マーケット深掘りノート

5円も円高になったのに、なぜ翌日には160円台へ戻ったのか

5円も円高になったのに、なぜ翌日には160円台へ戻ったのかの図解ポスター

1ドル162.8円付近だった円相場が、約50分で157円台まで動きました。単純計算で約5円の円高です。ところが、その勢いは続きませんでした。日本銀行が政策金利を1.0%で据え置くと、ドル円は再び160円台へ戻りました。

「これだけ急に円高になったのに、なぜ元へ戻るのか」。今回の値動きは、為替介入のインパクトと、金利差がつくる中期トレンドが別物だと教えてくれます。

約50分の急変、ただし介入額はまだ確認できません

Nikkei Asiaは、7月30日のニューヨーク市場でドル円が162.8円付近から157円台へ約50分で下落したと報じました。市場参加者は日本当局による円買い介入とみており、ニューヨーク連銀が複数の銀行へレート照会を行ったとも伝えられています。

ただし、ここは事実を二つに分ける必要があります。為替が急変したことは観察できます。一方、誰がいくら売買したのかは、財務省の公式公表を待たなければ確定できません。8月1日時点で今回分の実施額は未確認です。報道段階で金額まで断定しないことが大切です。

さらに興味深いのは、その後の値動きです。円は159円付近へ押し戻され、7月31日の日銀決定後には160円台へ戻りました。急な円買いがあったとしても、それだけで円安の構造が変わったとは市場が判断しなかった可能性があります。

日銀は据え置き。でも中身は全員一致ではありません

日銀は7月31日、政策金利の目安である無担保コール翌日物金利を1.0%程度で推移させる方針を決めました。投票は8対1です。

反対した高田創委員は、1.25%程度への利上げを提案しました。つまり、会合の中身は「全員が様子見」でそろっていたわけではありません。海外需要や金融環境の変化が物価を押し上げるリスクを重く見る委員が、即時の利上げを求めたのです。

植田和男総裁も、基調的な物価上昇率は2%に近く、上振れリスクは無視できないとの認識を示しました。7月の東京都区部コアCPIは前年同月比1.9%でしたが、日銀は足元の数字だけで判断していません。

物価予測を下げたのに、なぜ上振れを警戒するのか

今回もっとも「変」に見える数字は、日銀の物価見通しです。

FY2026のコアCPI予測は、4月時点の2.8%から2.5%へ下がりました。普通に読めば、利上げを急がない材料に見えます。ところが日銀は同時に、FY2026後半のコアCPIが2%を明確に上回り、物価リスクは上方に偏ると説明しました。

矛盾しているようですが、見ている要因が違います。予測の下方修正にはエネルギー支援などが反映されます。一方、先行きには原油価格、半導体価格、これまでの円安、賃金からサービス価格への転嫁があります。総合的な物価の平均値を下げても、持続的なインフレが強まるリスクは残る、という整理です。

日銀は実質の短中期金利が大幅なマイナスで、金融環境は緩和的だとも述べています。名目の政策金利が1.0%でも、物価上昇率を差し引けば引き締めが十分とは言い切れません。

銀行株には追い風だけなのでしょうか

追加利上げが意識されると、まず連想されるのが銀行です。貸出金利や運用利回りが上がれば、利ざやの改善が期待されます。

三菱UFJフィナンシャル・グループの有価証券報告書を見ると、FY2026の親会社株主に帰属する利益は2兆4,272億円、ROEは11.34%でした。前年度の1兆8,629億円から30.3%増えています。PBR1.32倍、PER12.19倍、配当利回り3.31%は有報期末株価ベースで、現在の株価指標ではありません(EDINET〔edinet-insight〕)。

利益の厚みはありますが、金利上昇なら何でもプラスというわけではありません。長期金利が急に上がれば保有債券の評価が悪化し、景気が減速すれば信用費用が増えます。銀行株では「政策金利が上がるか」だけでなく、「どの速度で上がり、長期金利と景気がどう動くか」を見る必要があります。

保険にも再投資利回りの改善が期待できます。不動産には借入金利と投資家の要求利回り上昇が逆風です。輸入比率の高い小売には円高が仕入れコスト低下につながり、輸出企業には海外利益の円換算で逆風になります。ただし、今回のように円高が短時間で巻き戻されれば、どちらの業種も恩恵や逆風を織り込みにくくなります。

投資家として次に何を見るか

第一は、財務省が公表する外国為替平衡操作の実施状況です。介入が確認された場合も、実施日、金額、通貨を分けて確認します。

第二は、8月3日14時に公表予定の日銀「経済・物価情勢の展望」全文です。賃金、サービス価格、円安転嫁がどの程度持続するとみているのかが焦点です。8月10日8時50分の「主な意見」では、高田委員の1.25%提案にほかの委員がどう向き合ったかを確認できます。

第三は、9月17~18日の次回金融政策決定会合です。円相場だけでなく、原油価格、日米金利差、賃金とサービス物価が利上げ条件を満たすかが重要です。

今回の教訓は、約5円の急変そのものより、その後に160円台へ戻ったことにあります。介入報道は短期の需給を変えます。しかし、中期の相場は政策金利、物価、景気、米金利の組み合わせで決まります。大きな値動きほど、観察できる事実と、その理由についての見立てを切り分けたいところです。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。