マーケット深掘りノート

求人が減ったのに売上30%増? Indeedで起きている「量より採用時間」の変化

求人が減ったのに売上30%増? Indeedで起きている「量より採用時間」の変化の図解ポスター

米国では7月の雇用者数が2.3万人減りました。ところが同じ日に決算を発表したリクルートホールディングスでは、Indeedを含むHR Technologyの米国売上が前年同期比30%増えています。

しかも、Indeed上の米国求人件数は約4%減っています。求人が減っているのに、求人サービスの売上は大きく増える。この数字、少し変ではないでしょうか。

答えの鍵は、求人の「本数」ではなく、採用を早く終わらせる機能にあります。

米雇用はマイナス、過去分も下方修正

米労働統計局が8月7日に公表した7月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比2.3万人減りました。失業率は4.1%でしたが、労働参加率は61.4%で、1月から0.7ポイント下がっています。

さらに気になるのは過去分です。5月の雇用増は12.9万人から6.3万人へ、6月は5.7万人から2.0万人へ下方修正されました。2カ月を合わせると10.3万人の下方修正です。

内訳では地方政府の教育が5万人減、小売が1.9万人減、金融が1.4万人減りました。医療は2.2万人増えましたが、過去12カ月の月平均3.6万人増より鈍い伸びです。単月だけで景気後退と決めつけることはできませんが、採用の勢いが弱くなっていることは否定しにくい内容でした。

それでもリクルートは過去最高を更新

その数時間後、リクルートはFY2026 Q1決算を発表しました。売上収益は1兆453億円で18.9%増、EBITDA+Sは2,928億円で56.5%増、親会社帰属利益は2,026億円で67.5%増でした。会社によると、売上、EBITDA+S、基本EPSはいずれも四半期の過去最高です。

けん引役はIndeedなどを含むHR Technologyです。同事業の米国売上は16.4億ドルで30%増えました。ところが米国求人件数は約4%減っています。

この差を埋めたのがUS ARPJです。これは米国のHR Technology売上をIndeed上の全求人件数で割った「1求人当たり平均売上」で、Q1は35%増えました。注意したいのは、有料求人広告1本の値段そのものではないことです。無料求人も含む全求人を分母にした収益化の指標です。

会社は、Premium Sponsored Jobsが成長をけん引したと説明しています。単に求人票を上位表示するのではなく、AIを使った候補者選別や採用業務の省力化など、採用を早く進める機能をまとめて提供します。

人手の少ない中小企業では、欠員が2カ月続くことの損失が大きくなります。安く求人を出すより、追加料金を払ってでも早く採用したい。リクルートはこの時間価値を収益に変えています。

上方修正は大きい。でも、見るべき数字は売上だけではない

リクルートは通期予想も引き上げました。売上収益は4兆300億円から4兆2,300億円へ、EBITDA+Sは9,490億円から1兆1,050億円へ、親会社帰属利益は6,230億円から7,550億円へ修正しています。

米国では、求人件数が通期で約4%減る前提を維持しながら、売上25.1%増、US ARPJ約30%増を見込みます。つまり会社の計画は、採用市場が急回復しなくても単価化と機能価値で成長できる、というものです。

これは強いモデルですが、無条件に安心できるわけではありません。US ARPJは分母の求人件数が減っても上がり得ます。低収益の求人が減った結果なのか、本当に顧客が高機能商品へ移っているのかを分けて見る必要があります。

確認したいのは、顧客数、顧客当たり支出、解約率、採用までの日数、Premium商品の継続率です。単価だけが上がり、採用成果や満足度が追いつかなければ、顧客は無料枠や競合へ戻る可能性があります。

一方で、EDINET(edinet-insight)による2026年3月期のリクルートは、売上収益3兆6,973.51億円、営業利益6,305.67億円、営業CF6,694.31億円でした。もともと営業CFの厚い企業が、求人数量の弱い局面でさらに利益成長を速めている点は重要です。

なぜ悪い雇用統計で株が上がったのか

8月7日のS&P 500は0.6%高の7,757.64で最高値を更新し、ナスダック総合も1.3%上昇しました。米10年債利回りはAPの市場総括時点で4.64%へ低下しています。

市場は、弱い雇用ならFRBが追加利上げを急がないと読みました。将来利益の現在価値が上がるため、特に成長株には追い風です。

ただし「悪いニュースほど株に良い」という関係には限界があります。雇用悪化が消費や企業売上の減少へ広がれば、金利低下のプラスより利益下方修正のマイナスが大きくなります。

投資家として次に見ること

まず8月10日、リクルートの決算後初の東京市場です。決算は8月7日の取引終了時刻と同じ15時30分に公表されたため、前週終値には内容が反映されていません。寄り付きの一時的な動きと終値を分けて確認したいところです。

次は8月12日の米CPIです。雇用が弱くてもインフレが高ければ、FRBは利上げを完全には外せません。8月28日には雇用統計の年次ベンチマーク速報、9月4日には8月雇用統計、9月15〜16日にはFOMCがあります。

今回の数字が示したのは、求人市場が弱いから雇用関連株も一律に弱い、とは限らないことです。求人の量が減る局面ほど、採用を早く、少ない手間で終える価値は高まる場合があります。

同時に、数量減を単価上昇で吸収するモデルには持続性の検証が欠かせません。売上成長の見栄えだけでなく、「誰が、何に、なぜ多く払っているのか」を追うことが、次の四半期を読む手がかりになります。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。