戻ったときに効果は剥がれます。トヨタ自動車やSUBARUでは、北米販売台数、1台当たり採算、日本からの輸出と現地生産の比率を分けて見るべきです。
空運は逆です。航空会社は燃油を先に買い、燃油サーチャージや運賃へ反映するまで時間がかかります。しかも値上げを急げば、旅客数が減る可能性があります。
ANAホールディングスは2026年度第1四半期について、中東情勢による純財務影響をマイナス320億円と開示しました。第2四半期の想定は航空燃油120ドル/バレルでしたが、7月27日時点の実勢は約150ドル。為替も想定155円/ドルに対し160円超でした(ANA HD決算資料)。
同社の2026年3月期営業利益は2174億円でした(EDINET〔edinet-insight〕)。会社が見込む中東情勢の通期純影響600億円は、この前期営業利益の約28%に相当します。期間の異なる規模比較ですが、マクロの貿易赤字が企業の利益にどれほど大きいかを示します。
ANAはヘッジ、サーチャージ、運賃、費用削減で一部を回収しています。したがって判断軸は「原油高だから航空株に悪い」で終わりません。燃油費の増加分を何割回収できたか、その値上げで需要がどれだけ落ちたかが利益の分岐点です。
電力、小売、資源株ではどこを見るのでしょうか
東京電力HDや東京ガスでは、LNGや石炭の調達費が料金へ反映されるまでの時間差がキャッシュフローに効きます。小売や外食では、輸入食品、包装材、物流費の増加を値上げできても、客数や買上点数が落ちれば粗利は残りません。
一方、INPEXやENEOS HDのような資源・石油関連は、原油高や在庫評価が追い風になる場合があります。ただし、国内需要、精製マージン、調達先変更の費用が逆方向に働くため、「原油高=一律増益」ではありません。
先日のGDP記事では、輸入減が成長率を押し上げても、内需の強さを意味しないことを整理しました。今回の7月統計は、その次の局面です。輸入が名目額で急増したとき、今度は企業コストと物価にどう届くかを追う必要があります。関連する背景は「GDPはプラスなのに、内需株をまとめて強気で見られない理由」でも確認できます。
次に何を、いつ確認するか
最初は8月21日8時30分の全国7月CPIです。2025年基準へ切り替わる最初の月報なので、総合だけでなくエネルギー、食料、財価格を見ます。輸入コストが家計価格へ移り始めたかを確認できます。
次は9月16日8時50分の8月分貿易統計速報です。輸出入総額だけでなく、原粗油の数量と単価、自動車・半導体の数量を見ます。輸入額の伸びが輸出を下回り、赤字が縮小すれば今回の読みは弱まります。
最後は9月17~18日の日銀金融政策決定会合です。総裁会見は18日15時30分の予定です。輸入物価起点のインフレと弱い実需のどちらを重く見るかを確認します。
ウォッチリストを「円安メリット株」から、輸出数量が伸びる企業、輸入費用を回収できる企業、回収に時間がかかる企業の三つに分ける。これが今回の統計から持ち帰る判断です。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。