「年5台」の中国製装置で、なぜ日経平均が約2,000円も下がったのか

7月28日の朝、日経平均は9時15分時点で前日比1,991.88円安まで下がりました。ところが、下落の引き金の一つとされた中国製半導体装置の2026年生産計画は、報道ベースで「約5台」です。
5台という数字だけを見ると、世界の半導体市場をすぐに塗り替える規模には見えません。それでも韓国ではKOSPIが8.04%安となり、20分間の取引停止が発動されました。米国では前日にASMLが一時7.37%安、Applied Materialsが一時7.1%安、Lam Researchが一時7.9%安となっています。
この反応は過剰なのでしょうか。それとも、市場は台数の先にある構造変化を見ているのでしょうか。
何が報じられたのか
Reutersが7月27日にThe Informationの報道として伝えたところでは、上海の国有系企業が中国製の液浸DUV露光装置の小規模製造を始めました。2026年に約5台、2027年に約20台を製造し、SMIC、Hua Hong Semiconductor、CXMTへの納入が報じられています。
ただし、ここは事実の強さを慎重に分ける必要があります。製造主体の正式発表、顧客側の認定完了、量産ラインでの歩留まり、装置の稼働率や保守体制は、現時点で確認できていません。「製造開始の報道」と「商用量産で競争力を証明したこと」は同じではありません。
比較材料として、ASMLは2025年に液浸型とドライ型を合わせたDUV装置を279台販売しました。中国側の約5台という計画と単純比較はできませんが、少なくとも2026年の台数だけでASMLの事業基盤が直ちに崩れるとは考えにくい規模です。
市場は今年の5台ではなく、3年後を値付けしている
ここからは見立てです。
市場が警戒しているのは、5台そのものではなく、「輸出規制が国産化の期限を早めた可能性」です。液浸DUVはEUVより古い世代ですが、多重露光を組み合わせれば、先端寄りの半導体製造にも使えます。効率やコストで不利でも、装置が手に入らない状況では戦略的な価値が上がります。
もう一つは、中国売上の将来価値です。ASMLの4〜6月期売上高は93億ユーロ、純利益は29億ユーロで、2026年通期売上高見通しも430億〜450億ユーロへ上方修正されました。足元の業績は弱くありません。それでも株価が大きく下がったのは、将来の中国向け需要や価格決定力に対する割引率が上がったため、と読むことができます。
一方、すべての製造装置企業に同じ悪影響が出るとは限りません。中国製DUVの精度が低く、多重露光の回数が増えるなら、成膜、エッチング、洗浄、検査の工程数も増えます。露光装置には逆風でも、周辺工程には装置需要の増加という別の経路が生まれます。
日本株は「半導体装置」で一括りにしない
東京エレクトロンの2026年3月期の売上高は2兆4,435億円、営業利益は6,249億円、研究開発費は2,779億円でした。出所はEDINET(edinet-insight)です。同社は露光機そのものではなく、成膜やエッチングなど複数工程を手がけます。
そのため短期的には、半導体装置株全体のバリュエーション低下や中国売上への懸念が逆風です。しかし中期では、多重露光による工程増が一部装置の需要を支える可能性もあります。ディスコ、SCREENホールディングス、レーザーテック、アドバンテストも、露光前後のどの工程に収益源があるかで影響が変わります。
なお、東京エレクトロンのEDINET上のPBR8.28倍、PER29.68倍は有価証券報告書の期末株価ベースであり、現在の株価指標ではありません。現在値と混同しない注意が必要です。
投資家として次に何を見るか
最初の確認点は、中国側の顧客認定です。SMIC、Hua Hong、CXMTの量産ラインに本当に入り、どの工程で、どの程度の歩留まりを出せるのかが重要です。2027年の約20台計画が維持されるかも、量産能力を見極める材料になります。
次に、7月29日のLam Research、SK hynix、アドバンテストの決算です。中国向け受注、先端メモリー投資、輸出規制の影響について会社側がどう説明するかを確認したいところです。さらに7月29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)結果と、7月31日の日銀金融政策決定会合も、金利と為替を通じて高PERの装置株に影響します。
強気シナリオは、中国装置の顧客認定に時間がかかり、今回の下落が将来リスクを先に織り込みすぎていた場合です。弱気シナリオは、2027年の増産が実現し、国産化が露光だけでなく成膜・エッチング・検査へ広がる場合です。
「年5台」は小さな数字です。しかし市場が恐れているのは、5台が20台になり、その先で装置の国産化が一つの産業政策として定着することです。目先の急落率だけでなく、顧客認定、歩留まり、工程別の需要という三つの確認可能な数字に分けて追うことが大切です。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。