GAAP利益は48%減なのに、なぜDisney株は上がったのか?

『トイ・ストーリー5』の世界興行収入が10億ドルを超えました。大ヒット映画のニュースとしては、ここで話が終わりそうです。
ところがDisneyの決算を読むと、映画館の外で起きていることの方が面白く見えます。過去作を含む『トイ・ストーリー』のDisney+視聴は20億時間を超え、キャラクター商品の売上成長は20四半期で最大になりました。世界中のDisneyパークとクルーズ船にも同じIPが存在します。
つまり一本の映画が、配信、商品、パーク、旅行へ次々と送られているのです。
「利益48%減」と「利益28%増」は両方正しい
Disneyが8月5日に発表した2026年度第3四半期決算では、売上高は前年同期比7%増の252.48億ドル、セグメント営業利益は21%増の55.55億ドルでした。
ここで数字のねじれがあります。GAAPベースの1株利益は1.51ドルで、前年の2.92ドルから48%減りました。一方、特定項目を除く調整後1株利益は2.06ドルで、前年の1.61ドルから28%増えています。
前年のGAAP利益にはHuluの米国税務上の分類変更に伴う非現金税効果32.77億ドルが含まれ、比較の基準が高くなっていました。当期にはA+E投資の減損8.12億ドルもありました。このため、事業の方向を見るには調整後利益の方が分かりやすい面があります。
ただし「GAAP減益は無視してよい」という話でもありません。当期にも約1億ドルの関税還付があり、テーマパークやクルーズを含むExperiences部門の営業利益20%増のうち、約4ポイントを押し上げました。非GAAP指標にも、一過性要因にも、同じように注意が必要です。
映画はゴールではなく、最初の入口です
部門別の数字を見ると、Entertainmentの営業利益は64%増、Experiencesは20%増でした。一方、Sportsは17%減です。
『トイ・ストーリー5』は6月19日の公開後に興行収入10億ドルを突破し、シリーズ累計は40億ドルを超えました。さらにDisney+での視聴が増え、Consumer Products売上高は7%増えました。Disneyの強みは、同じキャラクターとの接点を映画館だけで終わらせないことです。
映画で知る、配信で見返す、商品を買う、パークで世界観を体験する。接点が増えるほど、次の接点へ送客しやすくなります。投資家の言葉に直せば、IPを複数の収益窓で繰り返し使う仕組みです。
今回のExperiences売上高は10%増でした。世界全体でおおむね数量が6%、単価が3%伸び、米国内パークの入園者数は3%増、1人当たり支出は4%増えました。客数だけでも、値上げだけでもない点が重要です。
では、Disneyは盤石なのでしょうか
弱い数字もあります。Sportsの営業利益は17%減り、会社が事前に見込んでいた約14%減より悪化しました。NBAプレーオフ序盤の短期決着や、ネットワーク配信契約を巡る紛争が響いています。スポーツは強い視聴率があっても、放映権や制作費が重ければ利益になりません。
アジアのパークも軟調で、Disneyは次の四半期も弱さが続くとみています。米国内パークでは海外客減少の逆風が和らぎましたが、消えたわけではありません。映画のヒットも毎回再現できるとは限りません。
強いIPは万能薬ではなく、ヒットをどれだけ長く、広く、利益を伴って回せるかが勝負です。
日本株では何を見ればいいのでしょうか
最も直接的なのは、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドです。同社は7月2日から9月14日まで『トイ・ストーリー5』連動イベントを実施しています。
2026年3月期のオリエンタルランドは、売上高7,045億円、営業利益1,684億円、営業キャッシュフロー1,813億円でした。一方、今期会社計画は入園者数2,800万人で1.7%増、1人当たり売上高18,712円で1.7%増、売上高も2.8%増ですが、営業利益は4.5%減る見込みです。
理由は人件費や保守費などの増加です。Disney本体がIP循環で利益を伸ばしていても、日本の運営会社ではコスト構造が違います。「映画がヒットしたから関連株も同じ方向」と短絡せず、商品売上、ホテル稼働、客単価、人件費を分けて見る必要があります。
バンダイナムコHDやサンリオも比較対象です。両社を見るときも、作品やキャラクターの一時的な人気だけでなく、玩具、ゲーム、配信、店舗、海外ライセンスへ接点を広げられているかが重要です。
次の決算で確認したい3点
第一に、関税還付を除いてもExperiencesの利益が伸びるか。第二に、Disney+のサブスクリプション収入15%増と営業利益率13%が続くか。第三に、Sportsの利益減少が止まるかです。
『トイ・ストーリー5』の10億ドルは目を引きます。しかし投資家が見るべきなのは、その10億ドルが配信時間、商品、来園、キャッシュフローへどう変換されたかです。
一本のヒットより、ヒットを何度収益化できるか。今回のDisney決算は、IP企業を見る物差しをそこへ移す内容でした。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。