「8%から1%」なのに、食品は7%安くならない?

スーパーで税抜100円の商品を買うと、今の税込価格は108円です。食料品の消費税率が1%になれば101円。税率は7ポイント下がりますが、レシートの金額は7%ではなく、約6.48%下がります。
この小さな計算の違いに、今回の政策を見るポイントが詰まっています。高市首相は2026年7月30日、2027年4月から2年間、飲食料品の税率を8%から1%へ下げる案を軸に、法改正の党内手続きを進めるよう自民党幹部へ指示しました。
ただし、現時点で法律が成立したわけではありません。国民会議の取りまとめ、与党内の税制協議、法案提出、国会審議を経る必要があります。「来年4月から確実に1%になる」と決めつけず、制度の段階を分けて見ることが大切です。
家計には、どれくらい効くのでしょうか
総務省によると、2025年の二人以上世帯の食料支出は月8万9,754円で、消費支出の28.6%を占めました。ただし、この「食料」には外食なども含まれます。全額が1%税率の対象になるわけではありません。
大和総研は、食料品税率を1%へ下げた場合、1世帯当たりの年間負担軽減額を約8万円、消費者物価指数への直接効果をマイナス1.5%と試算しています。日々の買い物価格には、かなり見えやすい効果です。
一方で、減税額は食品を多く買う世帯ほど大きくなります。同じ試算では、年収上位20%世帯の軽減額は下位20%世帯の約2倍です。所得に対する負担率では低所得世帯の助けになりますが、受け取る金額そのものは高所得世帯の方が大きい。このため、1%分に相当する年約6,000億円を中低所得者へ給付し、「実質ゼロ」にする案が組み合わされています。
スーパーに追い風、外食に逆風――と単純には言えません
今は、持ち帰り食品が8%、店内飲食が10%です。新制度案では持ち帰りが1%、店内は10%のままなので、税率差は2ポイントから9ポイントへ広がります。
税抜100円なら、持ち帰りは101円、店内飲食は110円です。日常のランチをスーパーの総菜やコンビニのおにぎりへ置き換える動きは起こりやすくなります。帝国データバンクも、価格への転嫁が大きく、所得環境が弱い場合は、店内飲食から内食・中食への代替が強まりやすいと整理しています。
ただし、外食がすべて不利になるわけではありません。テイクアウト比率の高い企業は、店内から持ち帰りへ販売構成を移せます。家族の会食や高付加価値店は、料理だけでなく「その場で過ごす体験」があるため、価格差だけでは置き換わりません。
スーパー側も、減税だけで利益が増えるとは限りません。ライフコーポレーションの2026年2月期は、売上高8,813億円に対して営業利益260億円、営業利益率は2.95%でした。出所はEDINET(edinet-insight)です。食品小売は薄利で、POS改修、値札変更、販促、価格競争の影響を受けやすい業態です。
減税分を価格へ完全に反映すれば集客には有利ですが、利益率は大きく上がりません。反対に、価格をあまり下げなければ一時的に粗利は改善しても、競合店が値下げすれば客を奪われます。海外の例では、ドイツの2020年の一時的なVAT減税で、小売価格への転嫁率は平均約86%だったとの分析があります。日本でも「税率が下がった分だけ、必ず価格が下がる」とは限りません。
4.4兆円を使って、GDPは0.3兆円増?
今回の数字で最も引っかかるのは、政策コストと景気刺激効果の差です。
大和総研は、1%への引き下げによる年間税収減を約4.4兆円、個人消費の増加を約0.4兆円、GDP押し上げを約0.3兆円と試算しています。食品は必需品なので、価格が下がっても消費量を何倍にも増やすものではありません。家計が浮いたお金を貯蓄に回せば、景気刺激はさらに小さくなります。
政府は特例公債に頼らず、補助金や租税特別措置の見直しなどで財源を確保するとしています。しかし、具体的な項目と金額はまだ示されていません。市場が「2年で本当に8%へ戻せるのか」と疑えば、国債利回り上昇や円安を通じて輸入食品の価格が上がり、せっかくの負担軽減を一部打ち消す可能性があります。
投資家として、何を見ればよいでしょうか
一つ目は、店頭価格への転嫁率です。税抜100円の商品が本当に101円になるのか、それとも原材料費や人件費の上昇で104円、105円にとどまるのか。スーパー各社の既存店客数、買上点数、粗利率に差が出ます。
二つ目は、外食の客数とテイクアウト比率です。ファストフードやファミレスでは、店内から持ち帰り、あるいは中食への移行が起きるかもしれません。客単価だけを見ると値上げで隠れてしまうため、客数と販売構成を分けて確認したいところです。
三つ目は、秋の臨時国会で示される財源です。税収減約4.4兆円に、1%相当の給付約6,000億円を足せば、単純計算で年約5兆円規模です。どの歳出を削り、国と地方の減収をどう埋めるのかが、国債市場と円相場を左右します。
そして最後は、2029年4月です。税抜価格が同じなら、101円から108円へ戻ると約6.93%の値上がりになります。2年間の原材料・賃金上昇が重なれば、終了時の負担感は導入時の値下げ感より大きくなるかもしれません。
この政策は、スーパー株だけの話ではありません。家計、外食、POS、国債、円が一本の線でつながるテーマです。「いくら安くなるか」だけでなく、「誰が負担し、2年後にどう戻すか」まで見て初めて、投資材料としての全体像が見えてきます。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。