売上は増えたのに営業利益は減った――「史上級エルニーニョ」を株価材料にする前に

日清オイリオグループの2026年3月期は、売上高が前年比4.4%増えました。ところが営業利益は11.7%減り、棚卸資産は13.7%増えています。
この3つの数字は、食品会社を見るときの大事な順番を教えてくれます。売上が伸びていても、原料を高く仕入れ、価格転嫁まで在庫を抱えるなら、利益は同じ方向に動かないからです。
そこへ8月13日、気になる気象予測が出ました。米NOAAは、2026年10~12月のエルニーニョが過去にない強さになる確率を69%と発表しました。「史上級なら、食品価格は全面高になるのでは」と考えたくなります。
しかし、数字をもう一段掘ると、話はそれほど単純ではありません。
95%と69%、何が違うのでしょうか
NOAAの発表には、似たような二つの確率があります。
10~12月のRONIという海面水温の指標が+2.0℃以上になる確率は95%です。これは「非常に強い」エルニーニョの基準です。一方、1950年以降の過去イベントを上回る+2.5℃以上になる確率が69%です。
つまり、95%と69%は予測の食い違いではなく、閾値が違います。そしてNOAA自身も、気象現象の強さが地域ごとの被害の大きさを保証するわけではないと注意しています。
ここを飛ばして「69%の確率で食料危機」と読み替えるのは危険です。
米は減りやすく、豆は増えやすい
GEOGLAM Crop Monitorが過去のエルニーニョ年を調べたところ、世界平均の米収量はトレンドより1.0~1.5%下がる一方、豆類は1.5~2.0%上がる傾向がありました。
地域でも差があります。インド、南部アフリカ、豪州は下振れリスクが高い一方、米国や南米南部は雨量の変化がプラスに働く可能性があります。強いエルニーニョは「すべての畑を悪くする」のではなく、雨の降る場所を組み替える現象なのです。
市場もすでに分かれています。6月18日にはエルニーニョ懸念でアラビカコーヒー先物が1.8%、ロブスタが1.2%上がりましたが、粗糖は0.7%下がりました。FAOの6月食品価格指数も前月比0.3%低下しています。一方で米価指数は3.2%上昇しました。
なお、8月13日の予測更新が翌日の先物価格をどこまで動かしたかは、清算値との因果を確認できていません。予測と値動きを安易に結びつけない方がよいでしょう。
日本の食卓には、どこから届くのでしょうか
日本は小麦消費の82.0%を輸入しています。2024年の輸入先は米国40.5%、カナダ38.5%、豪州20.9%でした。
豪州の小麦が乾燥で減っても、米国の作柄が良ければ世界全体では相殺されるかもしれません。さらにFAOは、2026/27年度の穀物生産は過去最高から減るものの高水準で、十分な在庫が供給を支えるとみています。
問題は、在庫があるかだけではありません。生産国が国内物価を抑えるため輸出を止めれば、輸入国の調達価格は上がります。肥料、燃料、海上運賃まで高くなれば、収穫量の減少が小さくても店頭価格への圧力は強くなります。
投資家として何を見ればよいでしょうか
食品株では「エルニーニョ関連」というラベルより、次の順番が重要です。
まず原料の産地です。日清オイリオは大豆、菜種、カカオなどをすべて海外から調達し、マレーシアでも事業を展開しています。次に在庫です。同社の棚卸資産は2026年3月末に1,174億32百万円まで増えました。最後に価格転嫁です。高い在庫が供給安定に役立つのか、高値づかみになって粗利を圧迫するのかは、販売価格と数量で決まります。
製粉会社では政府の輸入小麦売渡価格、食品メーカーでは粗利率と販売数量、損害保険会社では地域別の自然災害損害を確認します。東京海上HDはFY2026の自然災害損害予算を2,000億円、過去10年平均を1,609億円としています。単年の災害額だけでなく、再保険と地域分散も見る必要があります。
まとめ
今回の予測は無視できません。+2.5℃以上となる確率69%は、2026年秋から2027年前半の農産物、食品CPI、金利を考えるうえで大きな情報です。
ただし、投資判断を分けるのは気象の強さそのものではありません。米、植物油、コーヒー、小麦のどれに効くのか。どの産地が乾き、どこで雨が増えるのか。在庫が価格上昇を吸収するのか、輸出規制が防波堤を壊すのか。企業が値上げしても数量を維持できるのか。
次は8月20日のNOAA干ばつ見通し、9月4日のFAO食品価格指数、9月10日のNOAA更新、9月11日のUSDA需給報告を順に確認します。「史上級」という言葉より、品目、産地、在庫、価格転嫁を追う方が、企業利益に近づけます。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。