マーケット深掘りノート

雇用が2.3万人減ったのに、なぜ米国株は最高値になったのか

雇用が2.3万人減ったのに、なぜ米国株は最高値になったのかの図解ポスター

「仕事が減った」というニュースを見た日に、株価指数が最高値を更新する。少し変に感じませんか。

2026年8月7日に発表された米国の7月雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月より2.3万人減りました。市場は約8万人の増加を見込んでいたので、かなり弱い結果です。しかも5月と6月の数字も合計10.3万人下方修正されました。

ところが、その日のS&P500は0.6%上昇して7,757.64となり、過去最高値を更新しました。ナスダック総合も1.3%高です。雇用が悪化したのに、なぜ株は上がったのでしょうか。

失業率4.1%は「雇用が強い」のか

今回さらに不思議なのは、雇用者数が減った一方で、失業率が4.2%から4.1%へ下がったことです。

ここでは調査の違いが重要です。雇用者数は企業などを調べる事業所調査、失業率は世帯を調べる家計調査から作られます。そのため、同じ月でも方向が一致しないことがあります。

もう一つの鍵は労働参加率です。働いている人と、仕事を探している人を合わせた割合は61.4%へ低下しました。仕事探しをやめて労働市場から離れれば、失業者として数えられなくなります。今回の失業率低下は、仕事が一気に見つかったというより、労働市場に参加する人が減った影響が大きいと考える方が自然です。

業種別では、地方政府の教育が5万人減、小売が1.9万人減、レストラン・バーが2.6万人減でした。一方、建設は2.2万人増、製造業は5千人増、ヘルスケアは2.2万人増です。地方政府教育は季節調整の影響を受けやすいため、2.3万人減という見出しだけで景気後退と決めつけるのも早計です。ただ、小売や外食まで弱いこと、過去分も下方修正されたことは軽視できません。

株が見たのは景気より「次の金利」

株式市場は現在の景気だけでなく、将来の金利も映します。将来の利益を現在価値に直すとき、金利が低いほど成長企業の評価は高くなりやすいからです。

雇用統計の直後、米10年債利回りは4.67%から4.64%へ下がり、一時4.60%まで低下しました。2年債も4.22%から4.20%へ下がりました。市場は「雇用が弱いなら、FRBは追加利上げを急ぎにくい」と受け止めたのです。Nvidiaが2.3%、Broadcomが1.7%上昇したのも、この金利経路と整合します。

FRBは7月29日、政策金利を3.50〜3.75%に据え置きました。ただし12人のうち3人は0.25ポイントの利上げを主張しています。インフレ警戒が消えたわけではありません。弱い雇用は、利上げを主張する側のハードルを上げたにすぎません。

日本株では、何が追い風で何が逆風か

日本株への影響も一方向ではありません。米金利が下がれば、高い成長を先に織り込む半導体・成長株の評価には追い風です。一方、米国の需要そのものが落ちれば、輸出企業や人材企業の売上には逆風です。

特に分かりやすいのがリクルートホールディングスです。同社はIndeedを通じて米国の求人市場に深く関わっています。EDINET(edinet-insight)によると、2026年3月期の売上収益は3兆6,973億円、営業利益は6,306億円、ROEは31.0%でした。有価証券報告書では、米国Indeedの求人1件当たり売上を重要な指標として説明しています。

つまり、金利低下だけなら評価面にプラスですが、求人件数の減少が続けば事業面ではマイナスです。AIによるマッチング効率化や単価改善で求人量の弱さを吸収できるかを見る必要があります。東京エレクトロンやアドバンテストなら受注、トヨタやファナックなら米国の消費・設備投資と為替、銀行株なら利ざやと信用コストが確認項目です。

次は8月12日のCPIです

今回の株高が続く強気シナリオは、雇用の弱さが一時的で、物価も落ち着く場合です。追加利上げが遠のき、企業利益は大きく崩れない。この組み合わせなら「悪いニュースは良いニュース」が成立します。

弱気シナリオは、小売や外食の雇用減が消費減速の入口で、企業の売上・利益予想が下がる場合です。この段階では、金利低下より利益の減少が株価を動かします。

最も難しいのは、雇用が弱いのに物価が高いケースです。APの8月7日市場記事ではBrent原油を1.3%高の83.55ドルと報じましたが、清算値かは未確認なので「終値」とは扱いません。8月12日の米CPI、13日のPPIが強ければ、FRBは景気を支えるために金利を下げることも、物価を抑えるために上げることも難しくなります。

投資家として見るべきなのは、雇用者数の一つの数字ではありません。労働参加率、過去分の改定、業種別雇用、金利、そして企業利益の順に波及を追うことです。今回の最高値は「景気が強い」という判定ではなく、「利上げを急がなくてよいかもしれない」という一日の価格反応です。次の数字で意味が変わる余地を残しておくべきでしょう。

本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。