マーケット深掘りノート

ガソリンは下がったのに、飛行機代は上がる? 米CPI「+0.1%」の中身

ガソリンは下がったのに、飛行機代は上がる? 米CPI「+0.1%」の中身の図解ポスター

「米国の物価は7月に0.1%しか上がらなかった」と聞くと、インフレはかなり落ち着いたように見えます。

ところが買い物かごを分けて見ると、景色はまったく違います。自宅で食べる食料品は前月比0.1%下がりましたが、外食は0.3%上がりました。ガソリンは2.9%下がった一方、航空運賃は2.2%上がっています。しかも前年同月と比べると、ガソリンは24.6%、航空運賃は25.5%も高い水準です。

この数字、少し変ではないでしょうか。実は、総合CPIが示す「平均」と、私たちが支出先ごとに感じる物価は同じではありません。

予想通りのCPIで、市場はいったん安心しました

米労働統計局が8月12日に発表した2026年7月の消費者物価指数は、前月比0.1%上昇、前年比3.4%上昇でした。食品とエネルギーを除くコア指数は前月比0.2%、前年比2.5%です。いずれも発表前の主要予想と一致しました。

米国市場ではS&P500が0.3%上昇し、Nasdaq総合は0.5%上昇しました。米国債利回りは低下しました。ただし、株高にはAI関連企業の成長材料も影響しており、CPIだけで株価が上がったと断定はできません。

数字の表面だけなら「大きなサプライズなし」です。しかし、重要なのはその内訳です。

住居費は前月比0.1%上昇し、総合指数の上昇分のおよそ3分の2を占めました。エネルギー全体は1.5%下落しましたが、医療サービスは0.6%上昇しています。処方薬は0.8%下落しており、同じ医療でもサービスとモノで方向が分かれました。

なぜ「物価+0.1%」でも生活が楽にならないのでしょうか

理由は三つあります。

一つ目は、前月比と前年比の違いです。ガソリンは7月だけを見ると2.9%下がりました。しかし1年前との比較では24.6%高いままです。前月より少し安くなっても、家計が「去年より高い」と感じるのは自然です。

二つ目は、支出する場所の違いです。食料品を買って自宅で食べる場合は0.1%安くなりましたが、外食は0.3%高くなりました。食材価格だけでなく、人件費、家賃、光熱費、物流費がメニュー価格に乗るためです。総合CPIが穏やかでも、サービス価格は粘着的になりやすいのです。

三つ目は、賃金との競争です。同じ日に公表された実質賃金では、全従業員の実質平均時給が前月比0.1%減、前年比0.2%減でした。物価の伸びが小さくても、名目賃金の伸びがそれを上回らなければ購買力は増えません。実質平均週給は前月比で横ばいでした。

つまり今回のCPIは、「インフレが終わった」という数字ではありません。「平均は落ち着いたが、家計と企業の負担は支出先によって大きく分かれている」という数字です。

日本株にはどうつながるのでしょうか

まず航空です。ANAホールディングスや日本航空にとって、燃油価格とドル円はコストの大きな変数です。米国の航空運賃上昇がそのまま日本に移るわけではありませんが、燃料費や供給制約を運賃へ転嫁できるかという共通の論点があります。

ANAの2026年3月期は、売上高2兆5,392億円、営業利益2,174億円、設備投資2,623億円でした。さらに有価証券報告書の航空機投資計画は総額2兆6,419億円で、予算レートは1ドル155円です。円安が進めば燃油だけでなく、ドル建て航空機投資の円換算負担も重くなります。数字の出所はEDINET(edinet-insight)です。

次に外食です。ゼンショー、すかいらーく、FOOD & LIFE COMPANIESのような企業では、メニュー価格を上げられるかだけでなく、その後に客数が維持できるかが重要です。米国で外食価格が上がる一方、実質時給が下がったという組み合わせは、「値上げできたから安心」ではなく、「値上げ後の数量を確認する」必要性を示します。

小売では、食料品価格の落ち着きが仕入れ負担を和らげる可能性があります。ただし販売単価の伸びも鈍るため、買上点数と粗利益率が改善しなければ利益にはつながりません。

投資家として次に何を見ればよいでしょうか

最初の確認日は8月13日です。米国の7月生産者物価指数(PPI)が発表されます。消費者物価が落ち着いていても、生産者段階の輸送費や原材料費が上がっていれば、企業は値上げするか利益率を削るかの選択を迫られます。

続いて8月19日のFOMC議事要旨、8月26日の7月PCE価格指数です。強気シナリオは、PPIとコアPCEも落ち着き、住居費の上昇が低いまま、実質賃金がプラスへ戻る展開です。弱気シナリオは、エネルギー・輸送費が再加速し、外食や旅行の数量が落ちる展開です。

企業決算では、航空会社の燃油単価とヘッジ、外食の客数と客単価、小売の買上点数と粗利率を見ます。「売上が増えたか」だけでなく、「価格と数量のどちらで増えたか」を分けることが大切です。

まとめ

米7月CPIの前月比0.1%は、市場にとって安心材料でした。しかし、食料品と外食、ガソリンと航空運賃、名目賃金と実質賃金はそれぞれ違う方向を向いています。

平均値が穏やかなときほど、企業ごとの価格転嫁力と数量の変化が株価を分けます。今回の数字から得られる一番実用的な教訓は、「CPIが上がったか下がったか」ではなく、「どの価格が、誰の利益と支出に効いたか」を見ることです。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。