売れないのに牛肉が高い?Tyson決算に出た「牛不足」の逆説

スーパーで牛肉の値札を見て、「前より高くなった」と感じる人は多いはずです。普通なら、値段が上がって売れ行きが落ちれば、やがて値下げが起きそうです。
ところが、米食肉大手Tyson Foodsの最新決算は、その常識が働きにくい状況を示しました。
2026年4〜6月期の牛肉販売量は前年同期比15.9%減りました。それでも平均販売価格は12.1%上昇しています。さらに、牛肉部門の9カ月累計営業損失は7.07億ドルでした。つまり「数量は減る、価格は上がる、加工会社は赤字」という三つの現象が同時に起きています。
高く売っているのに、なぜ赤字なのでしょうか
理由は、牛肉加工会社が牛を買う段階のコストが、それ以上に上がっているからです。
Tysonは牛を育てる牧場そのものではなく、主に牛を仕入れて加工し、小売店や外食企業へ販売します。牛の供給が少なければ、原料となる牛の価格が上がります。製品価格を引き上げても、原料高をすべて転嫁できなければ利益は縮みます。
米農務省によると、2026年1月1日時点の米国の牛・子牛は8,620万頭でした。肉用繁殖牛は2,760万頭で前年比1%減、2025年の子牛生産も3,290万頭で2%減っています。米農務省は牛群が75年ぶりの低水準にあると説明しています。
牛は鶏のように短期間で供給を増やせません。繁殖牛を増やし、妊娠、出産、育成を経て食肉向けに出荷するまでには年単位の時間が必要です。このため、価格が上がったからといって翌四半期に供給が急増するわけではありません。
実際、米国の6月の牛肉・子牛肉小売価格は前年同月比11.8%上昇しました。米農務省の2026年通年予測も10.7%上昇です。販売量が減っても価格が下がらない背景には、こうした供給サイクルがあります。
それでもTyson株が上がったのはなぜ?
ここにも、もう一つのねじれがあります。
牛肉部門は苦戦しましたが、Tyson株は8月3日の通常取引で2.8%上昇しました。APによると、春季の全社利益が市場予想をわずかに上回ったことが評価されました。同社には鶏肉や加工食品もあり、牛肉だけで全社の業績が決まるわけではありません。
牛肉が高くなれば、消費者が鶏肉へ移る可能性もあります。すると、同じTysonの中でも牛肉部門には逆風、鶏肉部門には追い風という分岐が生まれます。投資家が見ているのは、単純な牛肉価格ではなく、複数のタンパク質を組み合わせた全社利益です。
日本の食卓と企業にも関係があります
この問題は米国だけではありません。
農林水産省は7月28日、輸入牛肉ロースの平均小売価格が2003年8月の調査開始以来の最高値になったと説明しました。世界的な需給の引き締まりに円安が重なれば、日本の輸入価格はさらに上がりやすくなります。
食肉加工会社では、値上げできるかだけでなく、在庫と現金の動きが重要です。伊藤ハム米久ホールディングスの2026年3月期は、売上高1兆713億8,100万円、営業利益284億5,600万円、営業利益率2.66%でした。棚卸資産は1,721億4,300万円、営業キャッシュフローは136億6,300万円です。キャッシュ・コンバージョン・サイクルは前年の61.2日から76.6日へ長期化しました(出所: EDINET〈edinet-insight〉)。
原料価格が上がると、同じ量の在庫を持つにも多くの資金が必要です。会計上の利益が出ていても、在庫に現金が滞留すれば資金効率は悪化します。同社も輸入牛肉高によって牛肉販売重量が前年を下回ったと説明しています。
外食では、ゼンショー、吉野家、日本マクドナルドなど、牛肉を多く使う企業のメニュー価格、量目、客数が焦点になります。値上げで原価を吸収しても客数が落ちれば、利益は伸びません。一方、鶏肉メニューや加工度の高い商品へ誘導できれば、商品構成の変更が緩衝材になります。
投資家として何を見ればよいでしょうか
まず、8月24日に予定されるメキシコ産生体牛の輸入再開です。米農務省はアリゾナ州Douglas港から段階的に始め、寄生虫New World screwworm対策で全頭を検査します。輸入が実際にどれだけ増えるか、検査で滞留しないかが短期の価格材料になります。
ただし、輸入再開と米牛群の再建は別問題です。肉用繁殖牛と子牛の減少が止まるかを確認しなければ、供給制約が終わったとは言えません。
企業を見るときは、販売価格だけでなく、販売重量、原料コスト、部門別利益、棚卸資産、営業キャッシュフローを並べる必要があります。牛肉から鶏肉・豚肉への需要移動も重要です。
まとめ
今回のTyson決算が示したのは、「価格上昇=企業の利益増」とは限らないことです。牛が足りない局面では、数量が減っても価格が上がり、加工会社の利益は悪化し得ます。
短期では8月24日のメキシコ産牛輸入再開、長期では肉用繁殖牛と子牛生産の反転が分水嶺です。牛肉の値札だけでなく、供給量、商品構成、在庫と現金の動きを見ることで、食品インフレの本当の影響が見えやすくなります。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。