株数−35.93%、EPSは8.6倍――ツガミの成長は買い戻しでできているのか
ツガミの発行済株式数は、EDINET DBの10年横断値で35.93%減っています。2026年3月期のEPSは361.20円。2017年3月期の41.91円から8.6倍です。
株数が減れば、同じ利益でも1株利益は増えます。では、このEPS成長は事業が稼いだ結果なのでしょうか。それとも、分母を小さくした効果が大きいのでしょうか。
今回の問いは一つです。ツガミのEPS成長に、長期の株数減少はどこまで寄与したのか。
単発の自己株買い発表はニュースになります。一方、買い戻した株を何年かけて消却し、最終的に1株当たりの数字をどれだけ押し上げたかは、有報を年ごとにつながないと見えません。市場が見落としやすいのは、発表額ではなく、この累積実績だと考えました。
まず、株式分割の見かけではないかを確かめる
手法を先に書きます。約3,800社を対象に、EDINET DBの shares-change-10y を使い、「10年で株数が10〜40%減少」「直近ROEが8%以上」という条件で絞りました。順位表は候補探しにしか使っていません。ツガミについては、有報の「発行済株式、議決権の状況」と「自己株式等の状況」から、発行済株式数と消却株数を年ごとに突き合わせました。
株数の横断値は株式分割調整済みです。それでも過去の分割や併合を誤認する場合があるため、減少率だけでは結論を出しません。実際の消却記録が発行済株式数の差と一致するかを確認します。
| 有報年度 | 消却株数 | 消却後の発行済株式数 |
|---|---|---|
| 2017年3月期 | 1,000万株 | 6,491万9,000株 |
| 2018年3月期 | 991万9,379株 | 5,500万株 |
| 2022年3月期 | 500万株 | 5,000万株 |
| 2025年3月期 | 200万株 | 4,800万株 |
この表から、4回の消却は合計2,691万9,379株です。横断値の起点となる約7,491.9万株から引くと4,800万株になり、10年の35.93%減と整合します。株式併合で表示だけが小さくなったケースではありません。2026年3月期末も発行済株式数は4,800万株でした。
ただし、消却した株数と市場で買い戻した株数は同じ年に一致するとは限りません。いったん自己株式として保有し、後の年度に消却することがあるためです。ここでは「発表した取得枠」ではなく、「最終的に発行済株式数が何株減ったか」を見ています。
EPS8.6倍を、利益と分母に分ける
次に、有報の「主要な経営指標等の推移」から売上収益、営業利益、親会社株主に帰属する利益、EPSを転記しました。平均株式数は、各年度の利益をEPSで割った機械的な逆算値です。2026年の利益を2017年の平均株式数で割ることで、「株数が昔のままだったら」という単純な反実仮想も置きました。
| 指標 | 2017年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高・売上収益 | 410億50百万円 | 1,291億40百万円 |
| 営業利益 | 30億83百万円 | 361億2百万円 |
| 親会社株主に帰属する利益 | 26億30百万円 | 167億45百万円 |
| EPS | 41.91円 | 361.20円 |
| 利益÷EPSで逆算した平均株式数 | 約6,275万株 | 約4,636万株 |
この表から、EPSの伸びを株数減少だけで説明する仮説は外れました。利益は6.37倍、EPSは8.62倍です。2026年の利益167億45百万円を2017年の平均株式数で割ると、EPSは約266.8円になります。実績の361.20円との差は約94.4円です。
言い換えると、2026年の利益を固定した単純計算では、EPS361.20円の26.1%に当たる部分が、2017年より小さくなった分母で説明できます。残る約266.8円は、同じ古い分母を置いても利益増加で到達する水準です。
主役は利益です。株数減少は、その利益を1株当たりへ変換するときの増幅器でした。
直近年度だけを見ると、資本配分の順序も見える
2026年3月期の営業キャッシュ・フローは286億2百万円、投資キャッシュ・フローは20億82百万円の支出でした。差し引きしたフリーキャッシュ・フローは265億20百万円です。財務キャッシュ・フローは159億28百万円の支出、配当金の支払額は32億6百万円でした。
同じ有報で、設備投資は21億81百万円です。長岡工場、中国、インドでは、複数年の建物・設備計画も示しています。会社は成長地域への生産・販売体制の強化と、高付加価値領域への投資を中長期課題に挙げました。
私は、ツガミの株数減少を「事業投資の代わりに分母だけを縮めた」とは読みません。少なくとも直近年度は、本業の利益と営業CFが先にあり、設備投資、配当、財務活動が並んでいます。ただし、工作機械は会社自身が景気変動の影響を受けやすいと記載する事業です。直近の高い利益をそのまま将来へ延ばすこともできません。
この分析の限界
2017年3月期は日本基準、2026年3月期はIFRSです。売上高と売上収益、利益区分には会計基準の違いがあり、厳密に同一条件の10年比較ではありません。また、平均株式数は利益÷EPSによる逆算で、期中の取得時期を直接再現したものではありません。約94.4円は因果推定ではなく、「2026年利益を2017年の分母で割る」という機械的な試算です。
自己株式の取得が常に1株価値を高めるとも限りません。取得価格、代替となる設備投資や研究開発、景気後退時の資金余力まで含めた判断は、この株数データだけではできません。この記事ではPBR、PER、時価総額など株価ベースの割安判定もしていません。
次に見るのは、利益と株数のどちらが動くか
次の確認場所は、2026年10月末前後が目安となる2027年3月期第2四半期の決算短信です。正式な発表日は現時点で未確認です。売上収益と営業利益に加え、「期末発行済株式数」「期末自己株式数」を見ます。2026年7月30日時点の第1四半期開示では、発行済株式数4,800万株、自己株式を除く株数4,650万1,215株でした。
その次は、2027年6月ごろが目安の有報「自己株式等の状況」です。正式な提出日は未確認です。新たな消却があるか、営業CFが設備投資と還元の両方を支えているかを確認します。EPSが伸びても、利益が増えたのか、株数が減ったのかは毎回分けて見ます。
出典: 株式会社ツガミ「2017年3月期 有価証券報告書」「2026年3月期 有価証券報告書」、EDINET DB(2026年8月12日取得)。数値は特記のない限り有報ベースです。
本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。