円安なのに、日本の輸出順位が下がったのはなぜ?

「円安なら日本の輸出は強くなる」。そう思っていた方には、少し変に見える数字が出ました。
2026年1〜6月の輸出額は、日本が3,844億ドル、台湾が4,167億ドル、韓国が4,963億ドルでした。日経の長期比較では、韓国と台湾がそろって日本を上回るのは初めてです。
しかも、日本の輸出が減ったわけではありません。財務省の貿易統計では60兆6,606億円と前年同期比13.7%増えています。増えているのに順位は下がった。このねじれを解く鍵は「ドル換算」と「何を輸出しているか」の二つです。
まず、円安はドル換算額を小さくします
日本の輸出額は円で集計されますが、国際比較ではドルへ換算します。日経が示した日本の3,844億ドルと、財務省の60兆6,606億円から逆算すると、換算水準は1ドル約157.81円です。
円安は輸出企業の円換算利益には追い風になりやすい一方、同じ円の売上をドルに直すと数字は小さくなります。台湾と日本の差は322億ドル、日本比で8.4%です。他の条件が同じなら、為替だけでも順位が動き得る幅です。
ただし、韓国と日本の差は1,119億ドル、29.1%あります。為替だけで片付けるには大きすぎます。ここで二つ目の鍵、輸出品の違いが効いてきます。
AIブームで「完成品」の金額が膨らみました
日経分析では、上期のIC輸出は韓国1,490億ドル、台湾1,330億ドルでした。どちらも輸出全体の約30%です。日本は212億ドル、約5%にとどまりました。
韓国ではSK hynixやSamsung ElectronicsがHBMやDRAMを供給し、台湾ではTSMCの先端半導体に加え、AIサーバーの組み立てが輸出額を押し上げます。韓国政府によると、上期ICT輸出は2,539億ドルで前年同期比120.5%増え、初めて総輸出の半分を超えました。半導体とSSDだけでICT輸出の83.7%を占めます。
AIデータセンターが一つ増えるたび、GPU、HBM、サーバーが大量に必要になります。単価の高い完成品を繰り返し出荷できる韓国と台湾は、輸出総額が一気に膨らみやすい構造です。
では、日本には強みがないのでしょうか
そうではありません。半導体製造装置の上期輸出は、日本が150億ドルで、韓国52億ドル、台湾35億ドルを上回りました。東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、ディスコなどは、韓国や台湾の工場が増産すると受注機会が広がります。
東京エレクトロンの2026年3月期有価証券報告書を見ると、売上高は2兆4,435億円、研究開発費は2,779億円、設備投資は2,160億円でした。設備投資は2022年3月期の572億円から約3.78倍です。出所はEDINET(edinet-insight)です。
つまり、「日本の輸出順位が下がった」と「日本の半導体装置企業に追い風がある」は同時に成立します。国の通関統計と、企業の連結利益は同じものではありません。日本企業が海外で生産した製品も、日本の輸出には入りません。
投資家として何を見ればいい?
強気のシナリオは、韓国と台湾のIC輸出が数量を伴って伸び、日本の装置・材料輸出も後から増える展開です。この場合、国別順位より、装置会社の受注、研究開発、営業キャッシュフローが重要になります。
弱気のシナリオは、AI投資の前倒しやメモリー価格上昇が一巡することです。韓国はICTが輸出の半分を超えるため、反転時の影響も大きくなります。日本企業も、増やした生産能力が固定費負担へ変わる可能性があります。
直近では8月13日のApplied Materials決算で、韓国・台湾の設備投資需要を確認します。日本では8月20日8時50分に7月貿易統計の速報が出ます。輸出総額だけでなく、半導体等電子部品、製造装置、自動車について「金額と数量が一緒に増えているか」を見たいところです。
まとめ
今回の順位逆転は、日本の輸出が突然崩れた話ではありません。円安でドル換算額が小さく見える効果と、AI向け完成品を大量に出荷する韓国・台湾の産業構成が重なった結果です。
一方、日本は装置・材料という上流で強みを持ちます。大切なのは「日本は負けた」と一括りにせず、完成品、装置、材料のどこで売上と利益が生まれるかを分けることです。次の答え合わせは、為替ではなく輸出数量と装置受注にあります。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。