マーケット深掘りノート

45億ドルの自社株買い――「現金をためるBerkshire」が動き始めた?

45億ドルの自社株買い――「現金をためるBerkshire」が動き始めた?の図解ポスター

約4,000億ドルも現金を持っている会社が、たった3カ月で319億ドルを減らしました。

319億ドルは、1ドル=150円と仮定すれば約4.8兆円です。ただし、この記事では為替換算額を比較には使いません。大切なのは金額の巨大さより、その現金がどこへ移ったかだからです。

2026年8月8日に発表されたBerkshire Hathawayの4〜6月期決算では、営業利益が前年同期比16.3%増の129.83億ドルになりました。それだけなら「さすがBerkshire」で終わる話です。

ところが、現金と短期国債などは3月末の3,974億ドルから6月末の3,655億ドルへ減りました。新CEOのGreg Abel氏が、Buffett時代に積み上がった現金を本格的に動かし始めた可能性があります。

利益が増えたのに、なぜ現金が減ったのでしょうか

まず事実を分けます。

営業利益は129.83億ドルで、前年同期の111.60億ドルから16.3%増えました。GAAPベースの純利益は256.67億ドルで、前年同期の123.70億ドルから107.5%増えています。

ただし、純利益には保有株の値上がりによる評価益が入ります。前年にはKraft Heinz株の38億ドル減損もありました。その反動もあるため、純利益が2倍になったことを、そのまま本業が2倍になったと読むことはできません。

本業を見るなら営業利益、資本配分を見るなら現金と投資先です。

Berkshireは4〜6月期に約45億ドルの自社株買いを行いました。1〜3月期は約2.34億ドルだったので、金額は約19倍です。6月にはAlphabetへ100億ドルを私募で投資し、Class AとClass Cをそれぞれ1,400万株取得しました。

さらに7月24日には住宅会社Taylor Morrisonの買収を完了しています。株式価値は68億ドル、企業価値は85億ドルです。これは6月末より後なので今回の現金残高にはまだ反映されていません。つまり、7〜9月期にも資金移動が続きます。

「現金を使えば良い会社」ではありません

現金が多い会社を見ると、「ため込まずに投資や還元へ回してほしい」と考えがちです。しかし、使えば自動的に企業価値が上がるわけではありません。

自社株買いなら、買った価格が内在価値を下回っている必要があります。企業買収なら、買収後の利益とキャッシュフローが支払額を上回らなければなりません。外部株式への投資も同じです。

現金の見方をもう少し一般化した記事として、「現金が多い会社はどう見る?有価証券報告書で資本配分を読む方法」も公開しています。現金残高だけでなく、営業キャッシュフロー、ROE、配当、自社株買いを同じ期間で見るという考え方です。

Berkshireの場合、2Qの自社株買い45億ドルは大きく見えますが、6月末の現金等3,655億ドルに対して約1.2%です。経営陣が自社株を割安と判断したシグナルにはなりますが、余力の大半を使ったわけではありません。

むしろ投資家が見るべきなのは、Alphabet、Taylor Morrison、自社株という三つの配分先が、数年後に短期国債を上回る収益を生んだかです。

好決算の中に、GEICOの45%減があります

もう一つ、見落としやすい数字があります。

Berkshire全体の営業利益は16.3%増えましたが、自動車保険のGEICOは引受利益が前年同期比45%減りました。鉄道、エネルギー、製造・サービスなどが補ったため、全社では増益になっています。

これはBerkshireの分散経営の強さです。同時に、中核である保険の弱さを全社数字が隠しているとも言えます。

保険会社は、顧客から受け取った保険料を事故の支払いまで運用できます。この「フロート」が安定して増え、引受でも利益を出せることがBerkshireの低コスト資金の源泉です。事故頻度や修理費が上がり、保険料の改定が追いつかなければ、その優位性は弱まります。

したがって今回の決算は、「現金を使い始めた」という強気材料と、「GEICOの採算が悪化した」という弱気材料を別々に評価する必要があります。

日本の総合商社にもつながる話です

Berkshireは伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住友商事、三菱商事の5大商社を長期保有しています。伊藤忠は2026年2月、Berkshireの議決権比率が10%を超えたと公表しました。

Abel体制が資本配分を止めていないことは、「Buffett氏がCEOを退いた後も日本株を持ち続けるのか」という不安を和らげます。ただし、今回の決算だけで日本株を買い増したとは言えません。そこは事実と期待を分ける必要があります。

三菱商事の2026年3月期有価証券報告書を見ると、収益は18兆9,159.95億円、純利益は8,004.60億円、営業キャッシュフローは1兆4,900.41億円でした。期末現金は1兆8,414.64億円、財務キャッシュフローは8,046.84億円の流出です。出所はEDINET(edinet-insight)です。

商社もBerkshireと同じく、単一事業の会社ではありません。資源、食品、機械、電力、金融などから生まれた現金を、次の投資、配当、自社株買いのどこへ回すかが評価を左右します。純利益の増減だけでなく、営業キャッシュフローと配分先を見る必要があります。

次に確認する数字は三つです

一つ目は、8月10日の米国市場でのBRK.Bの終値と出来高です。決算は土曜日に出たため、執筆時点では通常取引の反応がまだありません。

二つ目は、8月14日が提出期限のForm 13Fです。米国上場株の新しい投資先や買い増しが見えてきます。ただし、日本の普通株保有は13Fだけで完全には追えないため、日本の大量保有報告も別に確認します。

三つ目は、次の四半期のGEICO引受利益と損害率です。Alphabet投資や住宅会社買収は長期で見るテーマですが、保険採算の悪化は足元の利益と資金調達力に直結します。

今回の決算は、Berkshireが急に攻めの会社へ変わった証明ではありません。ただ、約2.34億ドルだった自社株買いが45億ドルへ増え、100億ドルの外部投資と68億ドルの買収を重ねたことは、Abel氏が現金の使い方で自分の時代を作り始めたサインです。

投資家が見るべきなのは、現金が減ったことではありません。減った現金が、将来どれだけの現金を連れて戻ってくるかです。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。