マーケット深掘りノート

食品が8%から1%へ。でも、スーパーの利益が7%増えるわけではありません

食品が8%から1%へ。でも、スーパーの利益が7%増えるわけではありませんの図解ポスター

毎月の食費が9万円近い家庭で、税率が8%から1%に下がる。こう聞くと、家計にもスーパーにも大きな追い風に見えます。

ところが、投資家の目線では少し変な数字があります。大和総研が食料品の税率をゼロにする場合を試算したところ、必要な財政支出は年4.8兆円。それに対して、個人消費の押し上げは0.5兆円でした。減税額に比べ、景気を動かす力はかなり小さく見えます。

なぜ、そんな差が生まれるのでしょうか。そして日本株では、どの数字を追えばよいのでしょうか。

まず「決まったこと」と「まだ決まっていないこと」

高市内閣は2026年8月5日、酒類と外食を除く飲食料品の消費税率を、2027年4月から2年間、現在の8%から1%へ引き下げる方針を閣議決定しました。低・中所得世帯への給付も組み合わせ、実質的にゼロにする構想です。

大切なのは、これはまだ法律の成立ではないという点です。政府は秋の国会に消費税法の改正案を出す予定で、対象品目、給付の条件、財源の内訳は国会審議を経る必要があります。「来年4月から必ず始まる」と扱う段階ではありません。

政府は赤字国債に頼らず、補助金や歳出、租税特別措置などを見直して財源を確保するとしています。ただ、2年間で約10兆円とされる財源の具体策は固まっていません。家計にとっては値札の話ですが、債券市場にとっては国の信用と金利の話でもあります。

家計には効くのに、景気効果が小さいのはなぜ?

総務省の家計調査では、2025年の二人以上世帯の食料支出は月8万9,754円で、消費支出の28.6%を占めました。食費の負担が重い家計ほど、税率引き下げの効果を感じやすいのは確かです。

大和総研のゼロ税率試算では、1世帯当たりの負担軽減は年8万8,000円です。一方、個人消費の押し上げは0.5兆円、GDPの押し上げは0.3兆円にとどまります。今回の「1%+給付」と同じ制度ではありませんが、仕組みを考える材料になります。

理由は、食品が必需品だからです。お米が7%安くなっても、食べる量が7%増えるわけではありません。家計は浮いたお金を別の商品に使うかもしれませんし、先行きが不安なら貯蓄するかもしれません。したがって、減税の成否は食品売上高だけではなく、衣料、日用品、サービスなどへ消費が広がるかで決まります。

スーパーの利益は7%増える?

ここも誤解しやすいところです。消費税は企業の売上げそのものではありません。減税分が店頭価格へ反映されるなら、税率が7ポイント下がっても、スーパーの粗利率がそのまま7ポイント上がるわけではありません。

企業に効く経路は、価格が下がることで来店客数が増え、買上点数が増え、食品以外の商品も一緒に売れることです。逆に、レジや請求書システムの改修、値札の変更、従業員教育には費用がかかります。政府のヒアリング整理では、1%への変更でも制度詳細が固まってから5~6カ月の改修期間が必要とされています。

イオンの有価証券報告書を見ると、2026年2月期の営業収益は10兆7,153億円、営業利益は2,705億円でした。営業利益率は計算上約2.5%です。棚卸資産は8,295億円、設備投資は5,430億円。巨大な売上高を持つ一方、利益率は薄く、システムと店舗への投資も大きい事業です。減税の恩恵を見るなら、株価の反応だけでなく、既存店客数、買上点数、食品粗利率、改修費を分けて確認する必要があります。これらの数値の出所はEDINET(edinet-insight)です。

外食には、むしろ逆風になるかもしれません

現在、持ち帰りの食品は8%、店内飲食は10%です。新制度がそのまま実施されれば、持ち帰りは1%、店内は10%となり、差は2ポイントから9ポイントへ広がります。

そのため、スーパーの総菜やコンビニ弁当、自宅での食事へ需要が移る可能性があります。帝国データバンクの調査では、減税を自社にプラスとみた企業は25.7%にとどまり、48.2%は影響なしと回答しました。飲食店からは、食品だけの減税なら売上高が5%程度減るという回答例もあります。これは業界全体の予測値ではありませんが、外食が一律の恩恵を受けるわけではないことを示します。

ただし、テイクアウト比率が高い企業は対応余地があります。ゼンショー、すかいらーく、サイゼリヤなどを見る際も、「外食だから悪い」と決めつけず、店内と持ち帰りの構成、値付け、客数を追う方が実態に近づけます。

投資家として何を見るか

最初の焦点は法律と財源です。秋の国会で法案がいつ出るのか。酒類・外食以外の細かな対象はどうなるのか。約10兆円を、どの補助金や税制優遇の見直しで賄うのか。この具体性が国債市場の信認を左右します。

次は金利です。閣議決定翌日の8月6日には30年国債入札があります。応札倍率、落札利回り、テールが弱ければ、財政不安が超長期金利に出ている可能性があります。金利上昇は銀行の利ざやには追い風でも、保有債券の評価損や景気減速には逆風です。

最後は2029年春です。2年間で終了して1%から8%へ戻れば、家計には7ポイントの価格段差が生じます。終了前の駆け込み、終了後の反動、再び必要になるレジ改修まで考えると、これは一度きりのイベントではありません。

まとめ

食品の消費税8%から1%への引き下げは、家計に近く、効果も見えやすい政策です。しかし投資家にとって重要なのは、「減税だから小売に追い風」という一行ではありません。

食品価格へどこまで反映されるか、浮いたお金が他の消費へ回るか、外食との9ポイント差が客数を動かすか、そして約10兆円の財源が国債金利を揺らさないか。見るべき数字は、レシートから30年国債まで広がっています。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。