マーケット深掘りノート

パソコンのメモリ、いつの間にか値上がりしていませんか?

パソコンのメモリ、いつの間にか値上がりしていませんか?の図解ポスター

「メモリ不足」、実は世界的な現象です

パソコンやスマホを買い替えようとして、「あれ、メモリ増設だけでこんなに高いの?」と感じたことはないでしょうか。実はこれ、気のせいではありません。

DRAM(パソコンやサーバーに使われる記憶用の半導体)の代表的な製品(64GBのRDIMMというタイプ)の卸値は、2025年10-12月期には450ドルだったのが、2026年1-3月期には900ドル超と、わずか3か月で2倍に。4-6月期にはさらに1,000ドルを超える見込みだと報じられています(出所: BigGo Finance)。世界的な「メモリ不足」が、じわじわと私たちの財布にも効いてきています。

そんな中、この価格急騰の当事者とも言える中国のメモリ半導体メーカーが、本日(2026年7月27日)、上海の株式市場に上場します。今日はこの会社の話をしたいと思います。

個人投資家が244倍申し込んだ株

その会社の名前はCXMT(長鑫存儲、チャンシン・メモリー・テクノロジーズ)。中国最大のメモリ半導体メーカーで、DRAMの世界シェアは約8%、世界4位につけています(2026年1-3月期時点)。

今回のIPO(新規株式公開)で調達する金額は579.2億元(日本円換算はしませんが、ドルベースで約86億ドル)。これは今年のアジアで最大級のIPOです。追加の売り出し分を含めると最大666億元(約98.3億ドル)まで膨らむ可能性もあると報じられています(出所: Reuters、SCMP)。

面白いのは、この株に殺到した個人投資家の数です。申込みの倍率は243.93倍。単純化すると、244人に1人しか買えなかった計算になります。機関投資家の側の需要にいたっては、割り当てられた株数の500倍を超えたとも報じられています(出所: Yahoo Finance、BigGo Finance)。

さらに、上海のSTAR市場という取引所のルールでは、新規上場株は最初の5営業日、通常の値幅制限(1日に動ける値幅の上限)が適用されません。つまり、理屈の上では初日にとんでもない値幅で動く余地があるということです。市場の一部では「初日に+330%くらい上がれば、中国工商銀行(ICBC)を抜いて中国本土上場企業でトップの時価総額になる」という試算まで出ていました(出所: Bloomberg)。

ただし、これはあくまで上場前の「思惑」の話です。この記事を書いている時点(日本時間の午前)では、実際に上海市場でどんな値段がついたのかはまだ確認できていません。事実(応募倍率などの確定した数字)と、思惑(値上がり予想)は分けて捉える必要があります。

なぜ「国が本気で支えている会社」なのか

CXMTのもう一つの特徴は、株主の顔ぶれです。最大株主は中国・安徽省合肥市の政府系投資機関で、持ち分は36.8%。これに中国政府が半導体産業向けに作った「国家集積回路産業投資基金」(通称「大基金」)などが加わり、政府系の持ち分は合計でおおむね半分前後に達すると報じられています(出所: chinaglobalsouth、Yahoo Finance)。

CXMTは2016年、合肥市の投資機関がわずか1,000万元を出資して設立した会社です。その後何年も赤字が続きましたが、地元政府と国家ファンドが支え続け、ようやくここまで大きくなりました。つまりこの会社は、単なる「儲かる会社に投資が集まった」という話ではなく、「国が育てると決めた会社に、国のお金と個人投資家のお金が両方集まっている」という状況にあります。

日本のメモリ大手・キオクシアとは、実は「別のもの」を作っている

この話を聞いて、「日本のキオクシア(旧東芝メモリ)は大丈夫なのか」と気になった方もいるかもしれません。ここは少し丁寧に説明する必要があります。

CXMTが作っているのはDRAM。一方でキオクシアが主に作っているのはNAND型フラッシュメモリーという、別の種類のメモリーです。同じ「メモリー半導体」とひとくくりにされがちですが、製品としては別物で、CXMTが増産したからといって、キオクシアの製品の値段が直接下がるわけではありません。

ところが実際には、7月中旬にキオクシアの株価が急落した局面で、CXMT関連のニュース(上海上場の計画が具体化したこと)が理由の一つとして挙げられていました。製品としては別物でも、投資家の頭の中では「中国のメモリー勢が台頭している」という一つの話としてまとめて受け止められ、株が売られたわけです。事実と、市場の受け止め方(思惑)は、また別の話だということがよく分かる例だと思います。

ちなみにキオクシアの決算(EDINETで確認できる有価証券報告書ベース)を見ると、2026年3月期は売上高2兆3,376億円(前期比+37.0%)、純利益5,544億円(前期比+103.6%、過去最高)と絶好調です。ただし2024年3月期は純利益が2,437億円の赤字でした。つまりこの会社は、メモリー市況が良い時とそうでない時で、業績がジェットコースターのように上下する会社だということも、あわせて知っておいて損はないと思います(出所: EDINET)。

投資家として何を見るか

CXMTの上場そのものは、良い悪いをすぐに判断できる話ではありません。私が今見ているポイントは次の3つです。

  1. 本日の実際の値動き。思惑通り極端に跳ねるのか、意外と落ち着くのか
  2. 7月29日のSKハイニックス決算。CXMTの台頭について、韓国のライバル企業がどうコメントするか
  3. メモリー価格の上昇サイクルがいつまで続くか。UBSは2027年末まで続くという見方を示していますが(出所: BigGo Finance)、CXMTのような新しい供給者の増産ペース次第で、この見立ては変わりえます

メモリ半導体という、普段は意識しない部品の値段の裏側に、こんな規模のお金と国家戦略が動いている。そんな1日として、今日のニュースを見てみるのはいかがでしょうか。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。