マーケット深掘りノート

売上は21%増なのに純利益は20%減? 第一三共の決算で見えた「薬が売れた後」の壁

売上は21%増なのに純利益は20%減? 第一三共の決算で見えた「薬が売れた後」の壁の図解ポスター

売上が2割増えた会社の純利益が2割減る。数字だけを見ると、少し変に感じませんか。

第一三共が2026年7月31日に発表した4〜6月期決算は、まさにこの形でした。売上収益は前年同期比21.1%増の5,747億円。一方、親会社の所有者に帰属する四半期利益は19.7%減の686億円です。

しかも通期予想では、売上収益を従来より600億円引き上げた一方、親会社帰属利益は90億円引き下げました。主力薬が伸びているのに、なぜ利益は同じ方向へ動かないのでしょうか。

がん治療薬は本当に伸びているのですか?

答えは「はい」です。

第一三共の成長をけん引するのは、ADCと呼ばれる抗体薬物複合体です。がん細胞を見つける抗体に薬物を組み合わせ、狙った場所へ届ける技術です。

4〜6月期のオンコロジー部門売上は1,974億円で、前年同期比50.5%増でした。現地通貨ベースでも36.4%増です。主力のエンハーツ売上は1,769億円で、前年同期の1,246億円から計算上42.0%増。ダトロウェイの製品売上も53億円から206億円へ増えています。いずれも第一三共の決算資料に基づく数字です。

販売対象も広がりました。米FDAは2026年5月15日にエンハーツをHER2陽性の早期乳がん2適応で承認し、5月22日にはダトロウェイを一部の転移性トリプルネガティブ乳がんの一次治療として承認しました。治験が進んだという段階ではなく、承認を得て販売できる患者層が広がったということです。

では、利益はどこへ行ったのでしょうか

まず、売上が増えれば提携先へ渡す金額も増えます。

エンハーツとダトロウェイはAstraZenecaと共同開発・販売しています。日本を除く地域では、提携による税引前純利益を原則50対50で分ける契約です。第一三共は今回、販売費・一般管理費が前年同期より459億円増えた理由の一つとして、このプロフィット・シェアの増加を挙げました。

次に、将来の薬を作る費用です。研究開発費は前年同期より95億円増えました。2026年3月期の有価証券報告書では、研究開発費は4,660億円で売上収益の約22%です。2022年3月期の2,602億円から79.1%増えています。出所はEDINET(edinet-insight)です。

さらに今期は、欧州事業の再編費用なども加わりました。その結果、事業の基礎的な稼ぐ力を見るコア営業利益は6.2%増えたものの、再編費用などを含む営業利益は12.0%減りました。法人税等の増加もあり、最終的な親会社帰属利益は19.7%減です。

つまり、薬が売れていないのではありません。売れた後に利益を分け、次の薬へ投資し、事業再編や税負担を差し引くと、株主に残る利益の伸びが小さくなる構造です。

円安で数字が大きく見えている面もあります

今回の売上増加額は約1,001億円ですが、このうち419億円は為替による増収影響でした。約42%に相当します。

それでも現地通貨ベースのオンコロジー売上は36.4%増えているため、成長がすべて円安によるものではありません。ただし会社は第2四半期以降を1ドル155円、1ユーロ180円で想定しています。円高へ戻れば、円換算売上の見栄えは鈍ります。

投資家として何を見ればよいのでしょうか

第一は、売上ではなく利益率です。通期の売上予想は2兆3,400億円へ上がりましたが、コア営業利益予想は3,600億円で据え置かれました。増収分を利益分配や費用増が吸収するのか、それとも下期に利益率が改善するのかが分岐点です。

第二は、営業キャッシュフローです。EDINET(edinet-insight)によると、2026年3月期の営業CFは777億円、フリーキャッシュフローはマイナス706億円でした。大型薬の適応拡大が会計上の売上だけでなく、現金創出へつながるかを確認する必要があります。

第三は競争です。FDAは6月24日、Gilead SciencesのTrodelvyもトリプルネガティブ乳がんの一次治療で承認しました。市場は広がりますが、採用や価格、販促費を巡る競争も強まります。

強気シナリオは、新適応の販売が立ち上がり、提携分配と研究開発費を吸収して利益率と営業CFが改善することです。弱気シナリオは、売上だけが伸び、費用と税負担で純利益・現金が残らないことです。

今回の決算は、ADCの成長物語が崩れたという内容ではありません。むしろ成長が確認できたからこそ、評価軸が「薬が売れるか」から「売れた後にどれだけ利益と現金を残せるか」へ移ったと見るべきでしょう。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。