マーケット深掘りノート

売上44.7%増なのに、なぜ「もっと必要」なのか? TSMCの7月数字を読み解く

売上44.7%増なのに、なぜ「もっと必要」なのか? TSMCの7月数字を読み解くの図解ポスター

TSMCの7月売上高は、前年同月比44.7%増の4,675.8億台湾ドルでした。数字だけを見ると、AI半導体ブームがさらに加速しているように見えます。

ところが、会社の第3四半期計画から逆算すると、少し変な景色が見えてきます。計画の下限を達成するためにも、8月と9月は月平均4,798.1億台湾ドルが必要です。つまり、44.7%増だった7月より、さらに2.6%高い売上が求められます。

「記録的に強い」と「まだ計画を上回っていない」が同時に成立しているのです。

まず、何が起きたのでしょうか

TSMCが2026年8月10日に発表した7月の連結売上高は4,675.8億台湾ドルでした。6月の4,426.8億台湾ドルからも5.6%増えています。1〜7月累計は2兆8,720.64億台湾ドルで、前年同期比37.0%増です。なお、月次数値は未監査です。

背景には、NVIDIAやAMDなどが設計するAI向け半導体の強い需要があります。TSMCの第2四半期では、7ナノ以下の先端プロセスがウェハー売上の77%を占めました。内訳は2ナノ3%、3ナノ30%、5ナノ33%、7ナノ11%です。

ここまでなら、素直な好材料に見えます。ただし、投資家が比べるべき相手は前年だけではありません。会社自身が置いた第3四半期のハードルです。

「+44.7%」でも、計画に対してはほぼ3分の1

TSMCの第3四半期売上高ガイダンスは446億〜458億ドルです。会社が使う前提為替、1ドル=32台湾ドルで換算すると、1兆4,272億〜1兆4,656億台湾ドルになります。

7月実績の4,675.8億台湾ドルは、この計画の31.9〜32.8%です。3カ月の最初の1カ月としては、ほぼ3分の1にすぎません。

残る8月と9月に必要なのは、合計9,596.2億〜9,980.2億台湾ドル。月平均では4,798.1億〜4,990.1億台湾ドルです。上限達成なら、7月を6.7%上回る月次売上が2カ月平均で必要になります。

前年比の伸び率は派手でも、会社計画に対する上振れはまだ確認できていません。これが一つ目のねじれです。

売上が増えても、利益率は少し下がる計画です

二つ目のねじれは利益率です。TSMCの第2四半期は粗利益率67.7%、営業利益率60.3%でした。ところが第3四半期のガイダンスは、それぞれ65〜67%、56〜58%です。

中間値で見ると、粗利益率は1.7ポイント、営業利益率は3.3ポイント低くなります。

これは需要が弱いと断定する数字ではありません。2ナノの立ち上げ、海外工場の稼働、減価償却、製品構成など、成長のためのコストが先に出る可能性があります。一方で、AI向けの売上が伸びれば何でも高採算になる、という単純な話でもありません。

強気の材料は、先端半導体の数量が増え続けていることです。弱気の材料は、能力増強の固定費と、顧客側の巨額なAI投資がいつ回収へつながるか分からないことです。事実として確認できたのは売上と会社計画であり、コスト要因の寄与度は今後の開示で確かめる必要があります。

日本の半導体装置株には、どう効くのでしょうか

TSMCが2ナノや3ナノを増産すれば、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、アドバンテスト、ディスコなどには受注機会が広がります。成膜、エッチング、洗浄、検査、切断・研削と、工程ごとに日本企業の装置が使われるためです。

ただし、TSMCの売上増をそのまま日本企業の利益増へ置き換えるのは危険です。

東京エレクトロンの2026年3月期有価証券報告書を見ると、売上高は2兆4,435.33億円で前年比0.5%増でしたが、営業利益は6,249.36億円で10.4%減りました。一方、設備投資は2,160億円で33.3%増、研究開発費は2,778.66億円で11.1%増です。出所はEDINET(edinet-insight)です。

需要を取り込むために自社も先行投資を増やせば、売上より先に費用が出ます。見るべきなのは「TSMCが好調か」だけでなく、日本企業の受注残、検収の時期、粗利益率、営業キャッシュフローです。

前回の記事では、韓国・台湾の輸出額が日本を上回った一方、日本が装置で強みを持つ構造を整理しました。今回のTSMC月次は、その装置需要を測る具体的な一歩です。関連記事: 円安なのに、日本の輸出順位が下がったのはなぜ?

投資家として、次に何を見ればいい?

最初の答え合わせは8月13日のApplied Materials決算です。ファウンドリー・ロジック向け装置需要が、台湾や韓国でどこまで続いているかを確認できます。

次は8月26日のNVIDIA決算です。データセンター売上と粗利益率、次世代GPUの供給制約が、TSMCの増産と最終需要をつなぎます。

そして9月10日13時30分(台北時間)に、TSMCの8月月次売上が出ます。目安は4,798億台湾ドルです。ここを上回れば第3四半期計画の下限ペースを維持し、下回れば9月に必要なハードルがさらに上がります。

まとめ

TSMCの7月売上44.7%増は、AI半導体需要がなお強いことを示す確かな数字です。しかし、会社計画から逆算すると、8〜9月には7月以上の月次売上が必要です。利益率ガイダンスも第2四半期実績を下回ります。

大切なのは、派手な前年比だけで判断しないことです。月次売上が計画のどこにいるのか、増収が利益率へどう変わるのか、日本の装置企業では受注がキャッシュへいつ転換するのか。この三段階を分けると、AIブームの中身が見えやすくなります。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。