「たった5台」の報道で、なぜ日経平均が3.95%も下がったのか

7月28日、東京エレクトロンの株価は10.95%下がり、55,920円で取引を終えました。キオクシアHDは18.33%安の44,550円。日経平均も3.95%安の62,364.92円となりました。
きっかけの一つは、中国が国産の液浸DUV露光装置をつくり始めた、という報道です。
ただし、報じられた生産計画は2026年に約5台、2027年に約20台です。一方、世界最大手ASMLの2026年の液浸DUV生産能力は約130台。単純に割ると、中国側の5台はASMLの約3.8%にすぎません。
「それだけで、なぜ半導体株がこれほど売られるのか」。ここに今回のニュースの面白さがあります。
「つくった」と「量産で使える」は同じではありません
液浸DUVは、半導体の回路パターンをシリコンウェハーに焼き付ける重要な装置です。中国企業は最先端のEUV装置を自由に買えないため、DUVを使った多重露光で先端に近い半導体をつくる道を模索してきました。
7月27日のThe Information、続く28日のReuters報道では、上海の国有系企業が国産液浸DUVの製造を始めたとされています。最初の納入先候補としてSMIC、華虹半導体、メモリー大手CXMTの名前が挙がりました。
一方で、まだ確認できていないことが多くあります。企業名や装置の詳細仕様は公表されておらず、顧客の量産ラインで認定されたという発表もありません。
半導体装置は「線が細く描けた」だけでは仕事になりません。何千枚ものウェハーを処理しても位置がずれないこと、欠陥が少ないこと、十分な速度で動くこと、故障してもすぐ直せることが必要です。製造開始、試験導入、量産認定、高量産での安定稼働は、別々の段階なのです。
ASMLは7月15日の決算で、2026年の売上高見通しを430億〜450億ユーロ、粗利率を54〜56%としました。液浸DUV能力は約130台で、2027年には30%増やす計画です。少なくとも足元では、AI向けロジックとメモリーの需要が崩れたという会社説明にはなっていません。
市場が売ったのは「今日の5台」ではありません
株価が見ているのは、今年の売上だけではありません。数年後にその会社がどれだけ高い利益率を保てるかも先回りして織り込みます。
これまでASMLの液浸DUVには、技術力だけでなく量産実績、膨大な部品網、保守サービスという高い参入障壁がありました。中国製装置が今すぐ追いつかなくても、「代替候補が存在する」というだけで、中国市場から得られる将来利益の確実性は少し下がります。
この見方が、露光装置をつくらない企業にも波及しました。米国ではNVIDIAが7月27日に4.9%安、フィラデルフィア半導体株指数は2.2%安。日本では東京エレクトロンやアドバンテストが10%超下がり、韓国KOSPIも翌28日に10%超下落しました。
ただし、すべてを「中国製DUVの脅威」で説明するのも危険です。大手テック企業の巨額AI投資が利益に結び付くのか、CXMTの増産でメモリー価格が崩れないか、株価が期待を先に織り込み過ぎていなかったか。複数の不安が同時に表面化したと見るほうが自然です。
日本企業にとって、追い風と逆風が同時に来ます
東京エレクトロンは露光そのものではなく、塗布・現像、成膜、エッチングなど多くの工程を支えています。中国が新しい半導体工場への投資を増やせば、露光以外の装置需要は短期的に増える可能性があります。
同社の2026年3月期は売上高2兆4,435億円、営業利益6,249億円、研究開発費2,779億円でした。アドバンテストは売上高1兆1,286億円、営業利益4,991億円、ROE57.6%です。いずれもEDINET(edinet-insight)で確認できる強い数字です。
反対に、中国が国産化の対象を成膜、エッチング、洗浄、検査へ広げれば、中期的には日本企業の販売や保守サービスが置き換わる恐れがあります。アドバンテストは露光装置と直接競合しませんが、メモリー供給が増え過ぎて顧客の設備投資が鈍れば、テスター需要を通じて影響を受けます。
キオクシアも同様です。国産DUVがCXMTの能力増強を助ければ、メモリー価格への競争圧力は強まります。しかし、今回の装置がまだ量産認定前なら、7月28日の株価下落をそのまま業績悪化と読み替えることはできません。
投資家として、次に何を見ればいいのでしょうか
最初の確認点は決算です。アドバンテストは7月29日15時30分に第1四半期決算を発表する予定です。SoC・メモリーテスターの受注、通期見通し、AI投資の勢いを見ます。
東京エレクトロンは7月30日に第1四半期決算を発表する予定です。注目は中国向け売上の構成、半導体製造装置市場の見通し、輸出規制の影響です。
次に、中国製DUVについて「納入」「試験導入」「量産認定」「安定稼働」のどこまで進んだかを分けて追う必要があります。2026年の約5台が実際に顧客へ納入され、歩留まりや稼働率が確認されるか。2027年に約20台へ増やせるか。ここがヘッドラインを実力に変える境目です。
今回の3.95%安は、中国製装置がすでにASMLを追い越した証拠ではありません。市場が、AI半導体の高い期待と中国国産化という長期リスクを一度に値付けし直した結果です。短期の台数だけで楽観も悲観もせず、顧客認定と企業の受注という二つの現実を追うことが重要です。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。