マーケット深掘りノート

原油、1週間で12.2%安。「戦争が止まったから」って、本当にそれだけ?

原油、1週間で12.2%安。「戦争が止まったから」って、本当にそれだけ?の図解ポスター

ガソリン価格の話じゃなく、株の話です

いきなりですが、こんな数字から始めさせてください。世界の原油価格の指標のひとつであるブレント原油、7月23日には1バレル$100.69まで上がっていました。それが、7月27日にはなんと$88.36まで下がっています。わずか4日間で、12.2%の値下がりです。

「へえ、原油安か」で終わってしまいそうな話ですが、この裏側には、ここ2週間ほど世界の株式市場・為替市場を揺さぶってきた、大きな出来事の「一区切り」があります。それが、アメリカとイランの間で続いていた軍事的な緊張の、一時的な「停止」です。

2週間、攻撃が続いていました

7月上旬から、アメリカとイランの間では、ホルムズ海峡(原油タンカーが通る世界有数の要衝です)を巡って、実際に攻撃の応酬が続いていました。イラン側がタンカーへの攻撃や海峡の封鎖をちらつかせ、アメリカ側がそれに対する軍事行動を取る、という展開です。7月には紅海(こちらも別の重要な航路です)でも同様の緊張が広がり、「二正面」で世界の原油輸送に支障が出るのでは、という懸念が強まっていました。

こうした状況を受けて、原油価格はどんどん上がっていきました。7月23日には清算値ベースで$100.69まで到達し、これは久しぶりの高水準でした。原油が上がれば、ガソリンや電気代、あらゆる輸送コストに跳ね返ってきますから、「インフレが再燃するのでは」という警戒感も、同時に強まっていました。

実際、アメリカの中央銀行(FRB)が利上げに動くのではないか、という観測は、7月15日時点ではわずか10.7%だったのが、7月22日には34.7%、7月24日前後には最大で38%まで、1週間ちょっとで3倍以上に跳ね上がっていました。「利下げの年」だったはずが、急に「利上げの年」に話が変わりかねない、というくらいの変化です。

それが、週末に急に止まりました

ところが7月25日(土)の夜から、アメリカ軍がイランへの攻撃を停止しました。イラン側も、週末にかけて反撃を停止したと報じられています。オマーンという国が仲介役に入り、ホルムズ海峡の安全な航行を確保するための交渉が続いているとのことです。

トランプ大統領はこの件について、「彼ら(イラン)が『止めてください、会いましょう』と、とても丁寧に頼んできた」と説明しています。同時に「もし合意ができなければ、また同じ状況に戻る」とも語っており、これが恒久的な停戦だと決まったわけではないことも、はっきりさせています。

実際、軍のトップ(統合参謀本部議長)は、「命令があればいつでも同じ速度と精度で戦闘を再開する準備がある」と述べる一方で、弾薬の備蓄が減っていることへの懸念も口にしています。ドイツ銀行のアナリストも、今回の攻撃停止について「脆弱だ」という評価をしています。アメリカとイラン以外の勢力(周辺国の武装勢力など)による軍事行動は、週末の間も続いていたためです。

「止まったかもしれない」だけで、ここまで動く

面白いのは、まだ「本当に終わった」わけではなく、「止まったかもしれない」という段階のニュースだけで、原油価格が12.2%も動いたという点です。

これは、原油価格の中に「もし本当に海峡が封鎖されたら、供給がこれだけ減るはずだ」という、リスクへの警戒料(プレミアム)が相当乗っていたことの裏返しだと思います。そのプレミアムの一部が、「攻撃が止まった」というニュースひとつで、一気に剥がれ落ちた形です。

日本の株式市場にも、この動きはすぐに反映されました。原油関連の代表的な銘柄であるINPEX(石油・天然ガスの開発を手がける会社)は、7月27日に前日比2.1%の下落となりました。原油価格が下がれば、この会社の主力事業の採算にも直接影響するため、素直な反応と言えます。ちなみにこの会社、EDINET(金融庁の開示システム)で確認できる直近の決算(2025年12月期)では、株価収益率(PER)が9.5倍、配当利回りが3.18%という水準でした。原油価格に業績が強く連動する会社らしい数字です。

日経平均株価も、この日は面白い動きをしました。午前中は、別のニュース(中国の半導体メーカーの上場)への警戒感から一時400円近く下落する場面があったのですが、午後にかけて「中東リスクの後退」を好感する買いが優勢になり、最終的には320円あまりのプラスで終えています。

投資家として何を見るか

ここで大事なのは、「原油が下がった=もう安心」と考えるのは早計かもしれない、ということです。ドイツ銀行が言うように、今回の停止はまだ「脆弱」な状態です。オマーンの仲介交渉がうまくいかなければ、いつでも元の緊張状態に戻る可能性があります。

アメリカの中央銀行にとっても、今回の原油安は「利上げをしなくて済む理由」を後押しする材料にはなりますが、それだけで判断が決まるわけではありません。7月29日に予定されているFOMC(金融政策を決める会合)の結果と、そこでの発言のトーンが、次の焦点になります。

日本銀行も、7月30〜31日に会合を控えています。日銀は6月に、原油価格の上振れリスクも理由の一つとして、政策金利を1.0%まで引き上げたばかりです。原油が落ち着いてくれば、この「様子見」姿勢がより固まりそうですが、こちらも原油の動向次第という面があります。

私が来週見ているポイントは次の2つです。

  1. オマーン仲介の交渉が、実際に「合意」という形に進むかどうか
  2. 原油が$80台で落ち着くのか、それとも再び緊張が高まって$100台へ戻ってしまうのか

「戦争が一区切りついたから株価が上がった」というのは分かりやすいストーリーですが、その裏側には「まだ終わっていない」という不安定さも同時に存在しています。この両方を頭に入れておくことが、来週以降の値動きを理解する助けになると思います。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。