マーケット深掘りノート

茅ヶ崎工場は簿価0.23億円、推定104億円——TOTOの土地は投資余地になるか

TOTOの茅ヶ崎工場は土地84,000平方メートル、有報上の簿価は0.23億円です。所在地である茅ヶ崎市の工業地の公示地価中央値、1平方メートル当たり12.4万円を掛けると、推定時価は104.16億円になります。

簿価との差は約104億円です。ここだけを見れば、古くから持つ工場用地が大きな「隠れ資産」に見えます。

ところが、TOTO全体で同じ計算をすると、推定土地含み益は91億円でした。2026年7月31日終値ベースの時価総額は1兆1,661.72億円です。差額は時価総額の0.78%にすぎません。

今回の問いは一つです。TOTOの土地を現在価値に置き直すと、投資家が見る評価は変わるのかを確かめます。

市場が見落としやすいと考えた理由は、工場用地が取得原価を基礎に帳簿へ残る一方、通常の決算記事は売上や利益を中心に読むからです。期末PBRだけでは、個別拠点の簿価と現在価値の差は見えません。そこで有報の設備明細まで降ります。

有報の「主要な設備」から土地を拾う

使ったのは、2026年6月16日提出の2026年3月期有価証券報告書です。「主要な設備」にある土地面積と所在地、「有形固定資産」にある連結の土地簿価をEDINET DBから取得しました。

計算式は「土地面積×所在自治体の工業地の公示地価中央値」です。年度が混じらないよう2026年3月期だけに絞り、施設名の表記揺れを除いて重複を落としました。12施設のうち、面積と自治体地価を対応できたのは9施設です。

本社・小倉第一工場は151,000平方メートルに北九州市小倉北区の4.55万円を掛けて68.71億円、滋賀工場は192,000平方メートルに湖南市の2.935万円を掛けて56.35億円としました。9施設の推定時価を合計すると361.62億円です。これから連結貸借対照表の土地簿価270.56億円を引き、推定含み益91.06億円、丸めて91億円としました。

| 機械試算 | 金額 | 7月31日現値時価総額との比率 | |---|---:|---:| | 連結の土地簿価 | 270.56億円 | 2.32% | | 9施設の推定時価 | 361.62億円 | 3.10% | | 推定含み益 | 91.06億円 | 0.78% | | フォールバック地価を除く推定含み益 | 41.16億円 | 0.35% |

この表から言えるのは、土地の再評価で資産額は増えても、現値時価総額に対する増分は1%未満だということです。TOTOを「土地の含み益で評価が変わる会社」と読む仮説は、全社ベースでは外れました。

現値はYahoo!ファイナンスの2026年7月31日終値7,010円、時価総額1,166,172百万円を使いました。有報期末株価ベースではありません。TOTOの株式情報でも、6月30日時点の発行済株式数は166,358,397株と確認できます。

なぜ一つの工場より全社の含み益が小さいのか

茅ヶ崎工場だけの差額が約104億円なのに、全社の推定含み益が91億円なのは、一見すると矛盾します。

理由は比較の粒度です。推定時価は所在地と面積を対応できた9施設だけの合計ですが、差し引く簿価は海外を含む連結全体の土地270.56億円です。未対応の土地をゼロ評価したまま、簿価だけは全額を引いています。過大評価を避ける方向の計算です。

さらに、9施設のうち5施設は所在地が「ほか」「他」と集約されています。TOTOプラテクノは工業地中央値が取れず、別用途の地価にフォールバックしました。この1施設の推定49.91億円を丸ごと除くと、含み益は41.16億円まで下がります。

数字は正直です。ただし、精度以上のことは言いません。

土地より大きかった資本配分の数字

土地の仮説は外れましたが、有報を一段深く読むと、別の変化が見つかりました。提出会社が持つ政策保有株式の簿価は、2024年3月期の692.53億円から2025年3月期545.62億円、2026年3月期497.94億円へ減っています。2年で194.59億円、28.1%の縮減です。

最新有報の「株式の保有状況」では、2026年3月期に上場株式12銘柄を減らし、売却額は209.40億円でした。土地の推定含み益91億円より、実際に動かした政策保有株の金額の方が大きい。これは意外でした。

政策保有株の簿価497.94億円は、現値時価総額の4.27%です。ただし、これは貸借対照表に計上済みの金融資産であり、「隠れ資産」ではありません。投資上の焦点は金額そのものではなく、売却した資金をどこへ振り向けるかです。

2026年3月期の営業キャッシュ・フローは712.40億円、設備投資は431.59億円、研究開発費は262.96億円でした。有報の「設備の新設、除却等の計画」では、2026年度に527億円を投じる予定です。会社自身も国内住設事業について、資産と事業活動を効率化し、2030年度に資本コストを上回る利益率を目指すと書いています。

私は、TOTOの土地を換金待ちの資産ではなく、製造と研究開発のために使う事業資産と読みました。投資家が追うべきなのは土地売却の仮定ではなく、政策保有株の縮減で生まれた資金を527億円の設備投資や株主還元にどう配分し、資本効率へつなげるかです。

この検証の限界

公示地価中央値は個別地点の鑑定価格ではありません。駅距離、接道、土壌、用途制限、建物解体費を反映せず、売却時の税負担も引いていません。操業中の工場は、推定時価で直ちに換金できる資産でもありません。

一方で、12施設中3施設を推定できず、対応できた施設にも集約所在地が5件あります。したがって91億円は精密な時価ではなく、方法を固定した機械的な試算です。政策保有株は提出会社ベース、財務・キャッシュ・フローは連結ベースで、範囲も同じではありません。

現値時価総額は7月31日時点です。株価が動けば0.78%も変わります。この記事では、現在の割安・割高を結論づけません。

次に見るポイント

次は2027年3月期第2四半期決算の発表日に、決算資料の設備投資額とキャッシュ・フロー計算書を見ます。公表日は8月1日時点で未確認です。場所は同社IRの決算短信です。527億円の投資計画に対して支出がどこまで進み、営業キャッシュ・フローで賄えているかを確認します。

その次は2027年3月期有報です。「主要な設備」で土地面積、「株式の保有状況」で政策保有株の銘柄数・簿価・売却額を同じ手順で更新します。見るべきは土地の推定値だけではありません。政策保有株の縮減が続き、その資金が資本コストを上回る利益率に結びついたかです。

本記事は公開データに基づく機械的な試算であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。