マーケット深掘りノート

銅は最高値なのに「余っている」? 価格を押し上げる在庫の場所

銅は最高値なのに「余っている」? 価格を押し上げる在庫の場所の図解ポスター

銅先物が2026年8月6日に1ポンド6.85ドルを超えました。LMEの銅も1トン1万4,500ドル近辺です。ここまで聞くと、「AIデータセンターや電気自動車で銅が足りないから」と考えたくなります。

ところが、少し変な数字があります。国際銅研究会(ICSG)は、2026年の精製銅の世界需給を9.6万トンの「余剰」と予測しているのです。2027年の余剰予測は37.7万トンです。最高値圏なのに、世界全体では余る見通し。このねじれはどこから来るのでしょうか。

銅が足りないのではなく、置き場所が偏っている

足元の価格上昇を理解する鍵は、在庫の総量だけでなく「どこにあるか」です。

MoneyWeekがIHS Markitの船積みデータとして報じたところでは、2026年7月に米国へ流入した銅は20万トンでした。同データが遡れる2014年以降で最大です。米国が精製銅へ関税をかける可能性を見越し、輸入業者が先に現物を運び込んだとみられています。

米ホワイトハウスの2025年7月30日付布告は、精製銅に対して2027年1月から15%、2028年1月から30%の関税を検討する枠組みを示しました。商務長官には2026年6月30日までの市場報告が求められましたが、8月9日時点で最終決定は公式サイト上で確認できません。

決定が見えないからこそ、市場参加者は先回りします。銅が米国へ移れば、世界全体の量が変わらなくても、LMEなど米国外で今すぐ受け渡せる在庫は薄くなります。価格は総量だけでなく、限界的な買い手が現物を確保できるかで決まるからです。

では、AI需要は作り話なのでしょうか

そうではありません。短期の在庫移動と、長期の構造需要は両立します。

AIデータセンターには、電力ケーブル、変圧器、冷却設備、送電網接続が必要です。EVや防衛装備も銅を多く使います。さらに、新しい銅鉱山が発見から生産開始までに平均17年かかるという推計もあり、供給は急には増えません。

ただし、ICSGは2026年の世界精製銅使用の伸びを1.6%と見込み、従来の2.1%から下方修正しました。鉱山生産は1.6%増、精製生産は0.4%増の見通しです。景気減速で需要が鈍る可能性もあるため、「AIがあるから永遠に上がる」という説明では不十分です。

つまり、現在の銅価格には二つの物語が重なっています。長期では電力化とデジタル化による需要増、短期では関税前の在庫移動です。前者は数年単位、後者は政策決定や在庫放出で急に剥がれる可能性があります。

日本企業にはどう効くのでしょうか

銅高は、銅関連企業すべてに同じような追い風になるわけではありません。

古河電気工業(5801)の2026年3月期は、売上高1兆3,075.6億円、営業利益638.56億円、棚卸資産2,108.96億円でした。出所はEDINET(edinet-insight)です。同社は銅価格の上昇が売上高を押し上げた一方、利益面では販売価格の適正化や高付加価値品の拡販が効いたと説明しています。電装エレクトロニクス材料部門の売上高は3,673億円、営業利益は59億円でした。

ここから分かるのは、「銅高で売上が増える」と「銅高で利益率が上がる」は別だということです。電線会社では、原料高をどの速さで販売価格へ転嫁できるか、在庫をどれだけ抱えているか、光通信や高機能材など高付加価値製品の比率が重要です。

JX金属(5016)、三菱マテリアル(5711)、住友金属鉱山(5713)のような資源・製錬側では、銅価格だけでなく、鉱山持分、生産量、精鉱の調達条件、為替が利益を左右します。古河電工(5801)、住友電工(5802)、フジクラ(5803)のような電線側では、データセンターや送電網の数量増が追い風になる一方、価格転嫁の遅れがリスクです。

投資家として何を見ればよいか

第一は、米国の精製銅関税の正式決定です。関税が見送られたり、米国に積み上がった在庫が放出されたりすれば、地域間プレミアムは急速に縮む可能性があります。

第二は、COMEX、LME、上海の在庫推移です。総在庫だけでなく、どの地域で増減しているかを確認します。現物と3カ月物の価格差も、目先の逼迫度を測る材料になります。

第三は、企業決算の棚卸資産、営業キャッシュフロー、価格転嫁です。古河電工の2026年3月期の営業キャッシュフローは281.16億円、設備投資は566.62億円でした(EDINET〔edinet-insight〕)。銅高で名目売上が膨らむ局面ほど、運転資金と現金創出力をセットで見る必要があります。

まとめ

銅の最高値圏は、AI・送電網・EVという本物の長期需要だけでは説明し切れません。世界需給は余剰予測でも、関税を見越して現物が米国へ偏れば、米国外の利用可能在庫が薄くなり、価格は上がります。

強気シナリオは、在庫偏在が続く間に構造需要が予想を上回ることです。弱気シナリオは、関税プレミアムが剥がれ、ICSGの余剰予測が表面化することです。次に見るべきは「銅が足りるか」だけでなく、「銅がどこにあり、誰が価格転嫁できるか」です。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。