信用倍率が上がったのに「危険シグナル」? キオクシア株が教えてくれる需給の読み方

キオクシアホールディングスの信用倍率が、6月26日の27.8倍から7月17日には36.8倍まで上がりました。
「信用倍率が上がる=買いたい人が増えている」と聞くと、なんとなく強気な数字に思えないでしょうか。ところが証券会社のアナリストは、この動きを「危険シグナル」と評価しています。しかも、そのすぐ後の7月28日、キオクシアはストップ安水準まで売り込まれ、日経平均株価も1日で2,566円(3.95%)下がりました。
なぜ、一見強気に見える数字が、下落の予兆になり得るのでしょうか。
そもそも信用倍率とは何か
信用取引には2つの向きがあります。将来「返す」ために株を借りて売る信用売り(空売り)と、将来「返す」ために株を借りて買う信用買いです。
信用倍率は、この信用買いの残高を信用売りの残高で割った数字です。倍率が高いほど、信用買いが信用売りより多い状態を意味します。
一般的には、信用買い残が多いほど、将来その株を手放す(返済のために売る)人が多いという意味で、上値を抑える要因とされます。逆に信用売り残が多いほど、将来買い戻す人が多いという意味で、下値を支える要因とされます。この「将来買い戻される力」のことを、市場では「踏み上げ」と呼びます。
今回、何が「歪んで」いたのか
日本経済新聞ヴェリタスが伝えた数字を見ると、キオクシアの信用買い残は6月26日時点の1,446万株から、7月17日時点で1,388万株へと、わずかに減っていました。
普通に考えれば、買い残が減れば倍率も下がりそうなものです。ところが実際には倍率が27.8倍から36.8倍へ上がっています。これは、買い残よりも売り残のほうが、もっと速いペースで減っていたことを意味します。
実際に、この2つの数字(買い残の株数と信用倍率)から売り残を逆算してみると、6月26日時点で約52.0万株あった売り残が、7月17日には約37.7万株まで、率にして約27.5%も減っていた計算になります(この逆算は筆者による計算で、記事に直接の記載はありません)。
つまり、株を買い持ちしている人はあまり減らない一方で、空売りしていた人はどんどん買い戻して手仕舞いしていた、ということです。空売りの買い戻しは、下落局面で株価を支えるクッションのような役割を果たします。そのクッションが先に薄くなっていく状況こそが、「危険シグナル」と呼ばれる理由です。松井証券のアナリストによれば、同じようなパターンはソフトバンクグループや太陽誘電といった銘柄にも見られたといいます。
数字の意味を正しく取り違えないために
信用取引のデータは、単純に「買い残が多い/少ない」だけを見ていると、市場の本当の強さや弱さを読み違えることがあります。今回のケースのように、倍率という「割り算」の数字だけを見ると強気に映っても、その中身(分母である売り残がどう動いているか)を分解すると、逆の意味が見えてくることがあるのです。
株式投資に限らず、比率で表される指標は、分子と分母のどちらが動いて比率が変化したのかを確認しないと、判断を誤りやすいものです。信用倍率はその典型例と言えるかもしれません。
その後の値動きと、今日という日
7月28日、日経平均株価は前日比2,566円27銭(3.95%)安の6万2364円92銭で取引を終えました。キオクシアはストップ安水準、アドバンテストと東京エレクトロンも下げ幅が10%を超えました。米国でも半導体株の指標であるフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が、一時6.5%安まで下落しています。
そして今日7月29日は、SKハイニックスの決算発表(午前9時)、アドバンテストの決算発表(午後3時半)、そして米国では半導体製造装置大手のLam Researchの決算と、米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策決定が控えています。SKハイニックスは、証券会社14社のコンセンサスで営業利益64.1兆ウォン(前年同期比約6倍)という記録的な決算が見込まれています。
もしこれらの決算が市場の高い期待を上回れば、買い戻しの動きが入り、信用の歪みは緩和されるかもしれません。逆に、期待にわずかでも届かなければ、下値を支える力が乏しい中で、買い建てていた人たちの投げ売りが加速するリスクもあります。どちらに転ぶかは、本記事を書いている時点ではまだ分かりません。
まとめ
信用倍率が上がったからといって、それだけで「強気」とは限りません。買い残と売り残、どちらがどう動いて倍率が変化したのかを分解して初めて、その数字が意味するものが見えてきます。AI半導体相場のように値動きが大きいテーマでは特に、目先の株価変動率だけでなく、その裏にある需給の構造まで見ておくと、次の展開を読むヒントになりそうです。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。