株数は5年で69.2%減? 日本瓦斯の有報を同じ物差しで測り直す
「株数変化率(5年)マイナス69.2%」。8月14日にEDINET DBの横断データを走らせると、日本瓦斯が上位に出てきました。
5年で株数が7割近く減ったのなら、1株当たり利益には強烈な追い風です。ただ、2026年3月期の有価証券報告書にある期末発行済株式数は1億1,282万7,198株。2022年3月期は1億1,860万3,698株です。減少率は4.9%で、69.2%とは合いません。
ここに違和感がありました。
今回の問いは一つです。日本瓦斯の1株利益の伸びは、長期の株数減によるものなのか、それとも本業の利益成長によるものなのか。株式分割をまたぐ横断値をそのまま使わず、有報の同じ欄、同じ基準日で測り直します。
なぜ見落とされるのか
自己株式の取得は、その都度ニュースになります。一方、投資家が実際に持つ1株の取り分を考えるには、取得額ではなく、消却や期末の自己株式まで反映した株数を追う必要があります。さらに株式分割をまたぐと、機械集計の増減率は大きく振れます。
市場が見落としやすいのは、イベントではなく「同じ定義で測った分母の軌跡」です。今回のエッジ仮説はここに置きました。
有報のどこを、どう計算したか
使ったのは、EDINET DBの shares-change-5y による候補抽出と、日本瓦斯(EDINETコード E03051)の2022年3月期から2026年3月期までの有報5期分です。横断値は候補を見つけるためだけに使い、結論には使いません。
各年の有報から「発行済株式」「自己株式等の状況」「主要な経営指標等の推移」を取りました。実質株数は、次の機械的な式でそろえています。
実質株数 = 期末発行済株式数 - 期末自己株式数
利益は連結、株式数は有報の株式欄です。営業利益と親会社株主に帰属する当期純利益、EPSも同じ5期データから確認しました。最新の2026年3月期有報は2026年6月19日提出のEDINET開示書類です。
| 3月期 | 期末発行済株式 | 期末自己株式 | 実質株数 | 営業利益 | 純利益 | EPS |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022年 | 118.60百万株 | 2.12百万株 | 116.49百万株 | 127.86億円 | 99.72億円 | 86.24円 |
| 2024年 | 115.32百万株 | 2.31百万株 | 113.01百万株 | 174.42億円 | 108.25億円 | 95.64円 |
| 2026年 | 112.83百万株 | 4.99百万株 | 107.84百万株 | 212.78億円 | 148.15億円 | 136.69円 |
この表から言えることは、まず「69.2%減」は同じ物差しで測った株数減ではない、ということです。実質株数は116.49百万株から107.84百万株へ7.4%減りました。小さくはありません。ただし、7割減とは別物です。
69.2%の正体は何か
日本瓦斯は2021年4月1日付で、普通株式1株を3株にする株式分割を実施しています。同社の株主還元方針ページにも分割条件が明記されています。横断データ側は「分割調整済み」とされていますが、今回の69.2%という値は、有報の期末株数を同一定義でつないだ結果とは整合しません。5年前の境界にある分割の影響を十分に除き切れていない可能性が高い、と私は読みました。
これは横断データが役に立たない、という話ではありません。むしろ逆です。異常値は問いの入口になります。ただし、順位を答えにしてはいけません。
EPSの伸びは「株数減だけ」ではなかった
2022年3月期から2026年3月期までに、営業利益は127.86億円から212.78億円へ66.4%増えました。純利益は99.72億円から148.15億円へ48.6%増、EPSは86.24円から136.69円へ58.5%増です。
純利益よりEPSの伸びが9.9ポイント大きい。この差には株数減が効いています。しかし、営業利益そのものの伸びはEPSの伸びを上回りました。したがって「自社株式の取得でEPSだけを押し上げた」という仮説は外れました。本業の利益成長が先にあり、分母の縮小が1株当たりの成果を上乗せした形です。
有報の経営分析にも裏付けがあります。2026年3月期はLPガスの顧客数が前年同期末比2万1千件増の105万1千件となり、電気の顧客数も2万4千件増の40万4千件でした。電気事業の売上総利益は前期比26.5%増の66.13億円です。利益の増加を説明する事業側の数字があります。
資本側も一度きりではありません。EDINETの自己株式欄では、2022年3月期から2025年3月期までの4期に合計776万4,300株の消却が記録されています。営業キャッシュフローは5期すべてプラスで、2022年3月期の206.94億円から2026年3月期の281.88億円へ増えました。ROEも14.1%から22.0%へ上昇しています。
会社の説明とも方向はそろいます。2026年4月30日時点の株主還元方針では、2024年3月期から2026年3月期まで配当と自己株式取得で還元を拡充した一方、2027年3月期からの新計画では配当に重点を移し、自己株式取得は株価を見ながら機動的に行う方針です。過去の減少率をそのまま未来へ延ばす前提は置けません。
私の解釈
私は、日本瓦斯の株数減を「派手な69.2%」ではなく、「本業利益が伸びる間に、実質株数を4年で7.4%減らした資本配分」と読みます。
重要なのは順番です。営業利益が66.4%増え、そのうえで実質株数が減った。利益が横ばいのまま分母だけを縮めたケースとは、1株利益の質が違います。数字はここを分けて見せます。
一方で、ROE22.0%は利益成長だけでなく、自己資本比率が46.7%から40.9%へ低下した影響も受けます。ROEだけを見て事業の収益性が同じ率で改善したとは言えません。営業利益、投下資本、株数を別々に見る必要があります。
この試算の限界
実質株数は期末時点の発行済株式数から自己株式数を引いた単純計算です。期中平均株式数で計算されるEPSとは基準日が違うため、私の計算した分母減少率とEPSの差は完全には一致しません。自己株式には信託保有分の扱いなど開示上の差もあります。
また、この記事は株価、PBR、配当利回り、時価総額を使っていません。したがって現在のバリュエーションについては何も結論していません。横断値の69.2%についても、分割のどの処理段階で差が生じたかまでは未確認です。
次に、何をいつ見るか
次は2027年3月期第2四半期決算の公表時点で、決算短信の「期末発行済株式数」「期末自己株式数」と、キャッシュ・フロー計算書の財務活動を確認します。発表日は2026年8月14日時点で未確認です。見る場所は同社IRの決算資料です。
確認点は二つです。第1に、新中期計画で配当重視へ移ったあとも実質株数が減るのか。第2に、LPガス顧客数105万1千件、電気顧客数40万4千件からの純増が、営業利益の伸びにつながるのか。株数減が止まってもEPSが伸びるなら、本業の検証は一段進みます。
本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。