マーケット深掘りノート

売上13.5%増なのに株価急落? On Holding決算が映した「高すぎる合格点」

売上13.5%増なのに株価急落? On Holding決算が映した「高すぎる合格点」の図解ポスター

売上は伸びています。粗利益率も上がっています。それなのに、株価は決算後に一時19%超下落しました。

スイス発のランニングシューズブランド、On Holdingで起きたことです。普通に数字だけを見れば「好調」と言いたくなります。ところが市場は、良いか悪いかではなく、「投資家が事前に期待していた水準を超えたか」で動きます。今回の決算は、成長株にとっての合格点がどれほど高くなっていたかを示す例です。

増収・粗利改善でも、なぜ売られたのでしょうか

2026年4〜6月期の売上高は8.503億スイスフランでした。当日報道では前年同期比13.5%増、為替の影響を除けば21.6%増です。粗利益率は前年同期の61.5%から65.4%へ3.9ポイント改善し、調整後EBITDAも1.681億スイスフランと前年同期比で約23.5%増えました。

ただし、売上の伸び方は明らかに鈍っています。前年の2025年4〜6月期は32.0%増でした。2026年1〜3月期も、全社売上は為替一定で26.4%増でしたが、最大市場の米州は17.1%増にとどまり、前年同期の28.6%増から減速していました。

つまり今回の数字は、「売れなくなった」というより「ものすごい勢いで伸び続ける、という期待に届かなかった」と読むほうが自然です。粗利益率の改善は、値引きを抑えながらプレミアム価格を維持できている可能性を示します。一方で、売上成長率の低下は、高い評価倍率を正当化する材料を弱めます。

なお、2026年8月12日朝の時点では当日Q2の公式IR本文とSEC提出資料を検索結果から取得できていません。ここで使った当日数値は複数の転載資料で照合し、前年同期値はOnの公式資料から再計算しています。後日、原文で再確認すべき暫定値です。

「北米」と「在庫」が決算の温度計になります

Onにとって米州は、2026年1〜3月期売上の約54%を占める最大地域です。ここが少し減速するだけでも全社の成長率に大きく効きます。今後の分岐はシンプルです。

米州が再加速し、粗利益率も65%近辺を維持できれば、今回の株価下落は期待値調整にとどまる可能性があります。逆に、在庫をさばくための販促が増え、売上成長と粗利益率が同時に低下すれば、成長モデルへの疑問が強まります。

この考え方は、Onだけに限りません。Nike、Deckers Outdoor、Birkenstock、Lululemonなど、プレミアム価格や直販比率を成長の柱にする企業では、売上高だけでなく、地域別成長、値引き率、粗利益率、在庫の4点を一緒に見る必要があります。

日本株ではアシックスをどう見ればよいでしょうか

日本株で最も近い比較対象はアシックスです。EDINETの有価証券報告書によると、2025年12月期の売上高は8,109.16億円で前年比19.5%増、営業利益は1,425.19億円で42.4%増でした。営業利益率は17.6%です。利益の伸びが売上を大きく上回り、収益性は強く改善しています。

一方、棚卸資産は1,789.67億円で前年比30.1%増でした。これは直ちに悪材料ではありません。成長に備えた商品確保や為替の影響もあり得ます。ただ、売上の伸び19.5%より在庫の伸び30.1%が大きいため、次の決算では在庫回転と値引きの有無を確かめたいところです。

アシックスの研究開発費は74.12億円で前年比7.4%増でした。高い粗利益を守るには、広告だけでなく、製品の機能差が重要です。Onの決算が示したのは、ブランド人気だけではなく、成長を続けながら値引きを避けられるかという競争です。

ミズノ、デサント、ゴールドウインも同じ方向から確認できます。ただし、競技カテゴリー、地域、訪日需要、直販比率が異なるため、Onの急落をそのまま業界全体の需要悪化とみなすのは早計です。

投資家として次に何を見ますか

次の大きな確認地点は、2026年9月21〜22日に予定されるOnのInvestor Dayです。注目点は、米州の成長見通し、DTCの伸び、アパレルの拡大、在庫、通期見通しです。

強気シナリオは、為替一定で20%前後の成長を維持し、粗利益率も65%近辺にとどまることです。弱気シナリオは、米州の減速が続き、販促増によって粗利益率も低下することです。

今回の教訓は「株価が下がったから業績が悪い」ではありません。成長株では、良い数字でも市場の合格点に届かなければ売られます。だからこそ、見出しの増収率だけでなく、その会社の最大地域、粗利益率、在庫、そして前年の成長率まで並べて読む必要があります。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。