ANAの前提は「6月末に中東安定」だった――原油100ドルで何が変わる?

ANAホールディングスの2027年3月期計画には、気になる前提があります。「中東情勢の影響は第1四半期末までに収束し、その後は徐々に正常化する」というものです。つまり、6月末には最悪期を越える想定でした。
ところが7月23日、フーシ派がサウジ向けタンカー2隻への攻撃を発表しました。Enceliaの被弾と船上火災はサウジ当局とUKMTOへの報告で確認されています。一方、もう1隻のLaylaはフーシ派側の主張にとどまり、外部確認はありません。2隻とも被害確認済み、とまとめるのは早計です。
同日のBrent原油先物の清算値は1バレル100.69ドル。前日比6.62ドル、率にして7.0%の上昇でした。WTIも92.19ドルまで上がりました。ここで大事なのは、記事の途中で見た気配値ではなく、取引所の清算値で100ドルを超えたことです。
まだ海峡は閉じていない。それでもコストは動く
今回の攻撃を「紅海封鎖」と断定することはできません。Reutersによると、合計約400万バレルを積んだ中国向け大型タンカー2隻は7月23日もバブ・エル・マンデブを通過しました。船はまだ動いています。
それでも、企業コストは供給が完全に止まる前から上がります。船舶保険が厳しくなり、遠回りが増え、安全在庫を厚くすれば、燃料代だけでなく輸送日数や運転資金も膨らむからです。
EIAの2026年1~3月期データでは、ホルムズ海峡を日量1,460万バレル、バブ・エル・マンデブを同540万バレルの石油が通過しました。日本は2024年度速報で原油輸入の95.1%を中東に依存しています。二つの海上ルートが同時に不安定になることは、日本にとって遠い地域のニュースではありません。
なぜ「原油高なら資源株」だけでは足りないのか
7月24日の日経平均は64,611.15で引け、前日比2.73%下落しました。一方、INPEXは3,715円、0.49%高でした。原油高が上流資源会社には追い風でも、市場全体には燃料高、円安、長期金利上昇が同時に重くなる。この分岐が数字に表れています。
INPEXは、2026年12月期の原油価格が年間平均で1ドル動くと、連結損益に約55億円の影響が出ると開示しています。有価証券報告書上の2025年末確認埋蔵量は石油換算3,115百万BOEです。もっとも、7月23日の100.69ドルをこの感応度へそのまま掛けることはできません。感応度は「年間平均」の話で、販売時期、油種差、数量、為替、税金でも変わるためです。
ANA側も単純ではありません。同社が使う前提はBrentではなくDubai原油で、第1四半期130ドル、第2四半期100ドル、下期75ドル、為替は1ドル155円です。国内線向けには燃油ヘッジがあり、国際線では燃油サーチャージによる転嫁もあります。
それでも見逃せないのは、価格水準より「収束時期」のずれです。6月末に正常化へ向かうはずだった情勢が、7月23日に実攻撃へ進みました。高い油価と円安が数日で終わるのか、数週間以上続くのかで、運賃転嫁の時間差や旅行需要への影響が変わります。
投資家として次に何を見る?
第一は、攻撃の反復性です。Enceliaが航行を再開できるか、Laylaの被害が第三者に確認されるか、UKMTOの警報が増えるかを見ます。現時点で全面封鎖と実攻撃は別物です。
第二は、場中の原油価格ではなく清算値です。7月24日のBrentはReuters記事時点で98.7ドル付近へ反落しましたが、これは場中のスナップショットです。100ドル台が清算値で定着するかが重要です。
第三は、金融政策です。7月28~29日にFOMC、7月30~31日に日銀会合、8月2日にはOPEC+会合が予定されています。原油高が続けば、景気が弱くてもインフレ警戒を緩めにくくなります。8月7日のINPEX決算では、油価・為替前提と操業影響を確認できます。
まとめ
今回の変化は「原油が100ドルになった」だけではありません。封鎖宣言が、少なくとも1隻について外部確認のある実攻撃へ移ったこと。そして、航空会社が置いた収束時期を現実が越えたことです。
全面封鎖を先回りして断定するのも、単日の原油価格を年間利益へ機械的に換算するのも危険です。見るべきは、通航が続くか、清算値が高止まりするか、会社前提が修正されるか。この三つを分けて追うと、資源株と燃料需要家の違いが見えやすくなります。
出所: Reuters、AP、EIA、資源エネルギー庁、INPEX IR、ANAホールディングスIR、EDINET(edinet-insight)
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。