純利益173%増なのに、現金は減速?旭化成の決算で見る「在庫益」

「純利益が前年の約2.7倍」と聞けば、かなり強い決算に見えます。ところが、同じ3カ月の営業キャッシュフローは前年より減っていました。
旭化成が7月31日に発表した2026年4〜6月期決算です。売上高は8,261.57億円で前年同期比11.9%増、営業利益は813.05億円で51.5%増、親会社株主に帰属する純利益は537.66億円で172.7%増でした。一方、本業が生んだ現金を示す営業キャッシュフローは142.54億円で、前年同期の166.60億円から計算上14.4%減っています。
利益が大きく伸びたのに、なぜ現金の伸びは逆方向なのでしょうか。
一番伸びたのは「マテリアル」でした
旭化成には、化学・電子材料を含むマテリアル、住宅、ヘルスケアという3つの大きな柱があります。今回、営業利益を最も押し上げたのはマテリアルでした。
マテリアルの営業利益は前年同期の149億円から388億円へ、239億円増えました。ヘルスケアの増益額71億円より大きく、住宅は逆に22億円の減益でした。
会社はマテリアル増益の理由として、電子材料の販売増や円安とともに、「在庫受払差」を挙げています。少し聞き慣れない言葉ですが、原料価格が急に上がる局面では、過去に仕入れた比較的安い原料から作った製品を、上昇後の市況を反映した価格で売れることがあります。この時間差が利益を押し上げるのです。
今回の国産ナフサ価格は1キロリットル当たり11万8,900円でした。前年同期の6万6,300円から大きく上がっています。中東情勢で石化市況が上がり、原材料価格の転嫁と在庫の評価差が同時に効きました。
173%増を、そのまま来期へ延ばせない理由
大幅増益には、もう一つ反動があります。前年同期にはMMAなどの事業撤退に伴う事業構造改善費用298.80億円を計上していましたが、今期は3.50億円でした。つまり、今年が強いだけでなく、比較対象だった前年が一時費用で弱かった面もあります。
さらに会社は、第2四半期の国産ナフサ価格を9万5,000円/klと予想しています。第1四半期実績より20.1%低い水準です。石化市況が下がれば、在庫益は縮小します。会社自身もその見通しを明記しました。
上期の営業利益予想は1,450億円です。ここからQ1実績813.05億円を引くと、Q2単独の含意は636.95億円となり、Q1比21.7%減です。これは会社が示した単独四半期予想ではなく単純計算ですが、「Q1の勢いがそのまま続く前提ではない」ことは読み取れます。
営業利益813億円、営業CF143億円の差
営業キャッシュフローが減った大きな要因は運転資本です。キャッシュフロー計算書では、棚卸資産の増加が732.50億円の資金減少要因になりました。貸借対照表で見ても、棚卸資産は3月末の7,937.25億円から6月末の8,699.46億円へ762.21億円増えています。
もちろん、四半期のキャッシュフローは季節性や支払いのタイミングで大きく動きます。棚卸資産が増えたから、ただちに売れ残りだと断定することもできません。原料高なら同じ数量でも在庫金額は膨らみますし、供給不安に備えた確保もあり得ます。
それでも、投資家としては「会計上の利益が、次の四半期に在庫販売と代金回収を通じて現金へ変わるか」を確認する必要があります。
化学株を見る4つのチェックポイント
今回の決算から、総合化学株を見る物差しは4つに整理できます。
1つ目は販売数量です。在庫益がなくなっても電子材料などの数量が伸びるか。2つ目は価格転嫁です。原料高を売価へ反映した後、原料価格が下がったときに販売価格を維持できるか。3つ目は棚卸資産と営業キャッシュフローです。在庫が減り、利益が現金へ変わるか。4つ目は通期予想です。旭化成は今回、通期営業利益2,480億円を据え置き、見直しを次の決算時に行うとしました。
この視点は、三菱ケミカルグループ、三井化学、住友化学にも使えます。ただし、各社で原料構成、定期修理、製品構成が違うため、旭化成の増益率をそのまま当てはめることはできません。米国のDowやLyondellBasellはエタン系原料の比率が相対的に高い資産を持ち、アジアのナフサ高局面では違う動きをする可能性があります。
次の答え合わせは11月5日
強気の見方は、在庫益が縮小しても電子材料や医薬の販売成長が残り、価格転嫁も機能するというものです。弱気の見方は、仮需の反動や世界需要の減速で数量が落ち、在庫と買収関連負債だけが残るというものです。
次の決算は会社予定で11月5日12時30分です。マテリアルの在庫受払差、販売数量、営業キャッシュフロー、棚卸資産、そして通期予想の見直しを確認します。
純利益173%増は事実です。ただし、その数字の中には需要成長、原料価格、在庫会計、前年の一時損失反動が混ざっています。決算を見るときは、利益の大きさだけでなく「何で増え、いつ現金になるのか」まで分解すると、見出しとは違う景色が見えてきます。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。