マーケット深掘りノート

10年で株数92.3%減は本当か——住友大阪セメントの「併合」を除いて読む

住友大阪セメントの発行済株式数は「10年で92.3178%減」。EDINET DBで約3,800社を横断したときに出てきた数字です。

92%減なら、10年前に100株あったものが8株弱になった計算です。これをそのまま読めば、残った1株の持ち分は大幅に増えたように見えます。

しかし、ここには違和感があります。株式併合は株券の単位を変えるだけで、株主全体の持ち分を減らしません。では、この92.3%のうち、実際の自己株式消却による減少はどこまでなのでしょうか。

今回の問いは一つです。住友大阪セメントの「10年株数92.3%減」は、1株当たり価値を高めた実績として読めるのかを確かめます。

まず、92.3%を同じ単位に直す

使ったのは、EDINET DBの「株数変化率(10年)」、同社の2022年3月期から2026年3月期までの連結財務と発行済株式数、2018年3月期および2026年3月期の有価証券報告書です。利益は連結、発行済株式数は有報の「主要な経営指標等の推移」と「発行済株式総数、資本金等の推移」から取りました。

横断値の計算は、期末発行済株式数について「直近値÷10年前の値-1」です。直近は32,068,117株、比較元は417,432,175株でした。計算するとマイナス92.32%になります。

EDINET DBの指標説明は「split調整済」としていましたが、今回の個社値は上の未調整計算と一致しました。このため、横断値は候補抽出にだけ使い、企業の開示で調整し直します。

ところが、2018年3月期有報には、2018年10月1日付で普通株式10株を1株に併合するとあります。併合前の417,432,175株を現在と同じ単位に直すと、理論上41,743,218株です。

| 比較方法 | 10年前の株数 | 2026年3月期 | 変化率 | |---|---:|---:|---:| | 併合を調整しない表示 | 417,432,175株 | 32,068,117株 | -92.32% | | 10株→1株を調整 | 41,743,218株 | 32,068,117株 | -23.18% |

この表から言えるのは、92.3%減の大半が株式の単位変更だということです。10株を1株にまとめた90%分は、株主還元ではありません。横断値を「自社株買いを続けた実績」と読む仮説は、そのままでは外れました。

ただし、併合を調整しても23.2%減っています。誤差を除いたら何も残らない、という結果でもありませんでした。

実際の株数減少は、毎年一定ではない

次に、直近5期だけを有報の同じ欄で追いました。ここはすべて併合後の同一単位です。

| 期末 | 発行済株式数 | 前年からの減少 | |---|---:|---:| | 2022年3月期 | 37,243,217株 | — | | 2023年3月期 | 34,329,517株 | 2,913,700株 | | 2024年3月期 | 34,329,517株 | 0株 | | 2025年3月期 | 33,237,017株 | 1,092,500株 | | 2026年3月期 | 32,068,117株 | 1,168,900株 |

この表から、4年間で5,175,100株、率にして13.90%減ったことが分かります。毎年機械的に減らす方針ではなく、減らした年と動かなかった年があります。それでも単発の発表ではなく、複数回の消却が期末株数に残っています。

2026年3月期の1,168,900株については、会社の2025年12月19日付開示でも、消却前の発行済株式総数の3.52%を12月26日に消却すると確認できます。有報の期末値32,068,117株とも一致します。

数字は、併合と消却を分けて初めて意味を持ちます。

EPSの伸びは、利益だけでは説明できない

では、実際に減った株数は1株当たり利益にどこまで効いたのでしょうか。

2022年3月期から2026年3月期に、親会社株主に帰属する当期純利益は96.74億円から112.14億円へ15.9%増えました。同じ期間のEPSは262.77円から349.58円へ33.0%増えています。

ここで、有報の当期純利益をEPSで割り、EPS計算に使われた期中平均株式数を逆算しました。2022年3月期は約3,681.5万株、2026年3月期は約3,207.8万株で、12.9%減です。

2026年の利益112.14億円を2022年の期中平均株式数で割ると、EPSは304.60円になります。実績349.58円との差44.98円が、株数減少による機械的な押し上げ分です。2022年からのEPS増加86.81円のうち約52%に当たります。これは「先に利益の変化、次に株数の変化」と置いた順序依存の分解ですが、分母の効果が小さくないことは確認できます。

一方、利益は一直線ではありません。2023年3月期は57.19億円の純損失、2024年3月期は153.39億円の純利益、2025年3月期は90.08億円でした。株数減少はEPSを支えますが、事業利益の振れを消すものではありません。

私は、住友大阪セメントを「10年で株数を92%減らした会社」ではなく、併合という大きなノイズの下に、実質23%の株数減少が隠れていた会社と読みました。横断スキャンは入口として機能しました。ただし、順位や表示値は結論になりません。

還元は続くのか

2026年5月公表の中期経営計画によると、2024年3月期から2026年3月期までの株主還元は220億円、3カ年平均の総還元性向は62%でした。2027年3月期から2029年3月期は、総還元性向を3カ年平均50%以上、1株当たり配当を年120円以上とする計画です。

ただし、自己株式の取得は「株価水準などを総合的に勘案しながら機動的に実施」とされています。今後も同じ速度で株数が減ると約束されているわけではありません。発行済株式数の累積実績と、将来方針は分けて見ます。

この検証の限界

10年前との比較は期末の発行済株式総数であり、自己株式を除いた期中平均株式数とは一致しません。株式併合後の理論値には端数が出るため、表では1株単位に丸めました。

EPSの寄与分解は機械的な試算です。利益と株数のどちらを先に変化させるかで寄与額は変わります。また、自己株式をどの株価で取得したか、その価格が企業価値に対して妥当だったかは今回の数字だけでは判断できません。

今回は現値株価、時価総額、PBR、PER、配当利回りを使っていません。したがって、株数が減った事実から現在の割安・割高を結論づけることもできません。

次に見るポイント

次は2026年8月4日予定の2027年3月期第1四半期業績開示で、決算短信の「期末発行済株式数」「期末自己株式数」「期中平均株式数」を確認します。自己株式取得があれば、まず自己株式数に現れます。消却まで進めば、発行済株式総数も減ります。

その次は2027年6月ごろに提出される2027年3月期有報です。「発行済株式総数、資本金等の推移」と「1株当たり情報」を同じ単位でつなぎ、純利益の伸びと株数減少の寄与をもう一度分けます。見るべきは発表額ではなく、期末株数に何株残ったかです。

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。